光のつぼみとおばけたち
春のまよい森は、まだ少しひんやりとしていました。
苔や小さな草の芽が、朝の光にきらきらと光っています。
コトリはふわふわの髪を揺らしながら、ゆっくりと森の奥へ歩きます。
「きょうは、光の泉に会いに行こうかな……」
泉のほとりでは、小さなおばけたちが集まって、ちょこんと座ったり、ふわふわ浮かんだりしています。
「コトリちゃん!」
ふわふわのおばけが手を振りながら、嬉しそうに跳ねます。
「おはよう。どうしたの?」
「光の粒が、森の花に届く前にまいごになっちゃったの……」
おばけの声はちょっと心配そうで、でも目はまんまるに輝いています。
コトリは泉を見つめました。
水面はいつもより少し暗く、光の粒はそわそわと揺れていました。
「じゃあ、いっしょに探そうね」
コトリがそう言うと、おばけたちはふわふわ喜びの光をまき散らしました。
森の奥に進むと、芽吹いたばかりの小さな花のつぼみが、ぽつぽつと顔を出しています。
「光の粒、こっちにおいで」
おばけたちは小さな手で光の粒をつかまえ、花のそばへ運びました。
でも、一つだけ、光に届かず震えているつぼみがありました。
コトリはそっとしゃがみ、手を差し伸べました。
「だいじょうぶだよ、つぼみちゃん。私といっしょに咲こうね」
ふわふわのおばけたちも輪になってつぼみを囲み、光をそっと集めました。
つぼみはゆっくり開き、淡いピンクの花が顔を出しました。
花の中心からは、光の粒が小さくぽうっと輝いています。
「やったー!」
おばけたちはぴょんぴょん跳ねて喜び、コトリもにっこり笑いました。
その日の午後、コトリは泉のほとりでおばけたちとあそびました。
葉っぱをふるわせてリズムを作ったり、光の粒を小さな手でつかんでふわりと飛ばしたり。
コトリもおばけたちの輪に入ると、光の粒といっしょに踊っているみたいで、心がふわっとあたたかくなりました。
日が暮れるころ、森は静かに夜の色に染まります。
でも泉の光は、淡くぽうっと輝きつづけ、花や葉に反射して森をやさしく照らしました。
おばけたちは光の粒であそびつつ、コトリと並んで座り、森の静けさと光の温かさを感じていました。
「森の光って、みんなで守るものなんだね」
コトリがつぶやくと、おばけたちはふわふわうなずきます。
「うん、だから春の森も、こうしてきれいに咲くんだよ」
月が高くのぼるころ、泉の水面に星が映り、森は小さな光の海のようになりました。
コトリは小さなおばけたちと手をつなぎ、しずかに笑います。
「春のまよい森も、やっぱりすてきだね……」
森は今日も、光の粒とおばけたちの笑顔で、しずかにあたたかく輝いていました。
花はこれからも咲きつづけ、光の粒はまた新しいつぼみに届きます。
まよい森の春は、コトリとおばけたちの小さな魔法で、やさしい命の光に包まれていました。




