表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ms.悪鬼  作者: 星守
6/16

あこがれ

 ゆめは意気揚々と中庭へやってきた。

 初めて見た時と変わらず、中庭は太陽の花でいっぱいだ。

 …本当に、なぜこんなにも心奪われるのだろう。

 ゆめはゆっくりとひまわりに近づく。()()()()()()()()()()()()()()()そのはずなのに、()()()()()()()()()()()()()()ようで、ゆめの心臓は僅かに高鳴った。


「霧花さん?」

「ひゃい!!」


 突如呼ばれた自分の名前に、ゆめは飛び上がりながら返事をした。驚きで声は上擦り、動きは明らかに挙動不審。あまりの羞恥にゆめの顔は茹蛸のように赤く染まる。

 おそるおそる後ろを振り返ると、そこには目を見開くつき、無表情のとわこ、今にも笑いだしそうなまりんの三人がいた。


「…して…ころして…」

「何を言ってるんですか、霧花さん!?」

「あはははは!ちょ~おもろ~!」

「何が面白いんだ?」


 三者三様の反応をするつきたちに、ゆめは両手で顔を覆いながら首を振る。

 つきはまりんが一人大笑いしているのを窘めながら、ゆめの背中をそっと撫でた。


「大丈夫ですよ、何もおかしなことなんてありません。ねえ、とわこ」

「ああ。なぜ水鳥まりんが一人で笑っているのかも分からない。変なものでも食ったか?」

「辛辣じゃね!?」

「辛いものを食べたのか…」

「違うわ!相変わらずズレてんね、とわっち」


 まりんはとわこの背中を勢いよく叩きながらゆめに向き直る。

 そして「ごめんね~」とへらりと笑った。


「あたし、すぐ笑っちゃうんだよね~。悪気とかはマジでないんだけど、不快にさせちゃってたら本当にごめん」

「あ、!いや、全然怒ってないよ!」

「マジ~?優しい~!クラス何組?何ちゃん?」

「…え、えっと…」


 目立たないとはいえ、認識されていないのか…。

 まりんの反応にゆめは大きなショックを受けた。

 視界の端でつきが驚いたようにまりんを凝視している。

 …合葉さんは私のことちゃんと覚えてくれてたもんなあ。


「霧花ゆめ。同じクラスだ。そうだろ?」

「…!あ、うん!」


 とわこもゆめのことを覚えてくれていたらしい。

 ゆめは彼女の言葉に大きく頷いた。

 とわこの言葉を受けて、まりんが大きく目を見開く。そして、これでもかというほどに顔を真っ青に染めた。


「えっ、マジ!?うわっ、あたし最低じゃん!ごめんね、ゆめりん!」

「いや、そんな…って、ゆめりん…?」

「ゆめだからゆめりん~。可愛くね?あたしのことも気軽にまりんって呼んでよ!」


 屈託ないまりんの笑顔に、今度はゆめが目を見開く。

 彼女の笑顔はひまわりにそっくりだ。

 …それにしても、ゆめりん。ゆめりんか。

 心中でそう呟きながら、ゆめはゆっくりと破顔した。

 あだ名で呼ばれるのは初めてかもしれない。なぜだろう、凄くワクワクする。


「じ、じゃあ、まりん…!」

「は~い!まりんだよ~ん」


 意を決して呼んだ名前に、まりんが片手をあげながら返事をする。

 なぜだか楽しくなって自然と笑みを浮かべると、つきたちも顔を見合わせながら笑った。とわこは相変わらずの無表情だったけれど。


「あ、」


 無表情のとわこの顔を見つめていると、ゆめはふいに先日の出入り口封鎖事件を思い出した。

 教室でとわこの顔を見ることはあっても、声をかける間もなく彼女はどこかに消えてしまうのだ。礼を言うなら今が絶好の機会である。

 ゆめはとわこに向き直ると「あの…!」と深々と頭を下げた。


「都留田さん、先日はありがとうございました」

「?何かしたか?」

「え、あの、下駄箱であなたが先生に怒られてて…遅刻した私に中庭を通って行けってハンドサインくれたよね?」

「………そうだったな」

「いや、今の間!とわっち、絶対忘れてるでしょ!」


 まりんはとわこの肩を掴むと、大笑いしながら激しく揺さぶる。とわこはそんなまりんに迷惑そうな表情を向けると、逃げるようにつきの後ろに隠れた。


「何とかしてくれ。あ…合葉つき」

「だからさ!とわっち、つっきーの名前呼ぶ時にどもるの何なん?」

「ふふ。それじゃ、とわこ。飲み物を買いに行きたいので付き添ってくれませんか?」

「もちろんだ」

「まりんさんは私たちが戻るまで中庭の整備をお願いします」

「がってんしょーちのすけ!」

「あ、あの…もしよかったら、私も手伝ってもいい?」


 おずおずと手をあげたゆめに、つきは目を見開く。しかし、次の瞬間には「もちろん。嬉しいです」と柔らかく微笑んだ。とわこはつきの後ろで頷き、まりんはゆめに勢いよく飛びつく。


「やったー!じゃあ、ゆめりん!あたしと一緒にひまわりに水やりしよ!」

「うん!」

「よしよし!じゃあ、あたしがやり方教えたげる!こっちきて!」


 そう言って、まりんは園芸用の道具がある場所までゆめを案内した。

 つきの目から見て、まりんもゆめもとても楽しそうだ。


「とわこ。行きましょう。飲み物を四人分買いませんと」

「優しいな、あ…合葉つき」

「ふふ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ