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疫病神のムルシエラゴ  作者: 愛車 風斗
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 寝具、食器、家電、絨毯、洗顔用具、掃除道具、生活雑貨のストック、猫グッズ。


 これらを全て二人きりで片づけて、廃品回収業者へ手渡す。



 俺の受け取った報酬は、九五〇〇円だった。

 実働で五時間程度だったから、条件通りだ。



 内容からすると決して良くもなく……だが時給額だけ聞くと悪くもない……ようにも思えてくる。


 いかんいかん、何を飼い殺しにされようとしているんだ俺は、しっかりしろ、赤い蝙蝠こうもり


 万札いかねえ金貰って何を満足げに額の汗拭ってんだ、目を覚ませ、俺!!!!



「どうだった?」

「ものすごく居心地悪かったわ。もうずっと吐きそうだった。なんなら今もちょっと胃の辺りがムカムカしてる。コーヒーも飲みたくない」

「うふふふふ。慣れだよ、慣れ。私も最初、そうだった」

「こんなもんに慣れなきゃならんなんて。つらい務めやのう。二十歳そこそこの女が耐えられる世界じゃねーだろうに」


 軍手を丸めて奴に投げつけてやる。


「甘い甘い。もっとキツい事はたーくさんある。私にいわせりゃ身体を売ってる女の人たちの方が、耐えられないと思う。私はそれは出来ないから」

「よせ。暗い話はもううんざりだ」

「ふふふふふふ。コタえるよね。わかってる」

「それがてめえの本性か。このサド野郎」

「あ、突っついた、セクハラ!」

「お前に女としての魅力なんてねーわ、法の対象外じゃぼけぇ」

「ひどい、雄の要素ゼロのくせに!」

「はいはい、疲れてんだからデカイ声出すなっての! こんな人の死んでる場所でよう。これだから若ぇ女はうるさくて苦手なんだよ、ったく」



 車に乗って、二人同じ方向を向く。

 そうすると妙に会話が増える。

 女というのは向かい合うと会話が増えているような気がするが、男としては、二人同じ方向を向いた方が話しやすいんだ。


 

「ご冗談を。それにしても、本性かあ。人は本性に逆らって生きるとどんどん運が悪くなっていくんだ。いちばん不幸なのは、無理をして自分と付き合うべきでない人たちと付き合ってしまうこと。不思議な事に悪い方に行けば行くほど、変な人からモテるようになっていくんだよね。それも気付きのきっかけというか……やけに変な人から声を掛けられるようになったなと思う時が来れば、軌道修正の合図だよ」



 なんだか、タヒチのやつは会話のエンジンがかかりはじめたようだ。

 意見を戦わせるのも面倒なんで、ひたすら肯定しておくか。いや、そうすると図に乗って、かえって会話量が増えるんだよな、女って……。



(たか)られても困る。避けられても困る、ってか。そう考えたら人間なんて所詮はただの無いものねだりだよな」

「そゆこと~。だんだん、言動に知性が出てきたよね」

「ふん。元が悪すぎただけよ、なんてことねえさ」



 赤信号で止まる。

 この車のウインカーの音が、初めて少し可愛らしいと思えた。



「人間なんてみんな、女の腐ったような奴さ……もともとね。ただ、どれだけ嫌なサンプルを手に入れて自分の立ち位置を確かめられているか、そこが本物の知性だよね。いい大人が自分のランクや立ち位置がわかってないのが一番イタイよねえ」

「俺もそのサンプルの一つってわけか。お前の性格からして、遠回しに俺の事をなぶってるのはわかってるんだよ」

「そう! 察するスキルが七ポイント上がりました!」


 なんだその、ムカつくジェスチャーは。


「うざい。慰謝料請求してやろうかってくらいうざい」

「今の君に人権なんてないじゃん」

「そういう自分も社会から浮いてるクセに、お前こそ自分の立ち位置がわかってねーから、そうやって自分のこと棚に上げて俺をクサすんだろ。お互い様だろうが小娘」

「それが、私の生き様。私は向上させるのが仕事で、私自身の向上は仕事には含まれてないから二の次でいいの」

「言ったモン勝ちですか、まったく。政治家と同じだなこりゃ」




 マダムの店に入ると、なんと先客がいた。本気で驚いてしまった。

 初めてだ、自分ら以外の人間がいるのを見たのは。



「あら、瑪瑙ちゃんお疲れ様」



 マダムが笑顔で片手を挙げる。体型もあって、まるで招き猫みたいだ。



「おう、お疲れ。この人は、どちらさんだい?」



 サラリーマン風の、眼鏡の男。ジェルで立たせた髪は艶がある。


 まだ若いだろう。二十代後半か三十代前半くらいか。

 社会人としてようやく馬の骨ではなく、少し脂が載ってきた頃、って感じだ。稼ぎ頭であり、住宅や新車のローンを組みだすだろうから経済にとっても重要な年齢層だな。

 

 ……なんて。なんてね。


 

「この前紹介してもらった子。カンちゃん」

「カンちゃん。呼びやすいな。おう、よろしくな。瑪瑙だよ」

「あ、どうも、よろしくお願いします」


 俺は、なんとなく気が引けたが、逆にそうしないと不自然だとも思ってカンちゃんの隣に座った。

 そうしたらそうしたで、居心地が悪いのなんの。

 やっぱり人間関係ってなんか苦手だわ。



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