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きのこおばけとあるいた日

 ある日のこと。コトリはまよい森の小道を歩いていました。

 森の奥に行くほど、木々の枝が空に広がり、やわらかな影を落とします。

 苔の上には小さなキノコが並び、森の土の匂いがほんのり漂っていました。

「こんにちは、キノコさんたち」

 コトリがそっと声をかけると、キノコたちは揺れる葉の間から小さな顔を出しました。

 そのとき、木の影からちいさな声が聞こえました。

「……わあ……こまった……」

 コトリは足を止め、声の方を見ました。

 そこにいたのは、赤い帽子をかぶった小さなきのこのおばけでした。

 体はぷにぷにとしていて、少しうつむき加減です。

「どうしたの?」

「わたし……川の向こうに行きたかったのに、道に迷っちゃったの……」

 おばけの目はまるく、ちょっと泣きそうです。

 コトリはそっと手を差し出しました。

「だいじょうぶ。わたしといっしょに行こう」

 二人は森の奥へ進みました。

 木の根や岩を越え、小さな橋の跡を見つけましたが、橋は古く、半分壊れていました。

「ここ……渡れるかな……?」

 コトリが橋を見上げると、きのこおばけは少し震えていました。

「安心して。わたしが手をつなぐから」

 コトリはきのこおばけの手をそっと握りました。

「ひとつずつ、ゆっくりね」

 石や倒れた木をまたぎながら、二人は慎重に進みます。

 きのこおばけは、最初はおそるおそるでしたが、だんだんと笑顔が見えてきました。


 橋を渡り終えると、川の向こうには小さな広場がありました。

 そこには、森の仲間たちが集まっていました。

 丸い目の小さな動物おばけ、長い耳のおばけ、葉っぱでできた帽子をかぶったおばけたち……。

 みんなにっこり笑って二人を迎えました。

「やっと来れたのね!」

「ありがとう、コトリちゃん!」

 きのこおばけは嬉しそうにジャンプしました。

 その場には、森の小さな生き物たちの声と笑い声があふれ、まるで森じゅうが祝福しているかのようでした。

 広場で休んでいると、きのこおばけがコトリに聞きました。

「ねえ、どうして森の奥まで来てくれたの?」

 コトリは微笑んで答えました。

「だって、ひとりでまよってる子は、ほっとけないもの」

「わたし……ひとりで来られると思ったけど、やっぱり不安だったの」

「そうだよね。でも、もうだいじょうぶ。みんなが待っててくれたんだもの」

 そのとき、森の木の間から夕日が差し込み、ふたりの影がゆっくりと長く伸びました。

 きのこおばけはコトリにそっと抱きつきました。

「コトリちゃん、ありがとう。わたし、森の中でもうさみしくないよ」

 コトリは手をぎゅっと握り返し、にっこり笑いました。

「うん。ひとりじゃないもんね」


 その夜、家に帰る道すがら、コトリは思いました。

 森には見えない力や不思議なものがたくさんあるけれど、いちばん大切なのは、だれかを思いやる気持ちなのだと。

 そして、森の中でできた小さな橋のように、人の心も、つなぐことで安心できるのだと。

 まよい森の奥では、今日も小さなおばけたちが穏やかに暮らし、笑顔を絶やさず、森の影にそっと隠れながら、次の冒険を待っているのでした。

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