12話 追憶① ※レオ視点
はっきりと自分の恋心を自覚したのはいつだろうか。
最初は名前をよく耳にするな、程度だった。
彼女の名前はフィーネ・アクトン。
アクトン地方を収める地方貴族でアクトン男爵の令嬢だ。
王立学園に通うほとんどの令嬢は婚約者探しだ。だから学業はそこそこにコネ作りやパーティに力を入れる。だから成績上位者には男の名前ばかりが名を連ねる。
そんな中でフィーネ・アクトンの名前はいつも上位にあった。
一体どんな女だろうと思っていると2年で同じクラスになった。
濃いブラウンの髪に赤茶色の目の普通の人だった。
でも同年代の男たちに混ざって議論をする時、教師と意見をかわす時、彼女は活き活きとしていた。
他の令嬢たちとは明らかに違っていた。
時折見せる笑顔が目にちらついた。
もし彼女が他の令嬢たちのように自分に近づいてきたらなんて思ったこともあったが、彼女が自分に近づくのは教師からの頼まれ事の時だけだった。
「イリス、君はフィーネ・アクトンと親しいようだけど婚約者か何かか?」
「へ、違うけど。というよりいないんじゃないかなぁ、婚約者」
「そうなのか?」
「はっきりと聞いたことはないけど、何人か断ったって言ってたよ」
「そうか。てっきり決まった相手がいるから俺に近寄って来ないのかと思ったよ」
「うわ、何か腹立つー」
俺は容姿と家柄には自信があった。
学業だって常に成績上位だ。
もし俺が彼女に婚約を申し込んだら一体どんな反応をするだろうかと想像した。
ー 実は私もあなたのことがずっと気になっていたわ。嬉しい!
フィーネ・アクトンがそんなセリフを言うとは思えなかったが、自分は結婚相手としてこれ以上ない条件を兼ね備えている。
受け入れられないはずがないとこの時は余裕をこいていた。
それからだんだんと話しかけてくる令嬢たちがうっとうしくなり、冷たくあしらうようになった。その頃からだろうか。「氷の貴公子」なんてあだ名がついたのは。
2年の終わりごろにはフィーネ・アクトンを目で追っていた。
彼女はよく授業後に図書館にこもって勉強していたので、少し離れた席に座って自分も勉強していた。
ランチは食堂ではなく教室で取っていたことも知っていたので、早く食べ終えて教室に戻っていた。
話しかける糸口が見つからずにそうしてただ時間が過ぎて、3年生を迎えた。
ある日このままではダメだとランチを食堂ではなく教室で取ろうと中に入ると、イリスが話しかけてきた。
「レオも教室で昼を食べるのか?」
「ああ。こっちのがまだ落ち着くからな」
俺は平静を装っていた。
「へぇー。あ、そうそう、今、理想の結婚について話してるんだけど、レオもあったりすんのか?」
「理想の結婚?……それは俺が結婚したら妻にどうするかということか?」
「まぁ、そうとも言うかな…?」
この時俺は上の方に座るフィーネ・アクトンを見た。
アピールするチャンスだと思った。
17歳の俺は必至に背伸びして答えていた。
「そうだな。俺は…彼女に何不自由ない暮らしを与えるだろうな。欲しい宝石やドレスがあるならそれを惜しまないし、好きなだけ与えてやりたい。苦労などせず必要なものはすべて取り揃えて、仕事なんかしなくてもただ好きなことをして…」
そこまで言うと彼女は急にガタっと立ち上がってまっすぐ俺を見た。
その目には敵意が混じっていた。
「ただ好きなことをしてお屋敷で花でも愛でながら、そうして貴方の愛を乞いながら子どもを作って、とても幸せな結婚ね」
俺はこの時何かを間違えたと悟った。




