泉の光あつめとコトリ
ある朝、コトリは森の小道を歩いていました。
朝露で濡れた苔の道、鳥のさえずり、木々の間から差し込む朝日。
まよい森は、いつもよりやさしく、しずかに輝いています。
ところが、森の奥へ進むにつれて、空気が少しひんやりと冷たくなり、木々の葉がざわざわと揺れる音も、いつもより小さくなっていることにコトリは気づきました。
「……あれ?」
森の奥にある小さな泉、いつも光を湛えてキラキラと輝いているあの泉の光が、まったく見えません。
泉は森の動物やおばけたち、そして木々までも照らしてくれる、まよい森の小さな光の源です。
その光が消えるなんて……
コトリの胸に小さな不安がよぎりました。
そのとき、葉っぱのかげから、ふわっと光る小さなおばけが現れました。
「……コトリちゃん、助けて……」
透明で丸い体をゆらゆら揺らし、まるで光のしずくのように見えます。
「どうしたの?」
「泉の光が、森の奥へとまいごになっちゃったんだ。ぼく、ひとりじゃ戻せない……」
コトリは小さくうなずきました。
「だいじょうぶ、いっしょに探そう!」
ふたりは森の奥深くへ進みます。
苔の道を歩くと、朝の光が木々の隙間から差し込み、粉雪のような光の粒が足元に散らばりました。
小鳥のさえずりも、泉の光が戻ればきっとまた聞こえるはずです。
やがて、森の小さな谷にたどりつきました。
そこには、光の粒がふわふわと漂い、泉に帰れずに迷っている様子が見えます。
おばけは小さな手を伸ばして光をすくい上げますが、ひとつひとつがふわりと逃げてしまいます。
「こうしよう、コトリちゃん!」
コトリは両手を広げ、光の粒をそっと包み込むように拾い上げました。
「逃げないでね。安心して、泉まで帰ろう」
光の粒はコトリの手の中で、ほのかに暖かく輝きました。
おばけも光を追いかけて、ぴょんぴょん跳ねながら森の中を走ります。
ふたりは力を合わせ、ひとつずつ、ふわふわとまいごになった光を集めていきました。
森の奥にある泉のもとへ戻ると、光は水面に落ち、キラキラと反射して再び輝き始めました。
泉の水面が揺れるたび、森全体にやさしい光が広がり、木々の葉も苔も、まるで光に抱かれるように輝きます。
おばけはふわりと宙に浮かび、嬉しそうに笑いました。
「ありがとう、コトリちゃん! 光が戻ったよ!」
コトリもにっこり笑いました。
「よかったね。森の光は、みんなのものだもんね」
その夜、森の中で、光はいつもより長く輝いていました。
ふわふわのおばけたちは泉のまわりで踊るように光を楽しみ、コトリはそっとその輪の中に入りました。
森の奥から聞こえる小川のせせらぎ、葉のざわめき、遠くの虫の羽音。
すべてが、やさしい光に包まれながら、まよい森の夜を満たしていきました。
コトリは深呼吸をして、ふと夜空を見上げました。
月と星の光が、泉の光とともに森を照らしているようです。
「森の光は、なくならない。みんなで守っていけるね」
夜のまよい森は、光の泉と小さなおばけたちの笑顔で、あたたかく輝き続けました。
森を歩くコトリの足元には、小さな光がぽつぽつと残り、まるで星の欠片が落ちているかのようでした。




