表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

偽りの契約、真実の結び

 王都から西へ半日の道のり。

 忘れ去られた廃村がある。七年前、疫病が広がり、集落ごと封鎖された村——ミーア・ベルドの生まれ育った村だった。


 セレフとリセルは、そこへ向かった。

 真実を知るため。呪いの発端となった場所を、この目で確かめるため。


「ここ……来たことがある」


 村の門をくぐった瞬間、リセルの中で何かが蘇る。

 風に舞う花の匂い、柵越しに笑う幼子、そして——最後の晩、炎に包まれる村の景色。


 


「ねえ、セレフ。私ね、この村を救おうとしたの。あなたが母親にかけた“契約魔術”……それを、私も真似しようとした」


「……!」


「あなたを真似て、私も……人を救いたかったのよ。だから、独学で同じ術を試した。けど、私には力が足りなかった。逆に、代償を支払う形になって……自分の“名前”が、消えた」


「じゃあ、君は……!」


「セレフ。私ね、ずっと後悔してたの。あのとき、あなたのせいにすれば、少しは楽になれた。でも違った。あなたがいたから、私は“救いたい”と思えたの。……あなたが、私の希望だったのよ」


 


 風が吹いた。

 リセルの髪が舞い、セレフはその姿に言葉を失う。


「……だから、私はもう一度、“自分の意志”で結びたい。あなたとの契約を。呪いじゃなくて、未来のために」


 リセルは手を差し出した。


「私の名前は、リセル・カルナ。かつてミーア・ベルドだった女。そして、あなたを許す者」


 


 セレフはその手をとると、ゆっくりと膝をついた。


「僕はセレフ・ネアル。呪いを撒いた者。……だけど今は、あなたに救われた者」


 二人の手が重なった瞬間、空気が変わった。


 その場に、白い光が満ちていく。

 古の術式が、二人の間で再構築される。これは“契約”ではない。“誓い”だ。意志と意志を結ぶ魔術。失った名も、罪も、赦しも、全てを受け入れるための儀式。


 


《真契の儀:双影の誓》


 その言葉とともに、二人の足元に円環の光が走る。

 セレフの背から、長く黒い影がすっと消える。

 リセルの胸にあった痛みも、静かに霧散していく。


 


 全てが終わった後、二人は肩を並べて村を後にした。

 振り返ると、かつての廃村に一本の木が芽吹いていた。


「ねえセレフ。これで、呪いは終わったの?」


「……わからない。でも、確かなことが一つある」


「何?」


「僕はもう、自分の過去を恐れない。君となら、影に背を向けなくていい」


 リセルは、少し驚いたように笑った。


「それ、結婚の申し込み?」


「いえ。未来の申し込み、です」


「……うまいこと言ったつもり?」


「少しだけ」


 そうして二人は、初めて本当の意味で「出会った」。

 過去でもなく、呪いでもなく、ただ名前と意志を交わすために。


 


 それは、“婚姻”ではなかった。けれど、もっと深い“結び”だった。

 二人がこれから共に歩む道は、まだ決して平坦ではない。


 だが、今はもう誰も止めない。

 リセルも、セレフも、自分の“影”を超えたのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ