第四話 勇者、計画始動。
『惑わしの森』現在も行方不明者が続出する異界の地。
朝晩問わずに森全体が霧がかったこの地では、奇妙な事件が後を絶たず帝国側としても問題視していた。
ただ、この森を抜けることに成功した者たちは、森の中である光景を見たと証言していた。その光景というのは、霧で包まれた森林の中でその場所のみ明るく日が照り、何か建物のようなものがある場所で子供たちが仲睦まじく遊んでいるというものであった。
その証言が嘘か真か調べるにも、一度森の中に入って生還出来る保証も無いため、いつしかそれは古い言い伝えの一つとして旅人たちの間で語り継がれるだけとなっていった。
「……と言うのが、人間たちの間でのあの森の認識ですが。まあ実際は、ナベリーが身寄りのない人間の子供たちを保護して教育をしているだけであって、大人の人間については記憶いじって帰してるのが真実ですけどね」
前回、勇者リコルスによる猿芝居と暴走したメデューサによって、魔王城は芝居のためだけの改築工事とバーティン含む悪魔の半分を一日石化状態にされるだけでなく、盗んだバイクで壁を突き破られるという主に金銭的に甚大な被害を被っていた。
魔王軍幹部であり城の財政管理なども行うバーティンは、石化が解けた後このあまりにも悲惨な状況を目の当たりにして絶句した。ただでさえ『空気』の魔王サタンよりも出番が少なかったというのに、それに伴い金銭面でも打撃を喰らい意気消沈していた。
「先日、あなた方が暴れ回ったせいで、彼へのアポが遅れた他にも壁の修復やメデューサが盗んで壊したバイクの修理費などで、余計な出費がかさんでるのですよ? どう責任取ってくれるんですか? サタン様」
彼の怒りの矛先は責任者でもあるサタンへと向けられる。
「俺が責任取らなくちゃいけないの!? ほとんどリコルスとメデューサが起こしたことじゃん! それにお前も結構ノリノリだったじゃん!?」
「空気のサタン様よりも出番が少なかったのですが? 空気のクセに前に出過ぎなんですよ」
「……お前も『』の中でしか、自分を出せない苦しみを味合わせてやろうか?」
対するサタンも前回は『』の中でしか自身の存在が許されないという、物語の主要人物にあるまじき扱いをされていたことを深く根に持っていた。
お互いに睨み合い火花を散らす二人を横目に、騒動の元凶でもあるリコルスは修道服を着用し祈りのポーズをサタンへと捧げていた。
「……さっきから何してんの勇者。ムカつくからやめてくんない? 悪魔に向かって祈るのやめてくんない?」
「……アーメン」
「『アーメン』じゃねえよ。なんなのホント、何でそんなに人をイラつかせることが出来るの?」
「ボクのこれは天性のものだから。生まれ持ってのものだから」
「ホントやめてくれよ。勇者辞めてくれよ」
リコルスの小馬鹿にしたような態度に、より一層苛立ちを見せるサタンと最早そんなことなど気に留めず、いつの間にか事務作業をするためデスクワークに没頭するバーティン。
魔王城内はいつになく静けさへと包まれていた。
「そういえば、メデューサはもう出発したんだっけ?」
辛気臭い空気に居づらさを感じたのか、リコルスはふと思い出したかのように、黙々と書類整理を行うバーティンへと話題を振った。
「はい。つい先ほど空間移動の魔法陣で、ナベリーのもとへと向かいましたよ」
「バーティン、ボクの渡したアレちゃんと持たせてあげた?」
「あぁ、アレですか。しっかりと持たせましたよ。そもそも今回の作戦を指揮するにも、アレがないと意味を成さないですからね」
「え? アレってなに? それに作戦のことなんて何も聞いてないんだけど……」
「「サタン(様)には言ってない(ので)から」」
「また除け者かよ!?」
サタンの知らないうちに二人は作戦の準備に取り掛かっていた。彼がそこに居合わせなかったのは、言わずもがな『居ても居なくても変わらない』という全会一致があったためだ。
「まあ落ち着けよ。ボクがここからメデュ子に向けてこの『伝令送受信機』を使い、指示を送って計画を組み立てていくって寸法だ。それ以上もそれ以下もない」
「なにそれ、計画って言うの? 違うよね?」
そう高らかに言い切る彼娘に対して『本当に任せて大丈夫なのか?』と、サタンは不安を隠せないでいる。というのも、前回同様に基本リコルスが指揮する作戦については、本来敵である『勇者』という立場であることから失敗については、彼娘を手違いで攫って来たサタンが責任を問われることとなっている。
「言っとくけど、あの姫様たちに常識とか通用しないからな? その場で作戦組み立てていかないと失敗するよ? つかそのためにまず、メデュ子の臆病な性格を矯正したんでしょ?」
まあ、ぶっちゃけ、失敗したんじゃね? とも思ってるけど。
「あれは矯正出来ているんですかね? 確かに前に比べ普通に話すことが出来るようになってましたが。いろいろと問題の方が多くありませんか? 自分でも失敗してると思ってませんか?」
「思ってナイヨ。」
やっべ、思考読まれてる?
「もしもの時は、また暴走させて自爆してもらおうかな?」
「……勇者、友達なんじゃないの? 美少女には優しいんじゃないの?」
「計画のためなら、ボクの踏み台として死ぬのも止むを得ないと思っている」
「こいつ、マジやべえな」
「本当にビジュアル以外は汚いですね」
「外面だけ良ければ、内面なんて二の次でしょ? 大手企業だって顔面採用するだろ?」
「それは偏見じゃね?」
ーージリリリリリリリリリーー
勇者たちがいつものくだらない絡みを繰り広げる中、部屋中に『伝令送受信機』の受信音が鳴り響く。
バーティンは小さく笑みを浮かべ受信を受け取ると、二人に対して静止するようジェスチャーを投げかける。それを察したリコルスたちも一度会話を止め、受信を受け取っているバーティンへと視線を移した。
「…………朗報ですよ、お二人とも。当初の予定通り、姫パーティが『惑わしの森』へと入ったそうです」
勇者リコルスと魔王サタンは不敵な笑みを浮かべる。
「フッフッフ……ボクの森へようこそ。これから姫パーティを可愛いがって進ぜよう」
「……いつからお前の森になったの!? それとそのセリフは悪魔が言うんだからね!?」
「ぶっちゃけ、リコルス殿の方が魔王の器あるんじゃないんですかね?」
「それ俺の目の前で言うか!?」
「むしろサタンの前だから言ってるんでしょ」
「ほんっとムカつくよ!」
ーー『惑わしの森』にてーー
勇者リコルスの救出のため最短ルートで魔王城へ向かう姫フェリシ率いるパーティは、惑わしの森に入り出口までのルートを探索していた。
通常、惑わしの森は一度入ると二度と戻ることが不可能だと言われているが、それは表向きの情報で実際には魔王軍の魔族たちが魔王城の方向へ進路を進んでいる姿が発見されており、秘密裏にその調査を行っていたドカルテルア帝国の視察団により脱出ルートが確保されていた。
パーティはそのルートを示すため隠された目印を探索して、どこを進んでも何一つ景色の変わることのない森の中を彷徨っていたのである。
「……ぜんっぜん、見つからないんだけど……」
出口の見えない森を歩き続け疲労が蓄積されたのか、フェリシは肩で呼吸をするようになり息も荒げていた。
「出発時には国の情報屋から、ルートが記された地図をいただいていたんですけどね」
「ちっとも地図と一致しませんね~?」
すでに森に入ってから数時間ほど経過していたが、一向に地図に記された通りの目印を見つけられずにぐるぐると同じ道を回っていた。
途中『方角が合ってないのでは?』と方位磁石を取り出したが、方角を指し示すはずの指針はひたすらに回転するばかりで使い物にならない。八方塞がりであった。
「クソが、あの情報屋ガセネタ掴ませやがって……帝国に戻ったら絶対にシばく!」
姫フェリシはリコルスと幼少期を共にしただけあり、彼娘に引けず劣らず口が悪い。普段は一国の姫という立場もあるため、なるべく乱暴な言い方をしないよう彼女なりに気を遣っているのだが、油断するとすぐに暴言を吐いてしまうのだ。
「姫様~? 女の子が『クソ』とか『シばく』なんて、あんまり言わない方がいいですよ~?」
「分かってるって……」
「でも地図は更新されたばかりみたいですからね。あの情報屋も帝国軍が頼るらしいですし、『ガセネタ』の可能性は低いのでは?」
数時間同じ場所を延々ループしていたせいか、フェリシのストレスはどんどんと溜まっていき、ついには地団駄を踏み始める始末であった。
シリウスとアナスタシアは興奮する彼女を落ち着かせようとするが、それすらも聞き入れず地団駄を踏む動きはさらに荒々しくなっていく。
「じゃあ何でこんな何時間も同じ道回ってんのよ!! 景色変わんないし! 目印無いし! 何も出ないし!」
「それについてはよく分からないですね。元々この森については謎が多いですし、一部では魔王軍の領土であるなんて話しも出ていますが……生還した人たちからは魔物といった類が出たなんて話しは聞きませんから」
「あー! もー! 最短なんてやめて、迂回して行けば良かった! むっきーーーーッ!!」
「姫様~? 落ち着いて~?」
森の中は常に霧で覆われて薄暗いため、今が昼なのか夜なのかといった時間感覚までが狂っていく。
フェリシたちは完全に『迷い人』となってしまっていた。
「もういっそ姫様の『英雄の剣』で森全体を薙ぎ払う、というのはどうでしょうか?」
「いいですね~? 私は賛成ですよ~?」
「いやダメだろ!? それ『勇者の仲間』としてどうなのよ!?」
「でも~あの人ならやりかねないですよ~?」
「リコルスさんの場合は無言で剣を振り下ろすと思うよ」
フェリシも二人の言うことについては反論出来なかった。リコルスが人徳の無い外道であることは、幼い頃から共に時を過ごした彼女が誰よりも理解していることだ。
特に彼女は幼少期からよく日常的に落とし穴や触るとシビれる罠などを仕掛けられたり、罪を擦り付けられたりとリコルスから一方的に攻撃を受けていた。そんな生活を続けていた成果もあってか、気付けば国の中でもトップレベルの強さを誇る騎士へと成長していた。
しかしそれが、ひとえに彼娘のおかげでもあるのは、本人にとっては多少なりとも虫唾の走ることなのも事実であった。
「……確かにアイツならやるかも、だけど! アタシはこれでも帝国の『姫』のとして立場があるし! そもそもまだ森には、生還出来ずにいる人たちがいるかもしれないんだから! そんな非人道的な行いはしない!」
アイツと同じことなんて絶対にしたくない! 絶対に一緒にされたくない!
「今の状況としては逆ですよね。リコルスさんが『姫』として魔王に囚われているのですから」
「元々~姫様は~『勇者』としての素質が~一番ありましたし~? 今の~状態が~正しいのかも~?」
「……わりと傷つくのよ、アタシも」
天真爛漫な性格で昔から男の子の集団に混じったりして遊びや剣の稽古をしていた姫であったが、根っこのの部分では女の子らしい遊びや服装をしてみたいなどの願望も持っていた。
自身の女としては乱暴な態度や言葉遣いなどにより、そういったことには興味が無いフリをしていたが、実際は幼馴染で『オトコの娘』であるリコルスのように周りに感化されない自由な生き方をしてみたいと思っていたのだ。
「……はぁ~、リコルスがちょっと羨ましい、かも」
今思うとアタシもそんなにお姫様扱いなんてされたことないな。昔からアイツと一緒にいると、自分が女の子として見られること少なかったもんな。
「何してんだろ……」
一切霧しか見えない空を見上げて、彼女はふっと溜息を吐くと、自嘲気味に笑みを浮かべていた。
森の迷宮に翻弄される三人をよそに、リコルスたちの作戦は静かに進行していた。
フェリシたちが森に入った段階ですでに作戦は始まっていた。実は帝国の視察団が残した目印はすでに悪魔たちによって消されており、また森の中についても彼女たちが入った時から『森の精霊』たちの力によって常に進路を書き換えられて行く魔法をかけられていたため同じ場所をループしていたのだ。
ここまで全ての指揮を執っていたのは、この森を支配する悪魔『ナベリー』によるものだった。
「せ、先生、指揮は、じ、順調、です」
「ウム! 報告感謝しますぞ! メデュ子殿!」
メデューサ改め『メデュ子』は勇者の作戦実行のため、魔王城からの派遣で彼のもとへと一時的に配属されていた。
「あ、あの、『メデュ子』は、恥ずかしい、です」
「なんと! メデュ子呼びの方が萌えますぞ! 新鮮味があって良いではございませぬか!」
「も、萌え? です、か? よく、分からない、です」
「メデュ子殿! 貴方は非常にナイス萌えであるのですぞ!? 恥じらい、イイ! 丸眼鏡、イイ! 平均下の身長、イイ! 小ぶりな胸、イイ!」
「え、え? こ、こわい……」
ナベリーは『ロリコン&ショタコン』という変態的な趣味を持ちながらも、森の奥深くに経営する学校の教育指導を務めるという現代社会では必ずPTAに淘汰されるであろうロリショタコン悪魔であった。
今回この地に『メデュ子』を送り込んだ勇者の策略の一つとして、彼女のような小柄で大人しい少女をナベリーのもとへ配属させれば必ず作戦の打診をするだろうと見込んでのこともあった。
『ナベリーお前、メデューサに変なことすんなよ? PTAは見ていなくても俺たちは見ているからな?』
メデュ子の持つ小型の受信機から聞こえてきたのは、魔王城に滞在する魔王サタンのものだ。
遠く離れた距離からでも連絡のやり取りを行い、作戦の実行に当たれるようにと勇者リコルスが渡していた。
『やっぱり、魔族って変態しかいないんだな』
『待て誤解だ! ナベリーみたいな変態は一部でしかないから!』
『まともな悪魔もいるんですけどね』
まともな悪魔はまともさ故に小心者で頼りないサタンの指示に従うはずはなく、彼が動かせる悪魔のほとんどは変わり者ばかりが多い。
「ほう! 噂に聞いておりましたぞ! 勇者殿! サタン様に『姫』と間違われて囚われたと! さらにとても美しい美貌の持ち主でもあると!」
『そーだよー、この魔王が間違えたんだー。それとボクのことは『リコルス』でいいよ』
『アホ言うな!』
『サタン様、事実と異なることをおっしゃるのはどうかと?』
『お前ほんと最近俺の味方しないよな!?』
バーティンは前回の件以降、出番が少なかったことをかなり根に持っている。そしてその飛び火は、主であるサタンへと向かっていた。
「リコルス殿! 美しい名であられますな! ぜひ一度『生』のお姿を拝見したい限りであります!」
ナベリーの『生』という言い方が想像以上に気持ち悪かったのか、リコルスは受信機の向こう側で小さく震え上がっていた。
『……なにこの悪魔、ちょー怖いんだけど。さっきから寒気止まんないんだけど』
『ロリショタの変態だって言ったろ?』
「御幣を生む呼び方はよしてくださりませんか! 我はロリコンでもショタコンでもありませぬ! ただ『萌え』を追求するだけの一教育者なのであります!」
高らかに変態宣言する森の主。
『萌えを追求する教育者なんていないし、いたとしてもPTAに淘汰されるわ!!』
『ボクをその萌えカテゴリーに入れるなよ。マジでキモイから』
全力でそれを嫌悪する二人。
「辛辣!! 萌えますぞ!!」
罵詈雑言に怯むことなくむしろ萌えあがるナベリーに対して、隣で待機しているメデュ子及び魔王城サイドはこれ以上無いほどにドン引きしていた。
『『……キッモ……』』
ナベリーの変態具合が伝わったところで、リコルスは作戦の説明へと入った。
今回、この作戦で重要視されるのは彼の受け持つ学校内に姫フェリシたちを招き入れ、そこで生徒の一人として『メデュ子』を接触させることだ。
彼女の容姿は一般的に見ても、悪魔としての特徴が眼鏡を外した時の『裸眼』くらしか無く、それ以外は眼鏡さえかけていれば普通の人間の女の子にしか見られないため、この人間の子供たちが多く在籍する学校内で一人の生徒として違和感なく溶け込めるというのが大きな利点であった。
「フム! 確かにメデュ子殿は外見だけなら悪魔としては見えませんな! 私の受け持つ子供たちの中にも、容易く溶け込めるでしょうぞ!」
『ナベリー、お前にはまず姫様たちを学校内におびき寄せ、自身の生徒の一人として学校生活を送らせてもらう。丁度あの三人も今頃、あの霧の中を長時間延々と迷い続けているおかげで、思考能力が低下し『幻術』にもかかり易くなっているだろ? 三人とも根元は馬鹿だから、ここまでは簡単に実行出来ると思うよ』
『お前けっこうガチで攻めに来てるのな?』
『本当に仲間だったのですか?』
『ボクが金を稼ぐためには、まず姫様と今のポジションを入れ替わらなくちゃならない。そのためにはどんな手段も厭わないと言ったろ?』
彼娘が割と本気で自身の仲間たちを落としに来ている姿を見て、サタンたちは正気を疑っている。
「でも、生徒に、なって、生活を、送るって」
「リコルス殿は姫たちを生徒にして、どうなさるおつもりですかな!」
その質問を待ってた、と言わんばかりにリコルスは悪魔も引くほどの不敵な笑みを浮かべた。
『決まってるだろ? 何で前回話しの半分くらい使って、あんな芝居をしたと思っている? それも学校を舞台にして……』
『……いや分かんねえよ。勇者の趣味なんじゃないの?』
『ポンコツ魔王は黙ってて』
『ポンコツじゃねえよ!?』
『いやポンコツでしょうに。嘘はダメですよ、サタン様』
どうやら彼娘は、またもやファンタジー路線から青春モノへ改変を行い何かを企んでいるようだった。
サタンは「またくだらないことを」と呆れた様子に、一方のバーティンはまた魔王城の予算に打撃が無いかと心配をしているが、そんな二人の心中を察しているのかいないのかリコルスの作戦は始まって行くのであった。
『期待しているよ! 二人共!』
「お任せあれ! 萌えますぞ!」
「は、はい! がんばり、ます!」
ーーその頃、絶賛『勇者』の仕掛けた作戦に惑わされていた姫たちはーー
「…………疲れたなぁ」
「…………疲れましたねぇ」
「…………ですね~?」
最早歩くことすら諦め、三人とも仰向けになって霧がかった薄暗い空を見上げていた。
森に入ってから一体どれくらいの時間が経っているのか、時間の感覚すらも鈍くなってリコルスの思惑通り思考能力も低下していた。
「…………もうさ『英雄の剣』使って、この森薙ぎ払ってもいいかな?」
「…………いいと思いますよ」
「…………賛成です~?」
人間誰しも不安と恐怖が入り混じったこの状況下で、長時間も薄暗い森に滞在し続ければ必然的に考えることを放棄してしまうのも止むを得ないだろう。
「…………マジでやるよ? もちろん何か言われたら、連帯責任だよね?」
パーティの中で最も正義感の強いフェリシも、さすがにこの絶望的状況に置かれては正常な判断など出来るはずもない。
「いや、この場合リーダーは姫様なので姫様が責任を負うのが当然です」
「何でそういう時だけアタシに責任押し付けんのよ!? このままじゃ皆で共倒れだよ!? 少しは助け合おうよ!?」
「自分、武闘家なものでして……」
「どういう理屈だよ!? 今は職業関係ないでしょ!?」
「ありますよ! 姫様は『姫』なのでいざという時は民の分まで責任を負う必要があります!」
「こんな時だけ『姫』扱いすんなよ!? 知ってるんだかんな! お前が裏でアタシのこと『金髪だけが取り柄の地味ゴリラ』って言ってんの!! アタシの情報網ナメんなよ!!」
一見ガサツで周りからの声など気にも留めないように見える彼女だが、実はかなり自身の評価について気にする性格であり、王室御用達の情報屋を雇って周囲からの自分に対する評価を収集しているという、いわゆるゴールデンの番組で大御所にタメ口を使っているが楽屋では敬語で謝罪するなどをして番組終了後にネットで自身をエゴサするタレントみたいな面倒くさい一面を持っているのだ。
「大体、金髪だけってなんだ!? アタシの需要は金髪しかないのか!?」
「いえ、姫様には何も需要なんてありませんよ?」
「よ~し、森の前にシリウスまずはお前から薙ぎ払ってやるよ?」
長時間ストレスを溜め込んでいたせいか、二人とも互いに罵り合い言い争いを始める始末。
フェリシたちは絶体絶命の危機的状況にまで追い込まれていた。
そんな中、アナスタシアは森の奥から一筋の小さな光が差し込んでいるのを見つけ、フェリシとシリウスの言い争いを制止に動いた。
「二人とも~? ちょっといいですか~?」
「「なに(何ですか)!?」」
「あの~、奥からなにか、光みたいなもの~? 見えるんですけど~?」
「た、確かに……うっすら何か光は見えるわね?」
「……出口、とかですかね?」
あまりにも景色が変わらない道を長時間歩っていたため、三人共周囲の環境の変化に気付くことが出来なかった。フェリシたちは改めて周りを確認してみると、これまでと違い木々が少し開けて奥へと道が続いていることに気付いた。
「ここにいても、お互い喧嘩するばかりですし~? 進んでみませんか~?」
「まあ、実際喧嘩になりかけていたものね。同じ場所にいても何も解決しないし、奥まで行くしかなさそうね」
「自分も賛成です。地図もあてになりませんし」
「でしたら、奥に向かって行ってみましょ~?」
警戒しながらもどのみち他に行先が無い三人は、奥から差し込む怪しい光に導かれて先へと進んでいった。
奥へとゆっくり進むにつれて光はより眩しくなり、三人をまるで招き入れるかのように大きく広がっていく。
「シリウスさっきの件、うやむやになると思うなよ?」
「……チッ」
「舌打ちした!? 少しは悪びれろよ!?」
「は~、先が思いやられます~?」
やがて三人は光に包み込まれるように、森の奥深くへと姿を消していった。
勇者と悪魔たちによる罠が仕掛けられているとも知らずに。
「作戦を決行しますぞ! メデュ子殿!」
「は、はい!」
果たして森の奥深くに佇む学校では、一体どんな恐ろしい仕掛けが待ち受けているのか。勇者リコルスと悪魔メデュ子は、姫を誘拐することが出来るのか。
次回へと続く。
『クックック。せいぜいもがき苦しむがいい……』
『悪役がハマってきましたね』
『気を抜くとコイツが勇者っていう設定忘れそうになる』
『私もサタン様が魔王だという設定忘れました』
『忘れたの!? 忘れちゃダメだろ!? 俺の立場がなくなる!!』
『サタンに立場なんて元からないだろ』
『早く! 早く、本物の姫と交換してくれぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』




