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こちらの荒い息に気付き、ターレットトラックを操縦していた若い男が気付いて振り返る。
「うわ! 誰、何やってんのお前? ぶおっ」
顔面に投げつける。
「やるよそれ。運賃な。チップも入ってるからさ」
「運賃?……ってお前……これ、俺んとこのワカメじゃねえか!親父が採ってきたやつ!」
「そんじゃ今夜はワカメスープだな。はは。呼んでよお兄さん、俺行くから」
「冗談じゃねえ! 金払え阿保ー!」
――糞が。
――どいつもこいつも金、金。
――堅気は自由があるんだから、贅沢言うな。
――金は大事だけどよ、命さんと自由さんの上には、行けないのよ。
無我夢中で走って走って、建屋の脇に鮮魚運搬用のトラックを見つけた。
キー……差しっぱなし。
ドア……無施錠。
運転手……居ない。
「地獄に仏とぁ、このことかなっと」
あたかもその持ち主であるかのように、悠々と走り去った。
信号を三つ過ぎた時だった。
「……案の定」
尾行。
黒塗りのセルシオがくっついて離れない。
濃いスモークガラスに閉ざされた車内から、妖気を発散させて追って来るのは恐らく敵陣の中堅構成員。手馴れている奴らだろう。
しかし怖がる必要はない。
アクセルを煽ってギアを落とし、サイドブレーキを引きながらハンドルを切る。
後輪が酷い鳴きを上げて一八○度旋回し、セルシオと向き合う形になる。
セルシオも、およそ五十メートルの間隔を空けて急ブレーキで停車する。
沈黙。
お絵描きされた腕が窓から伸び、こちらに銃口を向けた。
「そんなもん、構わねえよ」
クラッチを思い切り繋ぎ、トラックを急発進させた。
みるみる消化される車間距離。
炸裂音。
破裂音。
屈めた頭上を通り過ぎて背凭れに突き刺さる銃弾。
クラクション。
ぶつかる寸前で、クラッチペダルとブレーキペダルを体重をかけて思い切り踏み込む。
トラックはセルシオのすぐ鼻先で停車した。
しかし慣性の法則に負けて荷台に積まれたパレットから沢山の冷凍マグロが雨あられと降り注ぎ、セルシオのボンネットやフロントガラスに楔のように突き刺さった。
割れたガラスが落ち込み、車内に大量の魚の血液と氷水が雪崩込む。
「うわ。敵ながらひどいなこれ」
阿鼻叫喚の地獄絵図、文字通りの悲鳴を聞きながら、塩辛い光景に後ずさりするべく車をバックさせた。
「ボスのタマちゃんに刺身の土産だよ……………………よかったな屑どもが」
そうしてすっきりとしないまま帰路に就いた。