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7話 夢の中の回顧

その夜、私はとても懐かしい夢を見た。


ー 理想の結婚?

ー そう、理想の結婚。私たち貴族の女にとっては結婚がすべてじゃない

ー そうかな

ー そうよ!素敵なドレスや宝石に囲まれて毎日を過ごすの。もちろん年の離れた旦那様じゃなくて若くてカッコ良くて、毎日愛をささやいてもらうのよ。もちろん王都に大きな屋敷を構えて、当然子どももいて最初の子は男の子で二番目は女の子がいいわね。それから…


ああ、これは王立学園最後の年の夏前だったかしら。

なんでこんな話になったんだか、領地が近かったサラとは同じ地方出身の貴族ってこともあってよくお昼を一緒にしてたっけ。


ー おいおい、そんなに求められたら貴族の男は逃げ出すぜ。

ー そんなことないわよー!

ー てかそれ絶対特定の誰かのこと言ってるだろ


これを言ったのはイリスだったかな。

学園卒業したら会うこともないと思ってたのに、まさか職場が一緒なんて腐れ縁ってやつかな


ー 誰かのことって、別にただ理想を言ってるだけだっt


突然教室に金髪で青い瞳の美男子が視界の端に飛び込んで来る。

レオ・バートランド、バートランド侯爵家の嫡男。彼が現れるとその場の空気が変わるのだ。

緊張、羨望、恋慕。

まだ10代の令嬢たちにとって、それはあまりにも近づき堅くて彼がいるとみんな静かになった。

勇気を出して近づく令嬢も中にはいたけれど、冷たくあしらう氷のような態度にいつしか「氷の貴公子」なんて呼ばれていた。


ー レオも教室で昼を食べるのか?


恐れ知らずというか空気読まずというか、イリスは昔からそうだったな


ー ああ。こっちのがまだ落ち着くからな

ー へぇー。あ、そうそう、今、理想の結婚について話してるんだけど、レオもあったりすんのか?

ー 理想の結婚?


ふふ、この時教室に残ってた令嬢たちみんなが聞き耳立ててたっけ


ー それは俺が結婚したら妻にどうするかということか?

ー まぁ、そうとも言うかな…?


この時の静寂といったら、緊張の糸がピンと張り詰めたような空気で、あの宝石みたいな青い瞳と目が合って…


ー そうだな。俺は…彼女に何不自由ない暮らしを与えるだろうな。欲しい宝石やドレスがあるならそれを惜しまないし、好きなだけ与えてやりたい。苦労などせず必要なものはすべて取り揃えて、仕事なんかしなくてもただ好きなことをして…


教室にいた令嬢たちが理想そのものと言わんばかりにうっとりしていて、でも私の心はどんどん冷たくなっていって


ー ただ好きなことをしてお屋敷で花でも愛でながら、そうして貴方の愛を乞いながら子どもを作って、とても幸せな結婚ね


言ってしまった。

今だったらそんなこと右から左へ聞き流すのに、まだ若かった。

あのブルーの瞳がまっすぐ私を見てた

みんなも私を見ていて、教室から逃げ出した


ー ちょっと、待って!


レオ・バートランドが追っかけてくるなんて、よっぽど気に障ったのね


ー ……ごめんなさい

ー 何が?

ー あなたの理想を否定したわけじゃないわ

ー だったら何?


この後、私、何て答えったっけ…


あぁ、思い出した


そうだ


ー 私の幸せはあなたとは別のところにあるだけ。私の自由は不自由なものの中にあるの。その自由を自分の力で手に入れてこそ初めて自由と思うのよ






ゆっくりと目を覚ますと部屋はまだ薄暗かった。

見慣れない天井にいつもと違うシーツの感触。

昨日のことは夢ではなかったのだと実感する。

隣にはもう人の気配はない。

きっと私が眠っている間に静かに出て行ったのだろう。

寝ている間に外れたであろう仮面を手に取り起き上がる。

ふとベット脇のテーブルに小さなメッセージカードと一輪の薔薇が添えてあるのを見つけた。


ー あなたの幸せを願っています


たったそれだけだったのに、その言葉に勇気をもらったような気がした。

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