にじのすべりだい
ある雨上がりの朝。
まよい森は、雨に濡れた木々の葉がきらきら光り、苔の上には小さな水たまりがいくつもできていました。
コトリが小道を歩くと、木の奥にぽうっと光るものを見つけました。
「わあ……なにこれ……?」
光の正体は、空の虹のように七色に輝く、ふしぎなすべりだい。
それは、森の奥にひっそり立っていて、光の輪がゆらゆらと揺れています。
すべりだいの先端は小さな水たまりにかかっていて、滑るとぽちゃん、と水がはじけて小さな光の粒が飛び散ります。
「こんにちは!」
コトリが声をかけると、虹色に光る小さなおばけが、にこりと笑って出てきました。
体は透明で光を帯び、滑るたびに小さな星が飛び散るのです。
「いっしょにあそぼう!」
コトリは、思わず駆け寄りました。
おばけの手をとると、ふわりと宙に浮く感覚があり、虹のすべりだいの上をすべりはじめました。
「わあ!」
下まで滑ると、小さな光がぱっと飛び散り、苔や葉っぱの上で小さな星のように輝きました。
コトリは笑いながらもう一度のぼり、おばけと順番に滑りはじめました。
何度もすべるうちに、コトリは森の空気まで七色に染まっていくような気がしました。
木々の葉の間を風が通り、光の粒がふわりと舞う。
水たまりに映る虹色の光は、まるで小さな湖が光でできているみたいでした。
「見て、光が花みたいに咲いたよ!」
コトリの声に、おばけはぴょんと跳ねて喜び、滑るたびに光をはじきました。
やがて、森の奥から他のおばけたちも集まりました。
ふわふわの子、まるい子、長い耳の子。みんな、すべりだいを見て目をきらきらさせています。
「みんなでやろう!」
おばけたちは順番にすべり、光の粒を飛ばしながら、森の空気を七色の光で満たしました。
コトリは、光のすべりだいを滑りながら、ふと空を見上げました。
雨上がりの空には、ほんとうの虹がかかっていて、森の虹のすべりだいの光と重なり合って、まるで空と森がひとつになったようです。
「すごい、きれいだね」
おばけたちは、光のすべりだいのまわりで手を取り合い、笑い声を響かせました。
「ここなら、だれもさみしくならないね」
コトリもおばけたちと一緒ににっこり笑い、虹色の光の中であそび続けました。
夕方になるころ、光のすべりだいは少しずつしずかになりました。
それでも、葉の間には小さな光の粒が残り、雨上がりの森は七色の余韻に包まれていました。
コトリは森の奥を振り返り、そっと手を振りました。
「またあそぼうね、虹のすべりだいで」
その日から、まよい森には、雨上がりの朝にだけ現れる七色のすべりだいができました。
まよい森のおばけたちはもちろん、コトリもときどき訪れては、光と笑いに包まれるのでした。