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「って、ちっちゃ!? きゃわわ!?」


 ゼフィールと共に旅をするにあたって、悠に10メートルを超える大きさの竜と連れ立って歩くとあまりにも目立ちすぎる。

 とはいえ私は人間だし、人間の食糧を得るためには人間の街へ行くしかない。そんな話をゼフィールにしたところ、ゼフィールは『しばし待て』というと突然光り輝いて、手のひらに乗るくらいのちっちゃな竜の姿になった。


『きゃわわとはなんだ? 異界の呪文か』

「似たようなもんよ」


 ゼフィールは、こちらの言動にいちいち真面目に反応してくるからなんだかちょっと面白い。私は適当なことを言いながら、街道を歩き始めた。


『ここより半日ほど歩けば、小さな村にたどり着くが……。乗せて飛んでいってやれば一瞬だぞ?』

「それは怖いから嫌」


 もちろん野宿が必要なくらい遠いのであれば、わがままを言っている場合ではないけれど、半日くらいなら歩ける。

 流石にまだ出会ったばかりの竜に乗って空を飛ぶほど、私はこの世界に順応していなかった。まあ、トリマースキルを使いこなしている時点で、だいぶ毒されている気はするけれど。汚れた生き物を見たらシャンプーしたくなるのは、職業病みたいなものだ。


 そうして私は、半日ばかりをなんとか歩き通し、小さな村にたどり着いた。


「はぁー疲れたぁー」

『だから乗せてやると言ったろうに』


 ゼフィールは、私の牛歩な歩みに苛立ったのか、肩の上でぱたぱたと羽を動かしながら騒いでいた。


 村人に宿屋の場所を尋ねると、一軒の、他の建物より若干大きな二階建ての建物が示された。


「ごめんくださーい」

「はいいらっしゃい。旅人さんかね。二階の部屋なら空いてるよ」

「じゃあ、そこで」


 受付で宿代を払って、部屋に案内される。

 正直ちょっと緊張した。この世界の人との関わりは、今まであまりいいものではなかったから。おかみさんはいい人そうで良かったけれど。

 部屋に入ると、私は早速鍵を閉め、ペット・バスを召喚した。これ、自分を洗うのにも使おうと思えば使えるのではないかと思ったのだ。この世界にはシャワーだなんて気の利いたものはないから、このスキルで旅の汚れを落とせるなら様様だ。


「ふぃー」


 熱いシャワーを浴びると、そんな気の抜けた声が出てきてしまう。


『その浄化の力は、得難いものだな。これをハズレ呼ばわりで追放するとは、なんと愚かな』

「そんなありがたい力なの? 浄化って言われてもよくわかんないんだけど。そもそも、邪竜がどうこう言ってたけど、それって何?」


 私はこの世界のことがまだあまりわかっていない。聖女とか、邪竜とか。ファンタジックなワードはあれこれ飛んでくるけれど、それが何なのかもよくわかっていないのだ。


『人間の戦争などで、穢れが大地に溜まってしまった時、それを浄化するため聖女が召喚されるのだ。女神の御業によってな』

「傍迷惑な話ねぇ。それで、邪竜が私を狙ってるっていうのは?」

『土と闇を司る竜だ。本来は邪竜などではなかったが、穢れによって変質した。聖女は穢れに属するものにとっては天敵に近しいからな。きっとそなたは狙われるであろう。故に、我が守護しようというのだ、聖女よ』

「聖女、聖女って。私には白石あやめって歴とした名前があるんだけど!」


 聖女と呼ばれるのは、正直あまり気分が良くない。聖女として召喚されたことだって納得はしていないのだから。


『ふむ、あやめよ。だがそなたが聖女であることは紛れもない事実。それ故に危険に晒されていることも、な』

「なんで私がこんな目に遭わなきゃならないんだか……」


 理不尽だけれど、ゼフィールが言うことも間違いではないのだろう。この神聖な雰囲気を纏った竜の言葉を疑う気には、どうしてもなれない。それは、トリマーとして、生き物の気性を見抜く本能のようなものだった。

 けれど、いくら危険に晒されていると言っても、元の世界に戻れない以上ここでどうにか生きていくしかないのだ。逃げ隠れするにもお金には限りがあるし、どこかで働かなければならない。一体、どうしたらいいんだろう。


 私はシャワーを浴び終えて、宿で借りた服に着替えると、ベッドに大の字になった。


『何を不安がることがある。そなたには、“とりまあ”という立派な職能があるではないか』

「この世界でペットトリマーをやれって? そもそもこの世界にペットとかいるの?」

『魔獣使いは多くいるぞ。それに、獣人族なども、あのしゃんぷーとやらは気にいるであろうな』


 トリマーとして身を立てる、かぁ。

 確かに私にできることはそれぐらいしかない。

 だったら、この世界で生きていくために、トリマーをやりますか!

 

 

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