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おばけとすずの音

 ある日の朝、コトリはまよい森の小道を歩いていました。

 鳥たちのさえずりが森に響き、風が葉っぱの間をくぐり抜けます。

 足元の苔や落ち葉を踏むと、ふかふかの感触が心地よく、小さな音がぽとん、ぽとんと響きました。

「きょうは森の奥まで行ってみよう……」

 コトリはそう思い、いつもより少し遠くまで歩きました。

 森の奥深く、木々がひそひそ話をしているようにざわめく場所に、コトリは小さな音を見つけました。

「カタカタ……カタカタ……」

 近づくと、そこには小さなおばけが一匹、木の枝の上で小さな鈴を揺らして遊んでいました。

「こんにちは、コトリちゃん」

 おばけはにこっと笑い、手を振ります。

「わあ、こんにちは……その鈴の音、きれいだね」

 おばけは小さくうなずきました。

「この森には、いろんな音があるんだよ。葉っぱが揺れる音、水が流れる音、鳥のさえずり……でも、ぼくたちはそれを集めて、森の音の宝物にしてるんだ」

 コトリは興味津々で、小さな鈴を手に取ってみました。

 振ると、「チリン、チリン」と透き通った音が響きます。

 おばけたちは次々に現れ、草や木、落ち葉の間で小さな音を鳴らし始めました。

「ここに落ち葉を置くと、風が通ったときに音がなるんだ」

「小さな木の実を転がすと、かわいいリズムができるよ」

 コトリはおばけたちと一緒に、森のあちこちで音を作って遊びました。

 小さな流れのそばでは、水の音に合わせて葉っぱを揺らし、木の枝の間では鈴を鳴らして、まるで森がひとつのオーケストラのようです。


 日が傾き始め、森はオレンジ色に染まりました。

 おばけたちは、小さな音の粒を集め、木の根元に置きます。

「この音はね、森が眠るときのやさしい音になるんだよ」

「眠るとき?」

「うん。夜の間、森の動物や小さなおばけたちが安心して眠れるように、やさしい音を届けるんだ」

 コトリはその様子をじっと見つめました。

 音ひとつひとつに、森の生き物やおばけたちへの思いやりが込められていることに気づきます。

「コトリちゃんも、やってみる?」

 おばけが小さな木の葉を差し出しました。

 コトリはそっと葉っぱを揺らし、「サラサラ……」と柔らかい音を出しました。

 すると、おばけたちは一斉に歓声をあげ、風が森を駆け抜けて音が広がります。


 夜になると、森はしずかになり、遠くで虫の声が聞こえるだけになりました。

 コトリはおばけたちと手を振り合いながら帰り道につきます。

「ありがとう。森の音、ぜんぶ覚えておくね」

「うん、また明日もあそぼうね」

 まよい森の音は、その夜もやさしく森を包み込みました。

葉っぱのささやき、風のざわめき、そして小さなおばけたちの小さな笑い声。

 それは、森に住むすべてのものに届く、小さな魔法のような音でした。

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