その始まりは…
涙で端っこがクニャクニャになった白い不織布マスク……
外してみたら内側少し右上に、ポチンと赤く血のにじみ跡があった。
頭の中を……
さっきの言葉がリフレインして
また涙になる。
その言葉が憧れの一条センパイの口から発せられたものだから……
『見た?! 今すれ違ったコ。顔中ニキビの花盛りだったね』
確かに私はボツボツのニキビ顔!!
マスクだって涙だけじゃなくニキビの血が滲んでいる。
みっともなくもどうしようもない。
情けなくてしゃくり上げるとパフン!とレジ袋がぶつかった。
きっともうすぐ上陸する台風のせいだ。
私を蔑み、投げつけられたものではないはず……
『ごめん!!』
向うの方からオトコ声がして、バタバタ駆け寄って来る足音。
レジ袋を顔から剥がすと、同じ高校の制服が立っていた。
「ホント!ゴメン!! 袋、オレの手からすり抜けちゃって!!」
泣いていたのを見られたくなくて、私は顔を伏せながらレジ袋を差し出す。
「あの、オレ、マスクだめにしちゃった?」
そう言われて私、今更ながらマスクを外しっぱなしで、ニキビ顔を剝き出しにしている事に気が付いたが……
申し訳なさそうに覗き込むこの人の顔も私以上のニキビだらけで……
すこしだけホッとした。
この人、リュックのポケットの中から個包装のマスクを取り出し
「これ、代わりに使って下さい。お願いします」と頭を下げる。
ネクタイの色が私のリボンと同じ緑なので、1年生だと分かった。だとすると身長は結構高め?細身だけどモヤシじゃないから……やっぱり私の苦手な体育会系?
差し出されたマスクを受け取るのをためらっていると
「あの、1組の人ですよね。オレも西高で4組なんです。だから……それほど怪しくは、無いです」
どうしてだろう……
私はその時に思わず吹き出してしまった……今泣いていたばかりなのに
「オレ、なにかマズいこと言いました?」
それが癖なの?
カレはその時も、指を数あるニキビの一つにやって、ポリポリした。
「それ!」
「えっ?!」
「ダメなんですよ。掻破するの」
「ソウハ?」
「掻いて破るって書くの。ニキビを酷くさせてしまうんです」
「あぁ… そういう字なんですね… 引っ搔いちゃダメだっていうのは分かってるんです、でもつい…」
『「あっ!!」』
二人同時で声が出てしまう。
カレがまたニキビに手を伸ばしてしまったから……
私が
「これはもう罰金でも取らなきゃ直りませんね」
とため息をつくと、
カレは照れ隠しに「アハハハ」と笑った。
「笑いごとじゃないですよ、私だってニキビに苦しんでいるんです」
思わず口をとがらせると
カレは「ごめんなさい」とまた頭を下げた。
「私達、同じ高校なんだから、今度見かけたら本当に罰金取ります」
「じゃあ、オレも見かけたら罰金取ってもいい?」
「いいですよぉ。絶対私の方が勝つんだから」
「いやいや、オレ、こう見えても目ざといから、キミから取った罰金で宮殿建てちゃう!『罰金ガム宮殿』って」
「アハハ。バカみたい」
「いいや!オレ、真剣だから!」なんて、カレは腕組みしてみせる。
「宮殿どころかガム買えるお金ですら徴収させないからね」と私もいつの間にかクスクス笑っていた。
「オレ、大橋ハルって言います。字は暖房の暖です」
「私は香田紬です」
私は台風の風に押されたのだろうか……
こんな風に……
カレと“ニキビ同盟”を結ぶ事になったのだった。
全4話の短い連載です!!