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春の小川とおばけたち

 まよい森に春が訪れました。

 冬の間、雪や霜に覆われていた小道や木々は、少しずつ色を取り戻し、緑の息吹が森に広がっています。

 柔らかい日差しが葉の隙間からこぼれ、小川の水面をキラキラと輝かせています。


 ある午後、コトリは長靴をはき、かごを肩にかけて森を歩いていました。

 小川のせせらぎが聞こえる方へ歩くと、道端にたくさんの小さな花が咲きはじめていました。

「春だなあ……」

 コトリは花を一つずつ手に取り、香りをかいで目を輝かせました。

 小川のそばにたどりつくと、ふわりとした小さな影が水面の上に浮かんでいました。

「こんにちは」

 コトリが声をかけると、水面の上に立つ小さなおばけが顔をのぞかせます。

 その体は透明で、少し水色がかっていて、髪のように揺れる小さな波が光を反射していました。

「わあ、水のおばけ……?」

「そうだよ、春の小川の守り手だよ」

 おばけは水のしぶきをふわりと散らしながら、にこにこと笑いました。

 コトリは小さな石を拾って、小川にぽちゃんと投げました。

 水面に波紋が広がり、その上をおばけがくるくると跳ねると、まるで水の上に小さな光の輪が浮かぶようです。

 やがて、小川の上流から次々とおばけたちが現れました。

 小さな水色の子、青い波のような子、透き通った泡のような子……。

 みんな、春の小川で遊ぶのが大好きで、コトリを見つけると、嬉しそうに手を振りました。

「ねえ、コトリちゃん、一緒にあそぼう!」

「うん!」

 おばけたちは水面で輪を作ったり、小さな水玉を飛ばして、空中でキラキラさせたりします。

 コトリも真似をして小川の水を手ですくい、ふわりと水の輪を作りました。

「わあ、まるで小さな虹みたい!」

 おばけたちはくるくると回り、歓声をあげながら水の輪の中に飛び込んでいきます。

 日が傾き、森の奥にオレンジ色の光が差し込むころ、おばけたちは水の上で丸くなりました。

「春の小川にはね、森の記憶が流れてるんだ」

 青いおばけが小さな声で説明しました。

「雨や雪、冬の間に流れた思い出や、小さな声、うれしいことも、さみしいことも、全部ここに集まるんだ」

 コトリは水面に映る森を見ながら、そっとつぶやきました。

「森の中には、たくさんの思い出が隠れているんだね……」


 その夜、月が小川を淡く照らし、森は静かに息をひそめます。

 コトリはおばけたちに手を振りながら、帰る道を歩きました。

「また来るね、春の小川に」

「待ってるよ!」

 小さなおばけたちは水のしぶきで挨拶をし、波の上をすうっと流れて、夜の森に消えていきました。

 家に帰ると、コトリの心には小川の水音とおばけたちの笑顔が残っていました。

 春のまよい森は、ただ芽吹く季節ではなく、小さなおばけたちと一緒に水の音や思い出を守る時間でもあったのです。

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