ゆきのよるのおばけ
冬のはじまりのころ、まよい森は静かに雪化粧をしていました。
細かい雪の粒が空からふわふわと舞い落ち、木々の枝や落ち葉を白く覆います。
コトリはふわふわのマフラーを巻き、手袋をはめて森へ向かいました。
「雪が積もった森、どんなふうになってるのかな……」
森の入口に立つと、木々の間から小さな声が聞こえてきました。
「うわー! 雪だ雪だ!」
まるい目のおばけ、しっぽの長いおばけ、ふわふわの毛をまとったおばけたちが、雪の上をふわふわ跳ねたり、転がったりして遊んでいます。
コトリが手を振ると、おばけたちは大喜びで駆け寄ってきました。
「コトリちゃん! 雪あそびしよう!」
「うん、やろう!」
森の奥に行くと、小さな小川が凍りはじめていました。
その上に雪がうっすら積もり、まるで鏡のように空を映しています。
コトリはころころおばけと一緒に氷の上をそっと歩きました。
「つめたくて、でもきれい……!」
おばけたちは氷の上でくるくる回ったり、手足をぱたぱたさせたりして遊びます。
そのとき、帽子をかぶったおばけが小さな声で言いました。
「雪だるま作ろうよ!」
コトリとおばけたちは雪を集め、丸い体を作り、目や鼻を落ち葉や小さな実で飾りました。
できあがった雪だるまは、小さくてまるく、森の奥でぽつんと光っているみたいです。
「かわいいね!」
コトリが笑うと、まんまる目のおばけが雪だるまにそっと話しかけました。
「ねえ、寒くない?」
すると雪だるまが、ほんの少しだけ雪を振って答えたような気がして、コトリもおばけたちもにっこり笑いました。
やがて日が沈み、森は淡い青い光に包まれました。
雪の上には月の光が反射し、小さな光の粒のようにきらきらと輝いています。
おばけたちは雪の上に座り、コトリのまわりに集まりました。
「冬の森って、ちょっとしずかで、でもあったかいね」
コトリがつぶやくと、ふわふわのおばけが小さく頷きました。
「雪があると、みんなの声もやさしくなるんだよ」
森の奥から、ぽつりぽつりと雪の結晶が舞い落ちてきます。
「見て、雪の結晶ひとつひとつがちがうんだよ」
帽子のおばけが手のひらに雪をのせ、光に透かして見せてくれました。
コトリはじっと見つめ、思わず息をのむほど美しい形にうっとりしました。
夜も深くなり、雪はやわらかく降り続けます。
おばけたちは雪の上で丸くなり、コトリの手をぎゅっと握って言いました。
「コトリちゃん、雪の夜はちょっとさみしいけど、あなたといるとあったかいね」
コトリは手をにぎり返して笑いました。
「うん、森にいると、さみしくないね」
遠くの木々の上では、雪に反射した月の光が小さな光となり、森全体をふんわり照らしています。
落ち葉や枝の間で、雪の粒がきらきらと舞い、まるで星が降ってきたみたいです。
おばけたちは笑ったり、跳ねたり、ころころ転がったりしながら、雪の夜を楽しんでいました。
その夜、コトリは森を出るとき、振り返って小さく手を振りました。
おばけたちは雪の上で手を振り返し、森の奥に小さな光の輪を残しました。
「また明日も、一緒にあそぼうね」
まよい森の冬の夜は、雪と笑い声でやさしく包まれ、森に住むおばけたちの心も、コトリの心も、あたたかく輝いていました。




