第一話 勇者、囚われる。
その昔、先代魔王が世界を統治していたとされる時代。
人々は魔王軍率いる魔族の軍勢に対し成すすべもなく、各国を手放すまでに事態は深刻となっていた。また暴力的な統治を行う魔王軍に異を唱えていた他の種族についても、反逆者として魔王の標的となりその領地を侵されることとなる。
そんな絶望の淵の中、ある一人の人間の登場により、劣勢とされていた戦況は大きく覆ることになる。
妖精の国に眠る伝説の秘宝『英雄の剣』を手にしたものがいた。
その剣は選ばれた人間にしか手にすることが許されず、またそれを扱う者は自身の実力の有無に関わらず剣士としての才能を極限まで引き出すことが出来るものであった。
英雄の剣を手にした者は、この世に蔓延る厄災を祓う『勇者』として、魔族軍に圧倒的な力を振りかざした。
勇者は後の帝国軍を作り上げる他の種族をも引き連れ、魔王軍に制圧された領地を次々と取り戻していき、到達不可能と言われた魔王城までと辿り着いた。
そして長きに渡り世界を支配してきた先代魔王は、勇者パーティとの激闘を三日三晩繰り広げ……ついに討ち破られたのであった。
活躍した勇者パーティはそれぞれ人族と多種多様な魔族によって統治された『ドカルテルア帝国』を築き上げ、世界の基盤として各種族に対しても中立的な立ち位置で平和を維持する役割を担ってきた。
勇者が手にした『英雄の剣』については、平和の象徴を飾るものとして帝国の大聖堂にて妖精族の監視のもと保護されることとなり、世界はようやく安寧の秩序を取り戻すことが出来たのである。
それから、世界に平和が訪れて百年の月日が経とうとしていた。
平和な時代はそう長く続くことは無く、次なる魔王が誕生したことにより再び魔王軍による侵攻が始まった。
帝国軍と魔王軍による戦争は日を増すごとに激化の一途を辿り、両軍共に多大な損害を出しながらも戦況は変わることなく、いたずらに兵の消耗を繰り返すばかりであった。
だがある1人の人間によって、またしても百年前の時のように大きく戦況が変わることなる。
とある村の子供が『英雄の剣』に選ばれたことにより、再び勇者が誕生したのであった。
勇者は先代同様に仲間を引き連れて、その圧倒的な力による進軍を行い魔王軍幹部をも蹴散らしていった。
魔王軍幹部を討伐後、さらに帝国領土の一つを取り返した勇者パーティはその功績を称えられ、一度帝国へと戻り勲章授与式の式典に参加していた。
式典の参加前に祭りを楽しんでいた勇者パーティであったが、勇者は一人抜けて城へと戻り自分の趣味に興じていた。
「は~マジやってらんないよ~。本当、給与が高い以外になんも良いことないよな~勇者なんて」
勇者『リコルス』の性別は男である、が。
元々女の子のような顔立ちにサラサラの黒髪、そして華奢な身体をしているため、女性と間違われることが多かった。であるだけならまだ良かったのだが、リコルスはそんな他とは違う自分の美貌を幼少期の頃から自覚しており、自身は絶対的な美少女であるとして周囲に振舞って来た。
その光景を見た周囲の人々は「美少女っつーか、ジャンル的にはオトコの娘じゃね?」と思っていたのも今はもう懐かしい話だ。
そう、勇者リコルスはいわゆる『オトコの娘』なのである。
オトコの娘なのである!
「すぐ返り血で汚れるし、てか装備めちゃくちゃダサいし。もうちょっと可愛い装備にしろよ。あ~ひらひらのスカートとか履きたい、フリルのやつ。メイクもご無沙汰だし……」
女装も大好きなのである!
「つーか姫様アイツ、一国の姫のクセして鎧着たまま祭り行ってんのかよ。恥じらいもくそもないな、あの地味顔金髪。さっさと姫の座をボクに譲れよ。ボクのポテンシャルなら『姫』なんて余裕でやり切ってやるよ」
姫は嫌いなのである!
「昔から気品ゼロの暴力女だったし、『姫』なんて呼ばれるのはおこがましいにも程があるね」
ドカルテルア帝国の王女である姫『フェリシ』は幼少の頃から破天荒な娘として名をはせており、姫という立場にありながらも日々剣の鍛錬に励み女騎士としても活躍、素の戦闘力だけなら勇者パーティの中でもダントツ一番であった。
そんな彼女と勇者は幼少期からの幼馴染であり、帝国軍の兵隊長を務めていた勇者父の下で同じく剣の鍛錬を積み重ねた仲でもある。
ちなみにリコルスは今何をしているのかというと。
姫の衣装を試着していた。
彼娘は姫の幼馴染であるというポジションを利用してよく昔から城に出入りし、姫の部屋に入ってはクローゼットの中の衣装で一人ファッションショーを日夜繰り広げるという、常軌を逸した変態ぶりを発揮していた。
中には姫フェリシが着用したものもあるのだが『ボクは美少女であり、オトコの娘であるから問題は無い。むしろボクのような可憐な乙女に着られた方が、このドレスたちも幸せだろう?」という謎の持論を豪語するばかりで、周囲をドン引きさせていた。
「おっ、このドレス激カワじゃないか~! ワインレッドのやつもたまには着てみようかな~。ちょっと派手っぽいけど、なんか王女感みたいな、気品を感じるみたいな、い~な~。うへへへ」
変態度はより加速しているのであった。
「うっはー! めっちゃカワイイ! めっちゃカワイイよ、ボク!」
フェリシのドレスを着て興奮するリコルスは、自分の等身大が映る鏡の前に立ってヒラリヒラリと身を舞うようになびかせ、自身の趣味であるファッションショーを始めていた。
「あぁ、なんて美しいんだ……。年々経つごとに美しさが増しているのは自覚していたが、まさかこんなにも美少女になってしまうなんて……」
艶やかで指先まで通る黒髪はよく手入れが行き届いており、琥珀色の大きな瞳に長いまつ毛は整っており、肌は透き通るように白くシミや日焼けあとも無い。彼娘の『美』に対する追及と努力は、女性からしても目を見張るものではあった。
日々魔王軍との戦いで得た報酬のほとんどは『美容代』に使い、他の仲間たちが装備品や道具類などを充実させる中で、勇者だけはいつも最低限の装備と道具だけでその場をやり過ごしていた。冒険や戦闘に関してはとことんどケチであった。
「あとはこの股の間の『モノ』を撤去さえすれば完璧だ! そのためにはもっと稼がないと……」
そう、この変態女装勇者の目標は『魔王の討伐』などではない。
むしろ魔王の討伐など、どこぞの脳筋姫騎士にでもやらせておけばいいとさえ思っている。かなり本気で!
全ては真に美少女として生まれ変わるべく、魔王軍の魔物たちを肉塊にし眼前の報酬金を稼いでいくのだ!
今宵も一人ファッションショーを繰り広げる彼娘のもとに、暗闇から忍び寄る影が近付いていた。
趣味にはとことんのめり込むタイプ。それが遠征ばかりで数か月ぶりの楽しみとなれば、注意散漫になるのも必然的なものだ。
「……お前がドカルテルア帝国の『姫』だな?」
「誰だ!? ボクの神聖なる営みを邪魔する輩は!」
目の前に現れた黒い影は、背中から大きな漆黒の翼をたずさえ禍々しい瘴気を放ち、リコルスに対して『プレッシャー』を与えた。
咄嗟に身構えたが反応が遅く、瞬く間に黒い影から発動された魔法陣の間合いに入ってしまった。
「破天荒な性格と聞いてガサツな『女』を想像していたが……思ったよりも美しい顔立ちをしているんだな。まあ、ビジュアルと中身は一致しないっていうしな」
「……失礼な言い回しだな」
このボクが勇者であることを分かっていないのか? あ、今姫様のドレス着てたわ。
魔法陣は怪しい光を輝かせ彼娘を取り込んでいく。
抵抗するにも身体は金縛りにあったようにピクリとも動かないため、リコルスはただ自身が取り込まれていくのを待つのみだ。
「先代を倒したという帝国軍も、警備は存外ざらだったな。祭りで皆浮かれているのか? 戦争の最中だというのに。この部屋の警護してる兵士なんか廊下で流れるプール作ってたぞ? 胃液バラまいて」
「そいつの顔だけ覚えさせてから攫ってくんない? 帰ったらぶん殴るから」
ついに魔法陣は勇者リコルスを完全にのみ込んでしまった。
リコルスは薄れゆく意識の中『……アイツ絶対ボクのこと姫だと勘違いしてるよ』と思いながら、ファッションショーを途中で打ち切られたことに憤りを感じつつも気を失っていった。
ーー舞台は魔王城『王の広間』へと移り変わる。
「あー緊張した。普段と違うキャラ演じてすごーく疲れた」
銀髪に紅い瞳を宿らせる長身の男。
彼こそが再び誕生した2代目の魔王『サタン』である。先ほど帝国にて『姫』を攫った張本人だ。
しかし先ほどまでの魔王の威厳ともいえる高圧的な気迫はまるで感じられない。
むしろ頼りないような、情けない声を上げて「疲れた」を連呼しているばかり。
「ほんと恥ずかしかったよ! ちょっと小刻みに肩震えてたよ! もうやだよ、魔王なんて!」
「まあまあサタン様。威厳ありまくりでカッコよかったですよ。4K録画しておきました」
「マジか消せ、今すぐ消してくれ」
サタンをなだめるのは、魔王軍幹部にしてお世話役を務める『バーティン』。蛇の尾が特徴的で少々楽観的な性格である。
「にしても拉致るの意外とアッサリでしたね」
「なんか祭りやってたみたいだったよ。姫の部屋警備してたやつなんかゲロ吐いてたし」
「平和ボケしてますね。万が一サタン様が見つかってリンチされた時のために、精鋭部隊を魔法陣に待機させてたんですけど。心配損でした」
「リンチされる前に助けろよ」
魔王がジッと睨みつける「すみませーん」とバーティンは舌を出して視線をそらした。
「……というか、そもそも今回の『姫を攫う』作戦は失敗じゃん」
「……まあ想定外のことですからね。まさか……」
二人はジッとある方へ向かって視線を伸ばす。
「「勇者が女装しているとは」」
そう魔王が帝国軍から攫って来た『姫』は姫ではなく、女装していた『勇者』なのであった。
女装していた勇者なのであった!
「いや、分かれよ」
勇者リコルスは手足を縛られた状態で、不服そうに二人の前に横たわっていた。
「私の考えた『魔王様初めてのおつかい大作戦』が見破られていたとは……勇者もなかなかにやりますね」
「え? あの作戦ってそんな名前だったの?」
「来月には編集したものを全魔族領土にて放送予定です。すでにチャンネル枠は抑えてあります!」
「お前それ作戦の失敗を全国ネットで放送することになるぞ……」
「……バラエティー枠なので問題無いかと。あ、ちゃんと視聴予約及び録画予約もしておきますね」
「問題しかねえよ! あとリアタイで観るなら録画しなくてもよくね!?」
「リアタイで観た後に録画した方でじっくり反省会するでしょ!? 常識ですよ!」
「知らねえよそんな常識! そもそも放送するのを止めてくれ!」
二人は勇者が自分たちの作戦を先読みして、自ら姫の囮になったものだと勘違いをしていた。
「うるさいなぁ、このボクがあんな脳筋女の身代わりに志願するワケないだろ。分かったら、さっさと縄解いてくれない? 跡がついたらどうしてくれんの? 殺すよ」
「なにこの勇者。めちゃくちゃ口悪いよ」
でも考えてみれば、最初に会った時も一国の姫とは思えない暴言吐いてたよな。兵士に対して。
自分が美少女であると豪語して止まないリコルスにとって、ぞんざいに扱われているこの状況はかなり好ましくないよう。
苛立ちを隠せないのか「チッチッ」と舌打ちを連発している有り様であった。
「……でも身代わりじゃないとしたら、なぜ女装していたのでしょうか?」
「しかも完璧な女装だよ。俺も初めて見たとき普通に女の子だと思ったもん」
「いやサタン様はもうちょっと顔見て、魔族軍の手配書とか思い出しましょうよ。てか姫は金髪って言ったでしょ?」
「……緊張していて」
「これからはメモしてから出掛けてくださいね。ーーにしても」
リコルスに向き直るバーティンは深く溜息を吐く。
魔王幹部にとっても信じられないであろう現実に。手配書である程度の人相は把握していたとしても、今まで自分たち魔族軍を苦しめさらには同胞でもある魔王軍幹部の一人『ベヒーモス』を討ち取った相手が、まさか女の子の顔立ちで華奢な身体をした目の前で女装している勇者であることが。
「ボクは好きでこういう恰好をしているだけだ! 美少女なんだから当たり前だろう?」
「「言ってる意味が分からない」」
「ボクはこの世に美少女として生を受けた存在であり、本来なら勇者なんて血生臭い生活とは無縁のはずなんだ! しかし給与が高いから続けている!」
「俺も魔王として小心者とか頼りないとか部下から言われたりするけど、お前はそれよりもひどいんじゃないか?」
「私としてはどっちも名前負けしてると思います」
「「………………」」
女装好きで勝手に姫の部屋で着替えをしていたオトコの娘の勇者と、片や小心者で発言権も弱く頼りない名前だけの魔王、どちらもそれぞれの称号を語るには不十分なほどに名前負けしていた。
「とにかく! 勇者お前、美少女がどうとか以前に男だろ!」
「ふざけるな! ボクは『男』ではない! 『オトコの娘』だ! それにお金が貯まったら股のモノについては撤去する! そして完全なる美少女に生まれ変わるんだ!」
「オトコの娘の勇者なんて聞いたことねーよ! てかお前金稼ぐ目的ってその手術のためかよ! 俺んとこの幹部は手術代のために討伐されたの!?」
「当たり前だ! それ以外にナニがあるんだよ!」
「せめて世界平和のためとかにしろよ!」
魔王たちは本来あるべき勇者の像と現実の落差にひどく狼狽していた。
小心者の魔王サタンも自分の部下たちの頑張りによって、徐々に魔族の長として少しずつ自身の立場というものを重んじるようになってきたのであったが、それも今となってはモチベーションがかなーり低下していた。
「こんな変態が勇者だったなんて……」
「ま、まあ何にせよ、勇者が帝国軍で英雄の剣を振るっていたら、我々の軍は甚大な被害を重ねるばかりだったと思うので、結果的に勇者と英雄の剣セットで攫って来たのは良かったじゃないですか……」
「え? ボク今、英雄の剣持ってないよ?」
「「は?」」
「あ、あれ? あなたの腰に見えるその柄は英雄の剣では? 魔族といえど、さすがに伝承にまで細かく描かれる剣ですから見間違うハズは……」
「ん? これは祭りくじの残念賞で貰える『英雄の孫の手』だよ」
「「英雄の孫の手!?」」
リコルスは城に戻る前に仲間たちと祭りでくじ引きをしていた。そして残念賞で孫の手を貰っていたのである。
英雄の剣は姫フェリシに荷物持ちとして預けていたのであった。
「うわ! ほんとに孫の手だ! 紛らわしいわ!」
「というか何で、こんな柄だけ超リアルに再現されているんですか!?」
「剣だと危ないからって孫の手にしたんだって、柄の部分は職人のこだわりによりハイクオリティな仕上がりになってるよ。伝説の先代勇者に敬意を表して、式典とかの際には祭りの景品として出されるんだよ」
「敬意を表してるわりに扱いは残念賞なの!?」
「まあダサイからね」
「先代勇者と職人さんに謝れよ!」
魔族軍の企ては次々と打ち砕かれていく。
例え姫と間違えて勇者を攫ってきてしまったとしても、魔族軍にとっては『厄災』となり得るほどの強大な力を秘めた英雄の剣を奪ってしまえば、ケースバイケースでこちらが有利になるだろうと甘い考えを抱いていた。しかし、それは本当に甘い考えであった。
「そしたら本物の英雄の剣は誰が……」
「それなら姫様が持ってると思うよ」
「簡単に情報バラすなよ」
ここでもう一つ甘い期待が沸き上がる。剣に選ばれた勇者が英雄の剣を持っていないのであれば、どのみち魔王軍に及ぶ被害は抑えられると考えるバーティンであったが。
「あ、ちなみに英雄の剣って、一緒に『女騎士』として旅してた姫様も使えるからね?」
「「なんで!?」」
本日、三度目の失意のどん底へと突き落とされる瞬間であった。
「あの伝承にある選ばれた人しか使えないってのも本当だけどさ、先代勇者の末裔でもある脳筋女も一応勇者補正かかってるから使えるよ」
「なにそのガバガバな設定……」
「しかもアイツ、素の戦闘力ならぶっちぎりでボクよりも強いから……英雄の剣なんて持って戦場に行ったら一瞬で肉塊にされるよ?」
むしろ、あそこにいたのがボクで良かったよな。もし姫様だったら、この程度の魔王は消し炭にされていただろうな。
その言葉を聞いて震えあがる二人に対し、彼娘はさらに提案をすることに。
「まーそうなると、大金を稼がなくちゃいけないボクにとってもマズくてさ……おそらく姫様率いるボクの仲間たちはココまでボクを救出に向かうと思うんだけど、そのまま救出なんかされちゃったらロクに報酬なんて貰えないんだよね、きっと」
「それはそうだろうな……というか普通は立場逆じゃね?」
「絶対的な美少女であるボクにとっては、これが普通なんだよ!」
「いやアブノーマル代表が普通を語るなよ」
「サタン様、ここ数時間でツッコミ役に収まりましたね」
「そんなワケでボクからの提案なんだけど……姫様のこと拉致ってボクと取り替えてくんない?」
お前は本当に勇者なのか? そう喉まで言葉が出かかったのだが、硬く口を閉じた二人だった。
「大丈夫! 姫様強いけど、いろいろ弱点とか知ってるし! 他の仲間たちの情報も教えるから!」
「「お前は本当に勇者なのか!?」」
我慢出来なかったようだ。
「お前今まで一緒に戦ってきた仲間のこと売るとか! 人としての情は無いのか!?」
「情があっても金が無かったら、手術なんて出来るワケないだろ?」
「お前の仲間はソレ以下か!?」
リコルスの外道っぷりに、さすがの魔王もドン引きせざるを得ないでいた。
こんな外道が今まで勇者として、その地位を利用し魔族を屠りながら大金を稼いできたのかと思うと、自身の表情がみるみる青ざめていくのが見て取れる。
「私、悪魔ですけど。自分以上に悪魔してる人見るのは初めてです……」
「奇遇だね。俺も魔王だけど、こいつほど堕ちてはいないと思う……」
「とにかく姫様拉致って剣を取り上げれば、魔王サイドは今以上にボコられなくて済むし、ボクならイイ感じに報酬入るよう手加減して戦えて、尚且つ手術代も滞りなく稼げるし……両者万々歳じゃん!」
「両者っつーか、ほとんどお前が得してるっていうか、お前しか得してないだろ!? こっちは結局ボコられるんだし!」
「半殺しくらいにしとくからっ」
「手加減しても半殺し!?」
バーティンは眉をひそめ一瞬悩むも「仕方ない」と肩を落として、彼娘の縄を解きにかかる。
「確かに今のあなたには我々に対し、危害を加えるような敵意は感じられませんし……それに今よりも戦況が傾くのはこちらとしてはかなり不利になりますからね。ここは勇者の言う通りに、姫を拉致ってトレードする他なさそうですね。魔王様も帝国までもう一度、返品しに行くのは嫌でしょう?」
「……それはそうだけどさ。勇者、それも女装癖で美少女と言い張るオトコの娘と一緒に姫拉致るの計画するって、なんかいろいろと複雑なんだけど……」
「心中お察しします」
力なくうなだれる魔王を横に、ようやく縄から解放されたリコルスはドレスのしわになった箇所を丁寧に伸ばしていた。
これが勇者か……魔王たちはその光景を遠い目で見つめていた。
「あーあ、せっかくの可愛いドレスがしわになっちゃったよ」
「俺の思い描いていた魔王と勇者が並ぶシーンじゃない……」
「魔王様、ファイトです」
彼娘は天真爛漫な笑みを浮かべ、魔王とバーティンの前へと手を大きく広げる。
「改めてボクは勇者『リコルス』! リコちゃん、リコ様、リコ姫と呼んでね!」
「「遠慮します」」
「俺は魔王『サタン』 勇者と手を組むなんて、あんま乗り気はしないが……よろしく」
「私はサタン様のお世話役を務めております。『バーティン』と申します。ぶっちゃけ、サタン様よりは頼りにしてますよ、勇者リコルス」
「今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんだけど!?」
「気のせいでしょう」
かくして囚われた? 変態女装癖のオトコの娘勇者と小心者で頼りないダメ魔王による、『姫様拉致計画』が始動するのであった。
「ーーあ、一つ言い忘れてたけど、ボクがこの計画に加担していること絶対にバラすなよ? 国家反逆罪に問われるから」
「お前もう勇者辞めろよ」




