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 馬車の移動に耐え抜き、いくつかの宿場村を経由してようやく辿り着いた街は、高い街壁に囲まれた大きな街だった。テリア王国王都の隣の領、ダックスの街というらしい。

 街壁の門で入場料を支払うと、門をくぐって街に入る。街道は活気にあふれていて、街壁近くまでさまざまな屋台が並んでいた。


「ゼフィール、何かご飯買って行こうか」


 小さくなって被毛も細くふわふわになったゼフィールをそっと撫でながら、声をかける。ゼフィールも人間の食事は気に入っているようで食べたがるので、何を買おうかと相談しながら屋台を見て回った。


『あれなど良いのではないか。匂いがうまそうだ』

「肉串、みたいなものかな? 香味焼きみたいになっていて、美味しそうだね」


 スパイシーなハーブの香りがする、炭火焼きの肉串は見るからに美味しそうだった。一本銅貨3枚でお安いことだし、(こっちの世界だと銅貨一枚が一〇〇円くらいのイメージだ)二本くらい買っちゃおうかな。


 私は肉串を二本買うと、ゼフィールと共に分け合って食べた。味は芳しい匂いの通りに、スパイシーで旨味が濃くって美味しい。お肉は牛肉なのかな? 良質の牛っぽい味わいだ。


「それにしても、本当なのか? 領主様の娘御の、契約魔獣が暴走したってのは」

「ああ、領主の館で働いているダチが言ってたんだ。契約魔獣が穢れに侵されて邪犬化したらしいぜ」


 その話に、私の意識は持っていかれた。契約魔獣、というのが何なのかはよくわからないが、少なくとも領主の娘が飼っている犬らしきものが穢れによって暴走してしまっているらしいことはわかる。

 それは恐らく、私の出番となるような案件なのではないだろうか。


『あやめ、この話はどうやら、お前の役割に関わるもののようだぞ』

「そうね。不本意だけど、浄化とやらをしていかないと、帰る方法が見つかっても、女神様に帰してもらえないんでしょう?」

『我が推測するに、そうであろうな』

「それに、ワンちゃんが穢れとやらで苦しんでいるなら、助けてあげたいもの」


 伊達にペットトリマーをやってきたわけじゃない。犬への愛情はしっかりとあるつもりだ。

 私たちは、さっき噂をしていた街の人たちに聞いて、領主の館を訪ねた。


 門番に誰何(すいか)をされて、正直に聖女だと名乗る。信じてもらえなかったらゼフィールに元の姿へ戻ってもらうつもりだった。しっかり洗って神々しい姿になったゼフィールであれば、信じてもらえるはずだ。

 ゼフィール曰く、竜は女神の眷属、神獣でもあるらしいのだから。


「何? 聖女だと? 信じられるか、怪しいやつめ」


 案の定門番には信じてもらえず、槍を突きつけられる。


「ゼフィール、お願い!」


 私が声をかけると、ゼフィールは『承知した』と言って、肩から少し離れ場所へ移動する。


「む、なんだ、その魔獣は?」


 門番が怪しんでいると、ゼフィールを強い光が包み込み、パッと瞬きした一瞬後にはあの大きな竜の姿になっていた。


『我は女神の眷属、神獣たる竜である。このものは本物の聖女ゆえ、門の奥へと通すがいい。この館にいる者の救いとなるであろう』


 重々しい口調でゼフィールが門番に話すと、門番はガタガタと震えながらあっという間に平伏した。その神威とも呼ぶべき神々しいオーラは、少しは慣れているはずの私ですら緊張するくらいのものだ。

 何事かと門の前に集まってきた人たちは、平伏する門番を見て習うように慌てて地に伏した。


『これなるは聖女。浄化の力を持つもの。浄化を求める穢れに心当たりがあるならば、館の中へと案内せよ』


 ゼフィールはそう言うと、再び光に包まれて小さな姿へと戻った。

 あまりに強い神威にひれ伏していた人々が、ほうと深い息をついてフラフラと立ち上がる。


「せ、聖女様……ですね。こちらへどうぞ。ご案内します」


 いち早く立ち上がった執事らしき人物が、屋敷の中へと案内してくれた。

 お屋敷の中には廊下に赤くて毛足の長い絨毯が敷かれていて、壁にはさまざまなモチーフの肖像画がかかっており、いかにも重厚な貴族の邸宅といった風情だ。

 お屋敷の奥に案内されると、そこには金髪巻毛のいかにもな貴族のお嬢様と、顎髭を蓄えた恰幅のいいおじさんが居た。


「な、何だその客人は。さっき窓から見えた竜と関係があるのか?」

「は、旦那様。こちらは聖女様でいらっしゃいます。先ほどの神獣様より託宣を賜りました」

「聖女様だと?」


 ゼフィールの圧はこの奥の間まで伝わっていたらしく、貴族らしきおじさんは怯えた様子で身を竦めている。


「私は浄化の力を持っています。そちらの魔獣が穢れに侵されて困っていると聞きました。何か助けになれることはありませんか?」

「先ほどの竜といい、や、やはり本当に聖女様なのか? 私はダックスの領主だ、聖女様、助けていただきたい」


 領主様は、私が聖女だとわかると、途端に姿勢を正して頼み込んできた。どうやら困っているのは本当らしい。


「具体的には一体どのようなことが起きているのですか?」

「娘のアメリアが使役している魔獣が、穢れに侵されて暴走するようになってしまったのだ。今は檻の中に閉じ込めているが……」

「なるほど」


 洗うとしたら、口輪をして、あの念力の腕でしっかりと保定をしないといけないかもしれないな。暴れると犬の体にも悪いのだ。


「わかりました、まず見せてみてください」


 そうして屋敷の裏庭に行くと、鉄の檻に閉じ込められた大きな狼のような獣がいた。


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