かくれんぼと森の音
ある晴れた午後、コトリはまよい森の小道を歩いていました。
木漏れ日がふわりと落ち、ふかふかの苔のじゅうたんが足の裏にやさしく触れます。
森は今日もしずかで、葉っぱがささやく音と小鳥の声が心地よく響いていました。
「こんにちは、森のみんな!」
コトリが声をかけると、風にのって葉っぱがゆらゆら揺れました。
すると、かすかに笑い声が聞こえました。
「ん……?」
コトリは辺りを見回すと、小さなもじゃもじゃ頭のおばけが、木の陰からちょこんと顔を出していました。
「こっちにきて! いっしょにあそぼう!」
おばけは手を振りながら、にこにこと笑っています。
「なにしてあそぶの?」
コトリが聞くと、おばけはちょっといたずらっぽく目をかがやかせました。
「かくれんぼだよ!」
コトリとおばけたちは、森のあちこちでかくれんぼを始めました。
大きな木の根っこ、苔むした岩の陰、落ち葉の下……
おばけたちはふわりと浮かんで隠れるので、見つけるのがとてもむずかしいのです。
「みつけた!」
コトリが声をあげると、おばけたちはふわっと笑い、くるりと宙を回って逃げました。
「こっちも見つけてね!」
「うーん、どこにいるのかな……」
おばけたちは半透明なので、時々ほんのり光って見えます。
でも、うまく隠れると、まるで森の中の影と一体になってしまいました。
コトリは小さな足で、ぴょんぴょんと追いかけながら、森の奥まで進んでいきます。
森の奥に行くと、広い草原が広がっていました。
そこには、普段は見えない小さな花やキノコが生えていて、まるで別の世界のようです。
「わあ……ここにもおばけが隠れてるかな?」
コトリは笑いながら、そっと草むらの間をのぞきます。
すると、もじゃもじゃ頭のおばけが、花の後ろにふわりと隠れていました。
「見つけた!」
おばけはくすっと笑って、そっと花の上に座ります。
「コトリちゃん、ここはちょっと特別な場所なんだよ」
「え、そうなの?」
おばけは草原の奥を指さしました。
「ほら、あの大きな岩の下に、音が眠ってるの」
「音?」
コトリが首をかしげると、おばけはにっこり笑いました。
「そう。ここには、森の中の音を集める場所があるんだ」
コトリとおばけは岩の下にしゃがみ込みました。
すると、かすかに「サラサラ」「カサカサ」と音が聞こえてきます。
小さな水の音、葉っぱのざわめき、鳥のさえずり……
「音も生きてるんだね」
コトリは耳をすましながら、音の一つ一つを楽しみました。
おばけたちは楽しそうに声をあげて、音の中にまじります。
「ふわふわ~!」
「きらきら~!」
声は半透明に光って、森全体を柔らかく包みました。
夕暮れになると、森の木々はオレンジ色に染まり、風が涼しくなります。
コトリとおばけたちは、草原で最後のかくれんぼをしました。
「もう少しでみつけるよ!」
「うーん、みつかっちゃうかな……」
ふわふわと浮かぶおばけたちは、隠れるのも見つけるのも楽しそうです。
コトリも小さな声で笑い、森の中に響き渡ります。
夕日の光が草原を染め、影が長く伸びる中、森全体が黄金色に輝きました。
夜になるころ、コトリは家に帰らなければなりません。
「また明日もあそぼうね!」
おばけたちは一斉に手を振り、にっこり笑いました。
「うん、またね!」
コトリは森を後にしながら、心の中で思いました。
「森って、隠れているものがいっぱいあって、みつけるたびに楽しいんだね」
まよい森の中では、今日も小さなおばけたちがかくれんぼを楽しみながら、しずかに、でも確かに生き続けています。
そして森のあちこちで、コトリとおばけたちの笑い声が、柔らかく響きわたるのでした。