ささやきとおばけ
ある日の午後、コトリはまよい森の小道を歩いていました。
夏の光が木々の間から差し込み、風に揺れる葉っぱがキラキラと光ります。
足元には小さな花や苔が生え、鳥たちのさえずりが森をやさしく包んでいました。
「きょうは小川まで行ってみようかな……」
コトリは、少し奥に進むと、せせらぎの音が聞こえてきました。
水の流れる音は小さく、でも澄んでいて、森の静けさとぴったり合っています。
小川のそばに立つと、そこには小さなおばけが三匹、水の上に浮かぶ石をぴょんぴょんと渡ってあそんでいました。
「コトリちゃん、きたきた!」
ふわふわの毛をまとったおばけが手を振ります。
「ここで水あそびするの?」
「うん! 水のせせらぎを聞くと、気持ちがふわっとするんだよ!」
コトリはそっと足を水に浸しました。
ひんやり冷たくて、でも心地よい感触です。
おばけたちは水をぱちゃぱちゃ跳ねさせ、楽しそうに笑っています。
小川を少し上流に進むと、水の流れが小さな滝になっていました。
滝の近くには、葉っぱでできた小さな舟がいくつも浮かんでいます。
「これ、舟あそびしてみようよ!」
まんまる目のおばけが声を上げました。
コトリは舟に乗って、おばけたちと一緒に小さな滝の水の流れにゆられてみました。
「わあ……ふわふわする!」
舟はゆらりゆらりと揺れ、コトリもおばけたちもくすくすと笑いました。
しばらくすると、森の奥から小さなささやき声が聞こえてきました。
「……たすけて……」
コトリは足を止め、声のする方へ進みます。
すると、水辺に小さな緑色のおばけがしょんぼり座っていました。
「どうしたの?」
「川の石に乗ろうとしたら、流れに足をとられちゃって……ひとりじゃ動けないの」
コトリは手を差し伸べ、おばけをそっと抱き上げました。
「だいじょうぶ、いっしょに岸まで戻ろう」
おばけはコトリに抱えられ、安心したように小さくうなずきました。
そのあと、コトリとおばけたちは小川の周りで、水の流れる音に耳を澄ませながら、石や葉っぱで小さな橋や舟を作ってあそびました。
おばけたちは水を手ですくったり、葉っぱの舟に乗せたりして、思い思いに楽しんでいます。
夕方になると、森はオレンジ色の光に包まれ、小川の水面も柔らかく輝きました。
コトリは小さなおばけたちと並んで座り、流れる水を見つめました。
「水って、流れてるだけなのに、なんだか心が落ち着くね」
ふわふわのおばけが小さな声で答えます。
「うん、ここにいると、なんだか安心するんだ」
森の奥の小川は、今日もしずかに流れ、おばけたちの笑い声とささやき声をそっと包み込みました。
コトリは帰り道、森の緑と水のせせらぎを胸に刻みながら、また明日も小川に行こうと決めました。
まよい森の小川は、だれも急がず、だれもせかさず、ただゆったりと、やさしい時間を流していました。
おばけたちもコトリも、その流れの中で小さな幸せを感じながら、しずかに笑顔で森を後にしたのです。




