第二話 魔王、頼りない。
「勇者リコルスが魔族軍に攫われただって!?」
勲章授与式の式典の最中、帝国軍城内は慌ただしく兵士が駆け回っており、姫率いる勇者パーティは王の元へと招集されていた。
城内に祭りの時のような賑やかさは最早無く、全員がパニック状態となりすぐさま式典は中止となっていた。
「お父様、どういうことですか!? リコルスが攫われるなど……それもドカルテルア帝国の中心たるこの城の中で!」
広い王室の中に声がこだまする。
「落ち着け、わが娘よ。正直言うと私も驚きを隠せないでいる。だって、帝国最強の魔術師がアンチ魔法のバリア張ってたんだよ? パパびっくり」
「急に素にならないでください。マジキモイ」
「……これが反抗期かッ」
王とやり取りを交わすのは、帝国の王女であり実の娘でもある姫フェリシである。
リコルスとは幼少期からの幼馴染であり、現在では共に魔王を打倒する仲間の一人として活躍している。
「しかし、あの防御壁を破って瞬く間にリコルスを攫っていくとなると……」
「……犯人は魔王ということですか?」
「それ以外には考えられないだろうな。物語の巻き的に」
「巻くなよ」
だが魔王の計画が誤算であることは、この時点でもほぼ明確であった。
「まあでも、英雄の剣はここにあるからね」
「これからは姫様をリコルスさんの代わりとして、冒険の旅に向かいましょ~?」
そう話すのは、勇者パーティのメンバーである武闘家エルフと僧侶吸血鬼の二人だ。
武闘家エルフ『シリウス』は細身のマッチョで、物理系攻撃よりも魔法攻撃が得意なスタイルの好青年風の性悪男子である。
僧侶吸血鬼『アナスタシア』は勇者にも引けを取らない美少女であるが、魔術に長けた才を持つ他に吸血鬼特有の多量の魔力保持や体力の吸収攻撃を得意としていて、少しサディスティックな性格も併せ持つ。
「勇者が攫われたっていうのに、みんな偉く冷静でいるよね……」
「だって正直、うちのメンバーで一番強いのって姫様だし……それに英雄の剣もこちらにあるから問題ないじゃないですか」
「いや『勇者』攫われた時点で問題だよね?」
「どうせ、いつもの女装趣味を満喫してるとこ拉致られたんじゃないんですか~? それにあの人ずっと自分のこと『美少女』だって豪語してますし~? 念願の姫ポジション確立じゃないですか~?」
「アタシが姫なんだけど!?」
「ですが、ビジュアル的にはリコルスさんの方が姫っぽいですよね」
「娘よ、それは私も思っていた」
「身内は否定してよ!?」
彼娘が女装趣味の変態であることは、仲間たちにとっても常識の範囲内である。
そして人望がない!
「正直、帝国軍の立場から言っても、今回の拉致騒動についてはかなりの痛手だ。世間的にも『え、帝国の警備ざるじゃない? 所詮は伝承頼りの国ね』などと言われかねない」
「事実だものね」
「…………とにかく言われかねないのだ!」
「王様、汗すごいですよ~?」
帝国領内で『勇者』が攫われたとなれば、帝国の警備を疑問視される他にも英雄の剣に選ばれた勇者の立場も危うくなる。それは必然的に勇者パーティも同じ立場に陥ることになる。
つまり回り回って皆が不幸になるという、負の連鎖が起きかねない状況でもあった。
「まったく、面倒ごとを起こしてくれますね、かれーー彼女も」
「そんな無駄な気遣いはしなくてもいいですよ~? 本人いませんし~?」
「はぁ~、魔王の討伐に加えて勇者の救出って……アタシの立場は普通逆じゃないの?」
「姫様だったらその場で攫われずに、魔王倒していたかもしれませんね」
「……どういう意味?」
「そのままの意味だと思いますよ~?」
「そのままって……もういいや。それにしてもアイツーー」
「「「夢叶って良かったなぁ」」」
勇者リコルスがお姫様になりたがっていたことも、パーティの中では誰もが知る常識の一つであった。
こうして姫パーティは、魔王討伐もとい勇者救出の旅に出ることとなる。
当の勇者本人が『姫様拉致計画』を企てているとも知らずに……。
ーー魔王城『会議室』ーー
「バニーコスだぜ!! ヒャッハー!」
「世紀末ですか? 世紀末ですよね?」
バーティンは遠い目をしながらも、走り回る彼娘の制止をしていた。
姫パーティが帝国の将来について頭を抱えている最中、時を同じくして勇者リコルスは際どめのバニーガールのコスプレをしていた。
際どめのバニーガールのコスプレをしていたのであった!
「なんだよサタン~、結構いいもん持ってるじゃんか~」
魔王城でもまさかこんな衣装があるとは、正直冒険しているよりもこっちのが楽しいかもしれないな。
リコルスは早々に魔王城での生活を楽しみ始めていた。
「勘違いするな! それは俺の部下の私物だ!」
「部下の私物って……サタン様の部屋から持ってきませんでした?」
「ちげーから! 部下に預かってと言われたから、持ってただけだから!」
「部下にロッカールーム扱いされる魔王ってどうなの? ほんと威厳ないな」
「サタン様めっちゃナめられてますからね。笑えますよ?」
「お前ら、言いたい放題だな!? てかバーティンはフォローしろよ!」
ドカルテルア帝国から勇者リコルスを拉致した魔王であったが、実際はビジュアルが良いだけのゴミクズ女装癖の変態で、英雄の剣も持っていないというとんだハズレくじを引いた有り様であった。
「……つーかリコルスお前、股どうした? 一応まだついてるんだろ? なんで妙にまっ平なんだ?」
『どうでもいいところに着眼点を置くよなこの人』と言いたげな面持ちでバーティンは溜息を吐いた。
「なんだサタン、ボクのことを『男』だと言いながらも、そんなところに注目するなんて……ほんとはボクのこと好きなんだろ?」
「んなわけあるか! そんな恰好してたら普通目立つだろ!」
「サタン様、ソッチの気もあったのですか? それなら今回の拉致は大成功じゃないですか! 祝杯を挙げましょう!」
「ボクはこいつと一緒になるのイヤなんだけど? 姫様で手を打ってくれない?」
「勝手に話しを進めるなぁぁぁぁ!」
彼娘が来てからいうもの、魔王の生活はとても賑やかなものになっていた。主に賑やかなのは魔王のツッコミなのだが。
「まっ、そんなに気になるなら教えてあげようかな?」
「別にそこまで気にはなってない」
「まあ聞けよ。よくレディースの娘とかがさ、巨乳を隠すために胸にサラシ巻いてるだろ?」
このお話は一部勇者リコルスの偏見が見られますが、清流のような清く美しく透き通った心で発言や思想のことごとくを透かしてください。
「……それと一緒の理論です」
「その理論だとリコルス殿は『巨〇ン』になりますね。サタン様のような繊細なお方には受け止めきれないのでは?」
「お前まだその話し引きづってたの!? 誤解を招くような言い方はやめてくれない!?」
「ボクは『巨〇ン』じゃない! 自分なりに将来を見越してサイズは最小限にとどめているつもりだ!」
「将来を見越してって、アレのサイズ調整効くのかよ!?」
「オトコの娘の身体は神秘的なんだゾっ」
「そんな不思議ちゃんパワーで済ましていいんですかね? その設定」
「設定とか言うな」
バニーガールのコスプレをし無い胸を張っているその姿は、第三者から見ても到底『勇者』であるとは思えないだろう。良くて美少女、悪くて女装の痛い変態といったところだ。
先日拉致されて来たリコルスが魔王城に来てまだ二日しか経っていないのだが、既に魔王だけは主にツッコミによる体力の消耗が著しい状況であった。
普段はバーティンがお世話役として仕え、ボケも基本その彼のみでツッコミも多くは無かったので、現在余計なのが追加された上にバーティンのボケにも拍車が掛かり、ボケの連鎖は追い打ちに追い打ちをかけヒートアップしていくのであった。
「てかリコルス『姫様拉致計画』はどうした?」
「もちろん計画は立てるよ! だがその前に使えるやつを紹介してもらおうかな!」
「リコルス殿は帝国に自分が共謀してるのバレたくないですからね。基本、我々悪魔を活用して作戦を練りたいんでしょう?」
「帝国からして見れば、まさか拉致された張本人が魔王軍と一緒に姫を拉致ろうとしているなんて思わないだろけどな」
「だからこそボクの作戦が生きるんだろ? それにアイツらの情報垂れ流したところで、拷問かなんか受けて吐いたぐらいにしか思われないだろ? こんな完璧な作戦はないね」
「悪魔より悪魔ですね」
「悪魔より悪魔だな」
完璧と言って良いのかは悩みどころだが、勇者であるリコルスが魔族軍に協力をしているというのも普通なら誰も考えはしないことなので、妙に説得力のある言い分であることは確かだった。
それ故につい先日まで敵であった魔族軍に対し、惜しみなく仲間の情報を垂れ込もうとする彼娘の姿勢にサタンたちは、ある種の恐怖心を抱かずにはいられない。
魔王城にいる悪魔は主力メンバーとなる者が中心で、基本的にほとんどの悪魔たちは魔族軍が所持する各領土に配属されている。そのため城内に滞在する悪魔は五十もいないのであった。
また本来ならその悪魔たちを束ねる存在の魔王も、小心者で頼りないなどといったイメージ(事実)が定着しているため、素直に彼の指示に従ってくれるような悪魔も僅かであった。
「作戦に参加出来そうな悪魔ですか……」
「城内の悪魔だったら暇してそうなやついるんじゃないか?」
そんな筆舌に尽くしがたい事実を知ってか知らずか、サタンが能天気に答える姿を隣で見るバーティンは『誰もサタン様を相手にしてないから、皆が暇をしていると思われているのだろうな』と彼を柔らかな温もりのある眼差しで見守っていた。
「なに、魔王城ってサタン含めニートの巣窟なの?」
「サタン様以外はわりとデスクワークとかしてますよ。私もたまにブログとか更新してます」
「ブログの更新ってデスクワークの内に入るの? てか悪魔なのにデスクワークとかすんの?」
というか、そもそもファンタジーだよね? この世界って。
「時代は『デジタル』ですから」
「ファンタジーでそういうこと言うなよ」
「つーかお前ら、何ナチュラルに俺のことニート扱いしてんだ! 作戦立てたりとかしてたろ! あとリコルス攫って来ただろ!」
「ほとんど不採用だったじゃありませんか。それとリコルス殿の件も失敗ですよね?」
「お前ほんとにダメダメなんだな……」
「うっ、うるさい!」
サタンも自身の職務を全うしようと努力はしているのだが、何せ小心者で周りの悪魔とのコミュニケーションもあまり取れないでいるために、作戦会議に参加してもほとんど発言することが出来ず、発言したしとても的外れなことを言って不採用となるケースがほとんどだ。
そういったリーダーらしからぬ言動が続いたことも、周囲から避けられる要因の一つである。
「最近暇をしているといえば、蛇っ子三姉妹とかはどうでしょうか?」
「蛇っ子?」
蛇っぽい悪魔ってことかな?
「彼女たちなら役に立つと思いますよ。次女は物静かで頭も良いので、リコルス殿の立てた作戦にも協力していただけるかと」
「候補に入れておこうかな」
バーティンの言う蛇っ子三姉妹とはその名の通り、蛇に由来する悪魔の三姉妹のことを指す。
姉妹の中でも次女のメデューサは聡明で物分かりも良く、城内でも魔王を雑に扱わない数少ない悪魔の一人である。だが物静かな性格のために存在感も薄く、サタン自身も彼女をハッキリと認識していない。
「他にもサマエルさんとかアザゼル君とかいますけど、変態ですからね」
「変態はちょっとキツイね。美少女のボクには荷が重いかな」
「変態代表みたいな勇者が言うな!」
「魔王城ってロクな奴いないな……」
魔王城にロクな悪魔がいないのではなく、魔王サタンの指示に従ってくれる悪魔にロクな者がいないのである。
「まあ確かに戦力の大半は他の領土に配置してますからね。それにこの城は魔界の辺境に位置する場所にありますから、ぶっちゃけ攻めてこられると思ってないですし」
「平和ボケ感は否めないよな」
『平和ボケしているのはサタン様もです』と言葉を吐くか迷ったバーティンだが、少し良心が働いたので胸の内に留めた。
「実際問題ですが、ド田舎に的外れなショッピングモール建てたようなものですからね。最初だけですよ、賑わっていたのなんて」
「所詮、田舎の人口には見合わない建物だもんな」
「ボクも冒険してる時によくそんな光景を見かけたな~。田舎って土地広いから同じような商業施設を複数並べるよね」
「最終的には都会の方に集客持っていかれるのにな」
「魔王城は商業施設ではありませんけどね」
作戦を練るために必要な悪魔を紹介するという話しも、いつしか田舎論争が始まり脱線していくのであった。
「そういえば作戦練るのもいいんだけどださ。姫様たちが今どこにいるのか把握してんの? 把握してるよね?」
「「あっ」」
「馬鹿なの?」
「昨日の夜、私がブログで『サタン様が姫様だと思って連れて来たの女装した勇者だった笑』と更新しておいたので、魔王軍の者にはある程度のニュアンスは伝わっているかと思います」
「お前全国ネットで俺の醜態を晒すなよ!」
「あ、追加で『美少女勇者ちゃんを汚した魔王が姫パーティの情報を求めてます笑』と更新してくれない?」
「御意」
「汚してねーよ! それとタイトルの語尾に『笑』って付けるのやめてくれない!? バーティンも勇者の言いなりになるなよ!」
「すみません、その場の流れで」
「流れで!? お前そんな流されやすい性格じゃなかったろ! しっかりしてくれよ幹部!」
「いや、しっかりするのはサタン様の方ですよ。早く自立してください」
「ぐっ、するわい!」
「……どうでもいいから、とにかく姫様の場所突き止めてくれない?」
こいつら本当に魔族軍のトップなのか?
リコルスは退屈そうに言い争う二人を傍観していた。
警備がザルな帝国もそうだが、魔王軍もトップがこんな感じでは付き従う者たちの苦労も絶えないだろう。
帝国の王も形ばかりで勇者パーティに対しても『こことあそことあっちの領土取り返してきてー』と語彙力の欠片もない、もう少し言い方を改めろと皆に思われている。
百年前の魔王と勇者が今の現状を知ったら、きっと嘆き悲しむだろう。
「姫パーティの追跡については、私の方で各魔族領土に協力を仰ぎましょう」
「おそらく帝国付近から向かってくると思うから、まず始めは『惑わしの森』あたりを進んでいくんじゃないかな?」
「曲がりなりにもリーダー的立ち位置なんだろ? 勇者だし……次の旅先とか決めてたんじゃないの?」
「知らね、面倒ごとは全部姫様に押し付けてたから」
「……英雄の剣に選ばれた以外、何も勇者らしいとこないな」
「その唯一取り柄の英雄の剣は、『姫が』持っていますしね」
「……詐欺だな」
「美少女なんだから眼福にはなるだろ? 良かったなサタン、毎日このボクがお前を慰めてやるよ」
「オトコの娘ですけどね」
「……やっぱり詐欺じゃないか」
目の前にいる美少女らしき物体が『オトコの娘』だという事実に改めて気付かされると、何か裏切られたような全身に落雷でも落ちたかのような気持ちに苛まれるサタンであった。
リコルスの話しに出た『惑わしの森』とは帝国領土の隣にある大森林のことを指すもので、日夜問わずに森全体が霧がかっておりさらに中へ入ると景色がどこまで進んでも変わらず、行方不明となる者が続出することから別名『迷いの森』とも言われている。
森を抜け出せた者が少ないことから、通常であれば大きく迂回して進むのであるが、魔界への入り口が近いということもあり勇者パーティも次の旅路の一つとして候補に挙げてはいた。
「惑わしの森に進むのでしたら彼がいますね……」
「あ~、そういえばあそこってアイツの縄張りだっけか」
「ん? なに? その含みのある言い方は?」
惑わしの森も魔族軍領土の一つであり、実は森の中に迷い込んだ者たちが行方不明になるのも二人が意味ありげに呟く悪魔の仕業であった。
「あの森には魔王城から『ナベリー』という悪魔を配属させているのですが、知らないうちに『学校』や『学生寮』なんかを建設したり、最近では『これからの時代は学歴こそが社会へ進出した時のステータスとなるのです! 戦争なんて互いに不利益を生じる無駄な争いはやめて、皆で一緒に多種多様な制服を着用し萌え……燃えるような青春を謳歌しましょう!』という始末です」
「妙に悟ってるなその悪魔。しかし、制服で萌えるのは素晴らしいじゃないか!」
「勇者は積極的に参加しそうだな。てかアイツその予算はどっから出てんだ? 魔王城からじゃないよな?」
「魔王城の予算から引き落としされてましたよ」
「あのトリ野郎!」
ナベリーは三つの犬の顔に鳥の身体を併せ持つ悪魔で、特に勉学に秀でており演説などの弁論や演説なども得意としている。
魔王城でも下級悪魔たちの教育係を務めるなどしているが、一部の悪魔からは教育者の名を借りた『ロリコン・ショタコンの変態』と噂されている。
「リコルス殿のことはいろんな意味でお気に召されるかと思いますよ。宣材写真撮ってもいいですか?」
そう言うとバーティンは瞬く間にスタジオセットを用意し、一眼レフカメラを構え始めた。
「なんかスゴイ寒気を感じるんだけど……。可愛く撮ってね」
俄然乗り気のリコルスは、鼻歌交じりにスキップを刻みながらセットへと向かう。
「美少女で良かったな」
「何故だろう、そう言われるとあまり嬉しくないや」
ナベリーって悪魔は何か問題でも抱えてるのか? さっきから二人の態度が妙によそよそしいんだよね。
「まあナベリーは今の時期、自身の持ち場を離れることはありませんから……しばらくは大丈夫でしょう」
「自分の配下に好き勝手やられる魔王って。命令くらい従うようにしろよ」
「サタン様頼りないですから、部下も必然的に自立していくんですよね」
「『見捨てられている』の間違いじゃない?」
てか話し聞いてる限り、完全に見捨てられてるよね。バーティンは言葉を濁していること多いし。
「君たちもうちょっとオブラートに包んで物言おうか。なぶり殺すよ」
ちなみに今の時期、ナベリーは自身が経営する学校の生徒たちの『期末テスト』を準備しているため、持ち場を離れることが出来ないのだ。
「しかし森の番人として、姫パーティの相手くらいは出来るでしょうから……『惑わしの森』を基盤に作戦を立てるとしましょうか」
「そうだね、さっき話してた魔王城の悪魔も呼びたいな」
「あぁ、メデューサならもう来てますよ」
「「マジで!?」」
「マジですよ。ずっと後ろにいたじゃないですか? てかサタン様は気付きましょうよ、部下でしょ」
「サタン様マジサイテー」
「勇者は黙っててくれない!?」
メデューサは存在感が薄く、田舎論争のくだりから実はずっと後ろで待機していたのだ。
彼女は目が合った人を石にしてしまう能力を持っているのだが同時に視力も悪いため、普段から度の入った丸眼鏡をかけて過ごしている。また引っ込み思案な性格も相まって地味な服装でより目立たないようにしているためか、魔王城で彼女の存在に気付かない悪魔も多くいる。
「……あの、バーティン様にお呼ばれして来たのですが……」
「あ、いや、ごめん。まさか後ろにいたなんて」
「……よく、影が薄いと言われるので、平気です……」
「魔族って個性的なやつ多いよな~」
「個性の塊のお前だけには言われたくないけどな!」
「魔王、今日声張りすぎじゃない? 疲れないの?」
「主に勇者のせいだよ!」
「サタン様、ツッコミだけは出来ますよね」
「『だけ』は余計だ!」
「……私、お邪魔ですか?……」
メデューサは申し訳なさそうに三人の顔を覗き込む。自己主張の苦手な彼女にとって、複数名で話す場はどうしても奥手になってしまう。
友達と二人でいる時はペラペラ話せるのに、そこから三人以上に増えてくると相槌を打つだけになってしまうコミュ障の原理だ。
そんなおどおどした彼女を見たリコルスは、魔王の部屋から持ってきたある物を手渡した。
「君、ボクと一緒にコレを着てみないか?」
「……え?……」
彼女の手に渡されたのは『セーラー服』であった。
初対面の相手に、それも先日まで敵として魔族軍と戦っていた勇者から、いきなりセーラー服を渡された上に着用を勧められるという光景に、魔王たちは『やっぱり、こいつマジもんの変態じゃねえか』とそしてメデューサは『私は一体なにを求められているのだろうか?』とそれぞれ思いを胸に抱いていた。
「君はきっと輝ける! ボクと同じ美少女になれるよ! ボクほどではないがな!」
「いやお前はパチモンだよ」
「オトコの娘ですからね」
「ぶち殺されたいのか?」
これからサタンを集中してイジるようにしよう。
妄言を吐き捨てるリコルスであったが、呆れる魔王たちを除いて彼女だけは丸眼鏡の奥から瞳を輝かせていた。
今までの人生で一度も自分にスポットライトが当たったことのない彼女にとって、例えその言葉が嘘だとしても初めて『美少女』と言われたことが嬉しかったのだ。
「……っわ、私、美少女に、なれますか?……」
「なれるよ、このボクが完璧に君をプロデュースしよう!」
「……っ! お、お願い、しますっ!……」
「喜んで! ボクはブスは嫌いだけど、美少女には優しいからね!」
「平等に優しくあれよ」
サタンの切実な思いは彼娘には届かない。
盛り上がる女子(一人はオトコの娘)を尻目に魔王とバーティンは静観を決め込んでいた。
あまり関わりたくない、というのが正直な本音であった。
「つーか計画の話しはどうすんの?」
サタンがリコルスに対し、そう言葉を投げかけると、半ば呆れたような表情で彼娘はそれに応える。
「分かってないね、君たち」
「勇者の考えなんて分かりたくもないわ」
「制服着てもらうのも、美少女にビフォーアフターしてもらうのも、別にボクの趣味に巻き込もうとかでは断じてない! 全ては『姫様拉致計画』のため!」
「勇者から私利私欲しか感じ取れないのは気のせい?」
「目、血走ってますよこの人……」
勇者リコルスはすごく興奮していた。
「話しを聞きなさいな。メデューサには計画のため、そのナベリー? のとこに行ってもらいたいのよ。そのための準備をするワケ、おわかり?」
「「理解できない」」
「でもサタンに比べたらまだマシな作戦立てると思うよ」
「それは否定出来ませんね」
「否定しろ!」
「ま、そんなワケで次回はメデューサちゃんメインで話しを進めていくから、サタンは大人しくしていてね」
「なにどさくさに紛れて俺のことフェードアウトさせようとしてんだよ!? 少しくらいは出番あるよね!?」
「サタン様マジで頑張らないと、開始早々にリコルス殿にこの城乗っ取られますよ?」
「この悪魔めッ!」
「悪魔がそれ言うのかよ……」
ということで次回は勇者リコルスとメデューサがメインのお話に。
果たして引っ込み思案の彼女は『美少女』として生まれ変わることが出来るのか?
魔王サタンは少しでも自分の出番を増やすことが出来るのか?
その運命は如何ほどに……。
「……私が、美少女……」
「ボクも美少女だよ!」
「「黙れパチモン」」




