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三題噺もどき4

くしゃみ

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくさんじゅうはち。

 




 世の子供たちはもうそろそろ、春休みに入ろうかという時期だろうか。たいして長くもない長期休み。聞くところによると、夏休み程長くもないのに、それ相当の宿題が出るとかでないとか。まぁ、仕事をしている私にはあまり関係ないことではあるが、世の中の流れを知っていることはそれなりに必要なことではある。

「―っくし」

 ず―と、鼻をすする。昨夜あたりから、どうにも鼻の調子が良くない。

 心なし瞼も重い気がするし、風邪でもひいただろうか……特に熱があるわけでもないんだがな。どうにもこう。本調子ではない感じがしている。

「……」

 むずむずとする鼻をこする。ついに花粉症にでもなったんだろうか……それはそれで辛い。桜が咲けば花見にでも行こうと思っていたのにそれどころではなくなってしまう。毎日の散歩ですらままならなくなりそうだ。それはほんとに困る。かと言って風邪でも困るのだけど。

「……」

 まだすべき仕事がそれなりにあるのだ……。

 今日は向き合っているのはパソコンの画面ではなく、紙である。

 机の上に広げられた紙とにらめっこをしながら、手を動かしている。

「――っく」

 しゃっくりのような小さなくしゃみが漏れる。

 紙に影響がないことを確認して、仕事を再開する。

 線を引きながら、書き足したり調べ物をしたり……まぁあれこれとしながら手を動かしていく。

「……」

 普段この仕事をするときは、シャーペンを使っているのだが、今日はえんぴつを握っていた。シャーペンの芯を買って置くのを忘れていたもので、今から買いに行くのも面倒だと思いえんぴつを握っている。緑色のよく見るようなやつだ。

 なんだか、久方ぶりにえんぴつを握っている気がする。いつぶりだろう。シャーペンの芯を切らすのもいつぶりだろう。

「……」

 しかしまぁ、どうにも調子が乗らない。

 仕事である以上それなりに集中はしているつもりだが、いつものようにとはいかないのが歯がゆい。自分の体が自分の意思通りに動かないと言うのは、それなりにストレスがかかる。ただでさえ、本調子ではない所にそんなストレスがかかっていれば、更に悪化する一方だと言うのは分かるのだけど。

「―っしゅん」

「……」

 とりあえずは、この仕事を終わらせたら休むとしよう。

 集中していたので、忘れていたが。

 昨夜、調子が崩れたあたりから、家の従者の目がとても痛いのだ。

 気にせずいつも通りにしてくれればいいのだが……というか少し前まで普通にしていたはずなのだが。一度くしゃみをしたあたりで、なぜか洗濯ネットを手に持ったまま部屋に入ってきた。いつも通りノックもせずに。

「……洗濯してたんじゃないのか」

「もう終わりましたので気にしないでください」

 ならその手に持っているネットは何だと言う感じだが。

 そんな監視をせずとも、良いとは思うのだけど、どうにも自分自身の体調管理についてはコイツからの信用はゼロである。問題はないと言っても、聞く耳もたずだ。

「……」

 自分のことは自分が一番分かっているとは思うのだが、それがどうにも気に食わないらしい。無理をしているつもりもないので、問題ないと言っているのだけど……。

 どうにも年始あたりに体調を崩した時から、その辺の監視が厳しくなっている気がする。どっちが主人なのか分からなくなるな監視なんて言っていたら。

「……風邪だと移ったら困るんだが」

「何も困りません大丈夫です」

「……」

 聞いていないし、効いていない。

 これはもう、今日はほんとにさっさと仕事を終わらせて大人しくしていないと面倒だ……。機嫌の悪いコイツは何を言っても聞かない。いったい誰に似たんだか。

「……もう少しで終わるから何か飲むものを淹れておいてくれないか」

「終わってからお淹れしますよ」

 無理か。

 どうにか部屋から追い出したいところではあったが……無駄な抵抗はしないでおこう。

 心配をかけているのは私だし、抵抗のしようもないのかこれは。心配なぞかけているつもりはないのだがな。今日は日課の散歩も難しいかもしれないな。

 花粉症だったとしでも、風邪だったとしても。

「――っくし」

「……」

 さっさと終わらせよう。ほんとに。




「お前は体調崩すことないよな」

「自己管理も仕事の一環ですからね」

「……悪かったな」

「……なにがですか?」

「…………なんでもない。あまり私を甘やかさないでくれ」

「そんなつもりはないんですけど……?」










 お題:夏休み・えんぴつ・ネット

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