誰もが止めた見合い
リセルは、今日も戦っていた。魔獣退治、崖の上の救助、時には商隊の護衛。町の外に出れば命がけ、戻れば「まだ独り身?」と背中を叩かれる。
三十一。未婚。粗野。酒好き。
そして女傭兵。
男たちは、彼女を「最後に余るタイプ」と呼んだ。
「でも、そんなことどうでもいいのよ」
軒下に干された洗濯物の陰で、リセルはパンをかじった。陽に焼けた手、細くない腰、そしていまだ戦場の血を思い出す夜。
そんな自分に、誰が寄ってくる?
ところがある日、縁談が舞い込んできた。
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「断りなさいリセル。あの人だけはダメ」
マーヤは真顔だった。姉がここまで真剣な顔をするのは、村に疫病が出たとき以来だ。
「そんなにヤバい奴なの?」
「セレフ・ラヴィナス。王都の魔術師。見た目は立派、肩書きも凄い。でも……呪われてるって噂なのよ」
「呪われてる?」
「十年前、彼と関わった女性が次々と不幸になったって。事故死、自殺、行方不明。三人もよ。なのに、なぜか本人だけは何も咎められない。……“契約の男”って呼ばれてる」
リセルは思わず笑った。
「何それ。そんなの、ただの都市伝説でしょ?」
「本当にそう思う? ……私も、あんたには幸せになってほしい。だからこそ言うのよ。行かないで」
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でもその夜、リセルは眠れなかった。
もしそれが本当に呪いなら、なぜ彼はそれでも「誰かと結婚しよう」としているのか。
なぜ、そんなものを背負ってまで見合いを受けるのか。
なぜ——自分のような「売れ残り」に、声をかけてきたのか。
(会って……聞いてみたい)
彼がどんな目をして、それを語るのか。
どうしても知りたくなった。