やさしい灯とまいごのおばけ
ある夕暮れのこと。
まよい森は、日が傾き始めると、木々の葉が黄金色に輝き、風がそっと木の間をすり抜けました。
コトリは森の奥へ、ちいさな探検に出かけていました。
ふかふかの苔の道をぺたん、ぺたん、と足音を立てながら歩くと、遠くで小さな声が聞こえてきました。
「……まま……?」
その声は、かすかで、少し震えていました。
コトリは耳をすませて、声のする方へ進みます。
すると、草むらの中に、ふわふわと光る小さなおばけの子がひとり、うずくまっていました。
体は透明で、目だけが大きく光っています。
「どうしたの?」
コトリがそっと声をかけると、おばけの子はうつむきました。
「まま……ままが、どこにいるのかわからなくなっちゃった……」
コトリは胸がぎゅっとなりました。
「だいじょうぶ。いっしょにさがそう!」
おばけの子は、ふっとほっとしたように笑い、コトリの手をにぎりました。
手はひやっと冷たいけれど、やさしさがいっぱいつまっていました。
ふたりは森の中を進みます。
木の根もとや苔むした岩をのぞき、風に揺れる葉のかげも、光の粒に見えるようでした。
すると、少し先の茂みから、もうひとりの小さなおばけが飛び出してきました。
「あっいた!」
「おねえちゃん……」
あっという間に、迷子のおばけの家族が見つかりました。
おばけの子の母親は、やわらかい光をまとい、ほっとした表情で子どもたちを抱きしめます。
「ごめんね、迷子にさせちゃって」
コトリはにっこり笑いました。
「ひとりで泣かなくてよかったね。森には、みんなを助けてくれる光があるんだよ」
そのとき、森の奥からぽうっと灯りが見えました。
小さな光の玉が、森の道をやさしく照らしています。
「……あれは?」
母のおばけが、目を輝かせて言いました。
「森の灯だよ。まよい森の、やさしい灯」
コトリとおばけの家族は、光に導かれるように森の奥へ進みました。
灯は小川の水面にも映り、草や木々に反射して、まるで森全体が柔らかく光る世界のようです。
小さなおばけたちは、光の中で手を取り合い、ぴょんぴょん跳ねながら森を渡っていきます。
やがて、森の中央にある広場にたどりつきました。
そこには、まるで灯を守るかのように、ひかりの木が立っていました。
枝のすき間に結ばれた手紙や、風に揺れる光の粒が、夜の森を淡く照らしています。
コトリは手を広げ、子どもたちと母親のおばけの間に立ちました。
「ここなら、もうまいごにならないね」
コトリのことばに、おばけの家族はふわっと光を増し、嬉しそうににこりと笑いました。
コトリはしばらくその場に立ち、森の灯りを見つめました。
まよい森は、昼は緑のやさしさで包み、夜は光とおばけの笑顔で満たされる場所。
そして、コトリがそばにいる限り、森にはいつもやさしい灯がともりつづけるのです。
森の奥で、ぽつんとひかりの木が揺れ、葉っぱのかげから小さな光の玉がひらりと舞いました。
コトリはそっと手を振ります。
「またね、森のみんな」
夜風にのって、小さな声が響きました。
「ありがとう、コトリちゃん……」
その声は、森全体に広がり、やさしく光とともにまよい森を包みました。




