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Ms.悪鬼  作者: 星守
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悪夢

 暗闇の中を必死に駆ける。

 ーー逃げなければ。

 どこに向かっているのか、何から逃げているのかは分からない。けれども、私の脳裏にはただその言葉だけが浮かんでいた。

 曲がり角で身体をぶつけ、石に躓き派手に転ぶ。疲労も痛みも限界に達していたが、逃げることを止めるわけにはいかなかった。

 血が滲む手足をそのままに、私は再び足を動かす。

 視界が悪いためか、自らの息遣いや、汗が流れる感覚がひどく鮮明だった。

 

「ゆめ…ゆめ………」

「っ…!」


 反響するようななまめかしい声が耳に届く。

 その瞬間、まるで心臓を掴まれたような恐怖が身体を駆け巡った。

 ーー逃げなければ。

 再び、その言葉が脳裏に響く。

 汗が急激に冷え、手足が小刻みに震えた。

 ーー逃げなければ。逃げないと。逃げるんだ!早く!早く!早く!

 脳内で激しい警報が鳴った。

 震える足を動かし、一歩、また一歩と歩を進める。

 けれどもあっけなく、私は誰かに肩を掴まれた。

 振り返る間もなく、私の身体を鋭利な刃物が貫く。


「……ゆめ、ゆめ……」


 とても悲し気な、誰かの声。その声の主は私の名前を呼びながら、何度も何度も私に刃物を突き立てる。相手の顔は分からない。けれど、私を殺めながら泣いていることだけは分かった。



「最っ悪…」


 教室の机に寝そべりながら、霧花(きりばな)ゆめは片手でスマートフォンを弄っていた。

 検索しているのは“殺される夢 夢占い”。

 今朝見た夢が嫌に鮮明で強烈で、彼女の機嫌は朝から急降下している。


「…殺される夢……はあ?悪い夢じゃない?うそでしょ?」


 そんなわけないだろう、とゆめは心中で憤った。

 ただの夢だと分かっているが、感じた恐怖も痛みも妙にリアルで、あれが吉兆の夢だなんて到底思えない。ゆめは眉尻を吊り上げると、怒りのままにスマホを鞄に放り投げた。


「ゆめちゃん、おはよう」

「あ、おはよう。今日も早いね、みこと」

「変なの。私よりゆめちゃんのほうが早く来てるじゃない」


 目を細め柔らかく笑った少女ーー夜桜(よざくら)みこと。彼女はゆめの幼馴染であり、誰よりも大切な友人だ。

 白磁のような肌に、おかっぱ前髪、腰までのストレートヘア。加えて、桜のような頬に、夜空を閉じ込めたような大きな瞳は誰から見ても美少女である。

 みことの笑顔を真正面から受けて、ゆめはたまらず恍惚の溜息をついた。


「それで?私より早く学校に来てるゆめちゃん。何かあったの?」

「あー…たいしたことじゃないの。夢見が悪くてさ。二度寝するのが嫌だったから早く来ちゃった。それだけ」

「え、大丈夫なの?夢見が悪いって…ストレスとかかな…」


 ゆめの言葉を受けて、みことは心配そうに眉尻を下げる。そんな表情も大変麗しいが、大切な幼馴染に心配をかけるわけにはいかない。ゆめは笑顔を浮かべて、首を横に振った。


「大丈夫!本当にたいしたことじゃないから」

「そう…?もし何かあったら相談してね。私はいつでもゆめちゃんの味方だよ」


 みことの細い指がゆめの手の甲を撫でる。

 そんな彼女に応えるようにゆめはみことの手を握った。

 まるで恋人同士のような、そんな距離感。

 それがゆめとみことのいつも通りだった。

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― 新着の感想 ―
冒頭の夢の描写が非常に鮮明、読んでいる私も恐怖と痛みを共有するような感覚になりました。ゆめとみことの日常の穏やかなやり取りとの対比が印象にのこりましたね 二人の幼馴染としての関係性やお互いを大切に思う…
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