落ち葉とおばけ
秋のまよい森は、いつもよりゆったりとした空気に包まれていました。
木々の葉は赤や黄色、橙色に染まり、風が吹くたびに「サラサラ」と音を立てて落ちていきます。
森の小道には、色とりどりの落ち葉がじゅうたんのように敷きつめられていました。
ある午後、コトリは長靴を履いて森の中を歩いていました。
落ち葉を踏むと「カサカサ」と心地よい音が響き、森の香りが深く胸にしみこみます。
「秋の森って、ほんとうにきれい……」
コトリは目を輝かせ、両手で落ち葉をすくい上げました。
すると、葉っぱの山から小さなもぞもぞした影が現れました。
「わっ!」
コトリが驚くと、影はふわりと宙に浮かび、小さな顔をのぞかせました。
「こんにちは、コトリちゃん」
落ち葉でできた小さなおばけです。体は赤や黄色の葉っぱでふんわり包まれていて、頭には小さな枯れ葉の帽子をかぶっていました。
「落ち葉のおばけ……?」
「そうだよ。秋になると、森の落ち葉が集まって、ぼくたちになるんだ」
おばけはにこにこ笑って、くるくると葉っぱの上で回りました。
「ぼくたちは落ち葉の音であそぶのが大好きなんだ」
コトリはおばけと一緒に、落ち葉の小道を進みました。
風が吹くと、葉っぱの上で小さな音が重なり、森がやさしいメロディを奏でます。
「見て、こっちにも!」
落ち葉の下から、オレンジ色や黄色の小さなおばけたちが次々に現れました。
みんな、ふんわりと宙に浮かんで、楽しそうに葉っぱを踏んだり、風に乗ってくるくる回ったりしています。
「落ち葉であそぶって、こんなに楽しいんだね」
コトリが笑うと、落ち葉のおばけたちはいっせいにくすくす笑い、葉っぱを舞わせました。
「じゃあ、かくれんぼしよう!」
「うん!」
森の小道でかくれんぼを始めると、落ち葉の山や木の根元、茂みの陰に隠れたおばけたちが、くるくると姿を変えて、見つけるのが難しいくらい上手に隠れます。
コトリは葉っぱの山をかき分け、「みーつけた!」と声をかけ、みんなが笑い声をあげます。
やがて、日が傾き始め、森は橙色の光に包まれました。
落ち葉のおばけたちは、葉っぱを小さな輪に並べ始めました。
「これはね、秋の輪。森が眠る前に、色と音を残すんだ」
おばけのひとりが小さな声で説明しました。
コトリは葉っぱを並べるのを手伝い、落ち葉の輪の中に小さな光の粒を散らしました。
風が吹くと、葉っぱの輪はくるくる回り、柔らかな音を森に響かせます。
その音は、葉っぱの色と一緒に、森全体をやさしい秋色に染めていきました。
「きょうの森、ほんとうにすてきだね」
コトリがつぶやくと、落ち葉のおばけたちはにこにこ笑いました。
「コトリちゃんが一緒だと、もっと楽しいんだ」
日が沈み、森が深い紫色に包まれるころ、コトリはおばけたちに手を振りました。
「また来るね!」
「うん、また来てね!」
小さなおばけたちは葉っぱをひらひら舞わせながら、森の奥へと消えていきました。
コトリが家に帰ると、心には森の色と音、そして落ち葉のおばけたちの笑顔が残っていました。
秋のまよい森は、今日も小さなおばけたちと一緒に、しずかに、でも楽しそうに息づいているのです。




