表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ms.悪鬼  作者: 星守
9/16

「え、今日…都留田さんお休みなの?」

「そうなんだよ~。体調不良なんだってー。寂しいよね~」


 朝の挨拶にやってきたまりんから聞いた言葉に、ゆめは大きく目を見開いた。

 まりんの背後からやってきたつきも、寂しがるまりんに同意するように頷く。

 みことは当たり障りなく「そう、早く良くなるといいね」と笑みを浮かべていたが、ゆめは何とも言えない不安を感じていた。

 合葉つきはクラスメートにいじめを受けている。

 以前まりんからその話を聞いてから、ゆめは心中穏やかではなかった。

 ゆめはつきがいじめられている現場を見たことはない。しかし、ゆめが目撃していないからといって、それらがなくなったとは思えない。なぜならば、この数週間でとわこが教師から呼び出されない日など、丸一日もなかったからだ。

 とわこの存在は確実に加害者たちの抑止力になっているはず。

 しかし、そのとわこが学校に来ていないとなるとーー。


「ゆめちゃん。どうかした?」

「…!…ううん、その…ほら!まりんが今言ってたでしょ、都留田さん体調不良だって。ケンカすごく強くて身体も丈夫そうだから、ただの風邪なのかなって。重い病気とかじゃないといいんだけど…」


 なんとなく、つきのいじめのことをみことに伝えるのは憚られた。

 なぜか、みことは例のセミ事件のことをゆめに隠している。理由は分からないけれど、それならばきっと知らないふりをしておいたほうがいいだろう。

 そう思い、咄嗟に言い訳じみた言葉を並べると、みことは無言でゆめの顔を凝視した。


「…み、みこと…?」

「…ううん、なんでもない。水鳥さんと随分仲良くなったんだね」

「え、ああ…うん。ほら、まりんって明るいし話しやすいでしょ?だからーー…」

「私は?」


 みことの手がそっとゆめの顔を包む。そのままぐっと顔を近づけられてゆめは脳が痺れるのを感じた。

 美しい顔立ち、美しい瞳、美しい指、美しい声。みことの全ては、まるで麻薬のように綺麗だ。


「みこと、は可愛くて優しくて頭が良くて、それでとっても、きれい」

「ふふ。私のこと好き?」

「それはもちろん」

「私もゆめちゃんのことだーいすき」


 蕩けるような声で、みことはゆめの頬に唇を寄せた。

 みことの瞳は熱を孕んでおり、その表情は恍惚に染まっている。

 ゆめとみことは互いを見つめあった。今この瞬間、世界は二人だけだ。

 みことの指がゆっくりとゆめの唇をなぞる。みことは妖艶に微笑んで、更にゆめに顔を近づけた。

 心臓が尋常ではないほど音を立て、脳が痺れる。

 みことに触れられている部分も、みことから名前を呼ばれるのも、全部全部気持ちいい。

 だけどーー。


「朝礼を始めます。起立」


 ゆめが抵抗するように顔を背けるのと、つきが朝礼の挨拶をするのはほぼ同時だった。

 みことはゆめの行動に僅かに目を見開いたが、すぐに立ち上がる。ゆめもみことに続いて立ち上がろうとしたが、突然の動悸と冷や汗によって立ち上がることが出来なかった。しかし、ゆめが起立していないことを教師は気にしていないのか、そのまま朝礼が始まる。

 クラス内で一人だけ座り込むゆめを見て、まりんは心配そうに、つきは神妙そうな表情を浮かべたが、二人以外はゆめに見向きもしなかった。

 朝礼が終わり、全員が着席する。

 ゆめはみことを見つめたが、珍しくみことはゆめを見なかった。

 

 つきは黙したまま二人を見つめる。

 そして、深く眉間に皺を寄せた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ