氷のランプとあたたかなひかり
冬が近づくまよい森は、昼間でも薄く冷たい空気に包まれています。
木々の枝には霜がつき、地面は少しずつ白く染まりはじめました。
雪が降る日も近く、森全体がしずかで、澄んだ寒さが息づいていました。
ある日の午後、コトリはふわふわの帽子をかぶり、厚手のマフラーをぐるぐる巻いて森を歩いていました。
「雪が降る前の森って、ちょっとさみしいけど、すてきだな」
足元の落ち葉の上には、霜がキラキラ光り、踏むたびに小さな音が鳴ります。
木々の間から差し込む冬の光はやわらかく、森全体が銀色に包まれているようです。
森の奥に入ると、ふわりと小さな光が揺れるのが見えました。
近づくと、それは雪のおばけたちでした。
体は透き通っていて、雪の結晶のようにきらきら光ります。
「こんにちは、コトリちゃん!」
小さなおばけたちは、宙に浮かびながら手を振りました。
「雪のおばけ……?」
「うん。冬の森の雪を集めて、夜になる前に氷のランプを作るんだ」
おばけは小さな氷の結晶を手に乗せると、ふわりと宙に浮かび、森の中に淡い光を灯しました。
コトリはそっと手を差し伸べ、落ちてきた小さな雪の結晶を受け取りました。
指先に触れると、ひんやりしているのに、どこか心が温かくなるようです。
「氷のランプ……?」
「そう。森の中に小さな光を灯すんだ。雪と氷の光で、夜の森をあたたかくするの」
雪のおばけたちは、次々と雪の結晶を集め、コトリにも手伝わせました。
ふわふわと宙に浮かぶ結晶たちは、光を反射して森全体に淡い光を散らします。
コトリの手からも光の粒が放たれ、森の中で小さな星のようにきらめきました。
日が傾き、森が薄暗くなるころ、雪のおばけたちは氷のランプを完成させました。
小さなランプは雪の結晶でできていて、森の小道や木の根元にぽつぽつと並んでいます。
ランプから漏れる光は青白く冷たく見えるのに、どこかあたたかさを感じさせました。
「わあ……すごくきれい!」
「うん。雪の結晶に光を灯すと、森の夜がやさしくなるんだ」
コトリはランプの周りを歩きながら、手に触れると光が小さく揺れるのを楽しみました。
夜になると、森はしずかに雪を降らせ始めました。
ランプの光が雪に反射して、まるで森全体が淡い星空のように輝きます。
雪のおばけたちは光の輪を作り、ふわりふわりと踊るように森を巡りました。
コトリも雪の中で足跡を残しながら、光の輪に加わります。
「冬の森って、寒いけど、ちょっと魔法みたいだね」
コトリがつぶやくと、おばけたちは小さく笑い、雪の結晶を空に浮かべました。
その光は森の奥まで届き、しずかな夜を照らしました。
夜が深くなると、雪のおばけたちは森の奥へと消えていきました。
コトリはランプの光の中で立ち止まり、胸の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じました。
「雪も、光も、森も……ぜんぶ大事だな」
コトリはそっと手を胸にあて、森で出会った小さな魔法を心に刻みました。
その夜、まよい森の雪は、今日も雪のおばけたちと小さな光でしずかに息づき、コトリの心をやさしく包んでいました。




