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一応の舎弟・相棒である虎目と、その愛車のトヨタ・ファンカーゴに乗って虎視眈々と車列を追跡・監視する。
「この車、小銭入れが引き出し式なんだよ」
「あっそ」
尾行は初めてじゃないが、今まではもう少し良い車を使わせてもらえていた。
そこがネックだとは思ったが、そんな事よりももっと不条理なところ。
今回のような古臭くて非力な車での追跡、それも首取りまで命じられる。
下地程度の経験があろうと、この悪条件じゃ成功確率はお察し。
企業でいう追い出し部屋勤務のような、どう考えてもミスる事をさせて俺らをお払い箱にし、それで新しいもっと使える構成員をどこかから派遣ないし赴任させてくる魂胆かもしれない。
「ねえ瑪瑙。あんまり緊張しすぎてもダメやろ。それにしてもこの服、生地が悪いね、ガサガサだ。どうだい瑪瑙、眺めの方は」
「…………本当の意味で地獄巡り」
「それってどういう意味さぁ」
ハンドルを握る虎目はすっかりドライブ気分の様子。
今日は快晴、麗らかな陽気に見守られてのドライブ。
「あのなぁお前、今回がダメだったら俺たち破門されるってこと忘れんなよ。お前はその辺で警備のバイトでもしてりゃいいけど、俺の年齢じゃもう雇ってくれるところも無いし、妹の事もあるから凌ぎが無くなられると本当に堪えるんだよ。それに俺らを手放したら、ボスだって崩壊するさ。重度の鬱って診断されてるんだから。今までは銃弾も金玉もフル活用でお盛んだったうちのオッサンも、色々重なり過ぎて精神を安定させる錠剤に飲まれてる有様だぞ。ちゃんと危機感を持て。自分の身にも関わる事だろ。どうしてこう、もっと深刻に捉えないかな」
「その話し方、似合ってないよ。ホストみたいで下品。嫌なんだよねぇああいう人ら。ヤマトとか源氏名名乗ってそうな感じ。うふぉ」
「あの人がもっとグローバルにっていうからやってみただけだ。てめえのその腹の脂肪の方が戦艦大和急に下品なんだよ。浴槽にでも沈んでろ虎・虎・虎」
「そんな事言ったって……あのね瑪瑙。肩に力が入り過ぎるのは失敗の元だって父ちゃんが言ってた。好きな歌手もシリアスになり過ぎるなって歌詞書いとるし……ワイは今日死ぬには早すぎる身やと思うねんな。まだまだたくさん修行して楽しいことして、いっぱしのアウトロオ、いっぱしの男として大往生せなアカンねんな」
溜息が、腹の底から、噴火。
「あんのなぁ……なんて言ったらええかな。裏社会歴十四年の俺の見解から言うと、一番邪魔なヤツに限って生に執着したがるんだよ。死亡フラグってやつかな。不思議なんだけどそうなんだ。覚悟決めろ覚悟。腹くくれ。それしかないんだよ。ってもその腹じゃ括れないかもだけどそんな事はどうでもよくて、雑魚なのは間違いないが、お前もアウトロオの一端だぞ、分かってんのかボンレスタイガーハム!」
「いたたたた、抓らんといてーな、いでっ! ワイは邪魔者なん!?」
「今から生きる事を諦めたらさっきの仮説は当てはまらなくなる。だから華々しく玉砕しろ豚骨牛タンピザ!」
「ひどい! ほんとひどい! ワイをそんな、高カロリーな目で見てたなんて、もう知らないぶひぃッスマッシュ!!」
くしゃみの勢いでアクセルを限界まで踏んだらしいが、車はのろのろとしか加速しない。
環状線を抜け、いよいよ湾岸を貫く長くて広い直線路。
貨物トレーラーや大型バスも多く、襲撃には絶好のタイミングとポイント。身を隠せるし盾にもなる動く壁がわんさか居てくれる。公道アスレチックだぜ。
俺は、緊張した時のくせで綺麗に整えた薄い口髭を撫でて目を細める。