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疫病神のムルシエラゴ  作者: 愛車 風斗
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 *     *     *



「だから正気なワケねっだろ!」「おじさんうるさい!」

「だけど、これだけいろいろお世話になっておいて、今更なんにもっていう訳にはいかないでしょ」

「そりゃあお前、メンツ」

「今回はメンツ云々の話じゃないでしょ。そもそも今までしてもらった事にお礼らしいお礼はちゃんとしたの?」

「してない……してないけど、あのなあ勘違いしないでくれ、アイツが勝手に始めたことだ。一方的だぞ? ひどいというか無作法だなお前も。しかも、そう仕向けた後ろ盾がどこの誰なのかまだ分かってねえし教えてもくれねえんだぞ。どー考えても怪しいだろ。騙されてんだ。絶対に! 見て見ろこのはした金! ぎりぎり生活できる程度に金を渡して、繋いでおくのが向こうの作戦なんだろうさ」

「そこは大事じゃないでしょ。今回は人としてどうなのかって部分が問われてるの。タヒチさんが望んでいる事で、なおかつお兄ちゃんの新しいお仕事、今回は人様の役に立つことなんだから、とりあえずやってみればいいじゃない。生活もあるのに、甘えてられないでしょ。普通の会社員より少ない時間で一万円も稼げたのならむしろいいじゃないの。一万円稼ぐのって大変なんだから」

「バカいえ、アルバイトから大人の階段昇り始めるニートじゃねえんだぞ。説教垂れるな! だいたい俺はもう三十路も半ばを超えたところで、身を固めるチャンスはこれが最後だよ。いつまでもあんな洗脳行為をカウンセリングだなんだと謳う胡散臭いホステスかぶれの女子大生と、太ったオネエに構ってたら一生を棒に振るっ! もういい、俺に構うな。自分の道くらい自分で決めるんだよ男ってのは! もううんざりだ!」

「お兄ちゃん! ちょっともう一回考え直した方がいいって! ちょっと!」

「お姉ちゃんもおじさんもうるさいし、息臭いよ! おじさん臭い! 息しないで!」

「あんた俺に死ねっていうのか! 子供はあっちに行ってな、ドラえもん観てなほら、借りてきたからビデオ。これ見てカルピス飲んで寝なさい、ほら」

「ドラえもんは好きじゃないの」

「せっかく借りてきたのに文句言うのかよ。わざわざレジに並んだんだぞ俺が! クレヨンしんちゃんは? これも借りて来たんだぞ」

「興味ない」

「じゃあルパン三世」

「いや」

「ワンピース」

「 」

「ナルト」

「 」

「銀魂」

「 」

「じゃあ何なら観てくれるのかな? ええ?」

「渡る世間は鬼ばかり。七話からね!」

「…………ああ。あんたの親父が鬼なの忘れてたわ」

「とにかく、お兄ちゃんは」

「もういいっちゅうねん! ……もういいよ。また倒れるぞ。俺はもう寝る、これ以上はもう、何も言うな。おしまい!」




 *    *     *



 酒が効かない。


「…………おえっ……」


 いったい何年振りだろう。何十年ぶりだろう、こんなに緊張したのは……。


 俺が……この俺がカウンセラー?




 はあ?





 アホ抜かせ。何を根拠にそんな事が堂々と言えるのかな。




 もうアイツには付き合ってられん。

 やめだ、やめ。


 ちょっとエエ奴かなと思いかけてたけど、思い違いやったな。

 友情なんてもん、あらへんし、もしあったとしたら大変や。


 裏稼業の義理人情は、あくまで上下関係と利害関係が明確に成立しとってのお話じゃ。

 ももたろさんを、よぅ読めって話じゃ。だれがきび団子もくれへんやつにノコノコついて行って僕も私もお助けしますよなんて抜かすんや。馬鹿の塊か。宗教やそんなもんは。



 御恩と奉公じゃ。搾取されてたまるか。



 今の若者向け漫画や映画みたいな無垢な友情なんて、まずない。



 アホくさ。

 黴生えるわ。

 草どころか黴生えるわ。


 あー、あかんな、俺も歳やな。変な人情にグラりやらかすとこやった。



 

「あーあ」




 もう、やめや。こりゃ組織におってももう、俺自身がもたん。


 バイトでも探そう。どうせ、サラリーマンは元からダメや。素質ない。


 土木か建設か、害虫駆除でも清掃員でもええわ。身体使って稼げばええ。体力なら自信ある。


 もう、自分に向いてる事で細々と生きていこうや。

 欲は捨てよ。俗世も世間体もさいならバイバイ。


 週に一回、休みの前に冷凍の餃子とビールとカニカマあればええわ。





 もう、疲れたわ。




 ――俺、なんのためにここまで生きてきたんやろな――




「おはよう」

「おう。おはようさん。暑いなぁしかし」

 一瞬、間が空いた。

「……ちゃんとしたスーツ着てきてくれたんだ」

「これしかなかったけどな。こんな物でもまあ、なんとか格好つくやろ」

「上等だよ。似合ってる」

「そりゃよかった」


 ――悪いなタヒチ。

 最後くらい、礼も兼ねておめかしや。

 マダムにも一応、頭下げておくからな。

 

 今日で、あんたともお別れや。若いクセに俺みたいなおっさんとよくここまでお喋りできたな。変に世間慣れしているところから見ると、こういう事は慣れっこなんやろう。


 あんたも俺も、天国には行けない人生を造ってしまったな。


 罪深い者社会のはぐれ者同士、最後の宴といこうや。

 




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