8
さすが、ここらの枢軸である西野殺人塾。
アウトロオは警戒を怠らない。
平和が、無いからだ。
アウトロオが平和を喜べば、飯が食えなくなる。
生きるために、争う。
争うために、生きる。
で、また生きるために争う。
他にはなにもない。
――俺には、そうするしかない。
「おい」
「なに」
「もっとスピード出せよ。遅すぎだぞ。何なんだこのボロ車は。馬車かよ」
「1300ccじゃこれが限界だよ」
「この車、いったいいつの車だよ?」
「二十年くらい前のちゃう?」
「……冗談はその馬鹿でかい腹だけにしとけって言ってるだろうが……ったく」
「だけど、2002年製って」
「知らんわ! 速く走らせろそれだけ考えて運転してろクソが」
前に向き直ったとき、ぐんぐんと遠のいていく車列。
こうして襲撃する人間がいる事を危惧して、直線が増えた地点から高速巡行を行うつもりだろう。そこで変に追いついてくる車だけを警戒すればいいからな。
アウトロオは大半が無学だが、生き残る連中は頭がいい。
いや、聡い。
「アクセル! アクセル踏め遅い。遅い遅い遅い遅い!」
「踏んでるよ! ベタ踏みだよほらあ!」
「お前の体重のせいでただでさえ悪い加速力が最低を下回ってんじゃねえーの!」
「そんな事言ったってさ……」
現にエンジンは苦しそうに唸るにも関わらず、全く速度を上げない。
騒いでいるうちに、なんとなく悪い予感がしてきた。
メーターを見ると、予感が的中していた。
「ちょい待て。……お前これ、オイルチェックランプが点いてるじゃん」
「……あ。そういえばそろそろ交換時期だったかな……何万キロに一回だったけ?」
「……もう駄目だこりゃ」
俺は何もかもが嫌になって、助手席にどっかりと身体を投げた。
「いや、ついうっかり。これ、母ちゃんのおさがりだし。オイルってやっぱ定期的に」「もう、いいからさ。前のトラックだけでも抜け。それくらいは出来んだろ。ここじゃ荷台で様子が見えないからさ」
「いや、無理だよ」
「はあ!? なにい!?何が無理ぃぃいん!?」
自分でも笑えるくらい変な声が出た。
「この車で追い越しなんて、ニワトリに伝書を託すみたいなもん」「眠ったいこと言ってんじゃねえよ、やる前からごちゃごちゃ言うな、とりあえずハンドル貸してみろお前」
「ちょっと!」
その時、自車の前には三台の車が横並びで走行していた。
誰もロールスロイスの集団には近付きたいと思わない。右に車体をずらし、トラックとワンボックスカーの間の僅かな隙間を通り抜けた。
左右の車間距離は、およそ数センチといったところだ。
「うわああああ! 危ない、危ないってばぁ!」
虎目が悲鳴を上げてアクセルを抜いた。
急激に加速度が無くなってつんのめった車体は大きくバランスを崩す。
「おい! なんでアクセル緩めんだ、逆に追突事故起こすだろ!追い越しは加速し続けないと危ないんだよ!」
「だって瑪瑙が無茶な事するから」「いーから、てめえはアクセルだけずっと踏み潰してりゃいいんだよ!舵は俺が取っていくから!」
波縫いをするように次々と車を抜かし、追い縋る。
車列最後尾が近づく。