表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/34

まいごのおばけとかくれんぼ

 ある夜のこと。

 月はうすく雲にかくれ、まよい森の中はしずかに息をしているようでした。

 風も止み、木々はただひっそりと揺れています。

 コトリはいつものように小道を歩き、森の奥へ進みました。

「きょうは、どんなおばけに会えるかな……」

 胸がわくわくして、足も自然に速まります。

 森の中を進んでいくと、どこからか小さなすすり泣きが聞こえました。

 かすかで、でも確かにそこにある声。

 コトリは立ち止まり、耳を澄ませました。

「だれか……いるの?」

 声のする方へ進むと、茂みの間から小さな影がちらりと見えました。

 それはまるで、ちいさな灰色の雲のようなおばけ。

 体はふわふわで、目はまんまる。泣いているように、ちいさく揺れています。

「どうしたの?」

 コトリがそっと声をかけると、おばけはびくっと体をふるわせ、うつむいたまま答えました。

「……ぼく、道に迷っちゃったの……」

「まいごなの?」

「うん。あそこの森の奥のあそびばに行こうとしたら……ひとりで来ちゃって、どこにいるのかわからなくなったんだ」

 コトリは手を差し伸べました。

「だいじょうぶ、わたしが一緒に探してあげる」

 小さなおばけは、ほんの少し安心したように、ふわっと浮かび上がりました。

 名前を聞くと、おばけは「モコ」と答えました。

「モコちゃん、じゃあ、行くところを一緒に探そうね」

 森の奥は、月明かりだけが頼りの暗がりです。

 木々の影が長く伸び、茂みの間には小さな動物たちも隠れているようでした。

 

 コトリとモコは、ゆっくりと歩きながら、森の音に耳を澄ませました。

「ねえ、モコちゃん。耳をすましてごらん」

 コトリがそう言うと、モコは小さな耳をピクピク動かしました。

 風に揺れる葉の音、遠くで鳴くフクロウ、落ち葉がこすれる音……

「ほら、森の音もまいごのヒントになるかもしれないよ」

 モコはうんうんと頷き、二人で森の中の音をたどり始めました。

 足元でちいさな枝が折れた音に驚きながらも、少しずつ森の奥へ進みます。

 しばらく歩くと、ぽん、と木の上から小さな鈴の音が聞こえました。

「なに……?」

 コトリとモコは、音のする方へそっと近づくと、そこには小さなおばけたちがかくれんぼをしていました。

 白い子、青い子、まるい子……みんな小さな鈴を持って、音をたてないようにしながらあそんでいます。

「こんにちは!」

 コトリが声をかけると、おばけたちはびっくりして一斉に飛び上がりました。

 でも、すぐににこにこと笑い、あそびにさそってくれました。

「ねえ、モコちゃん、こっちでかくれんぼしようよ!」

 モコは最初少し恥ずかしそうにしていましたが、すぐにふわふわと輪の中に入りました。

 コトリも一緒に、森の木々や落ち葉の間でかくれんぼを始めます。


 夜の森はやさしい闇に包まれ、かすかな笑い声と鈴の音だけが響いていました。

 あそんでいるうちに、モコはだんだん元気を取り戻しました。

「コトリちゃん、ありがとう……道に迷ったけど、こうして友だちとあそべるなんて」

「うん、森って、まいごでも怖くないんだね」

 コトリは微笑みながら頷きます。

 森の中で響く笑い声は、木々の間にふわりと広がり、暗い夜でもあたたかく感じられました。

 やがて、あそびつかれたモコは、森の小道にそっと座り込みました。

「もう、道もわかる気がする」

 コトリはモコの手をとり、一緒に歩きました。

 夜空に浮かぶ月は、二人の影をやさしく映し、森を包む静寂の中で、迷子のおばけは安心して家に帰ることができました。


 その夜、コトリが家に帰るころには、森はまたしずまり返り、木々の葉は雨上がりのようにしっとりと光っていました。

 モコとあそんだ思い出は、コトリの胸の奥に小さな光のように残りました。

 まよい森の夜は、今日も、おばけたちの声や音であたたかく、そしてほんの少し不思議に息づいていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ