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大人のおもちゃ箱、とでも言ってくれ。
ゴミ袋二十二袋。
壊れた小型冷蔵庫。
折れた物干し竿。
ボロボロのバスケット四つ。
錆ついた自転車。
使わない薬缶。
狭い賃貸から一日で出たゴミの量だ。
一息ついて改めて片付いた部屋と、重なったゴミ袋を目の当たりにして、我ながら本当に驚いたのは記憶に新しい。
「さぁてと。どんな気分?」
「なんか……不思議な気分」
「正直に言って、スッキリしたでしょ?」
「あぁ……確かに。すっきりだ」
「うんうん。何年もずっと滞ってたのに、急に詰まりがとれたみたいに動き出す事もあるってこと、それも学んでほしかったわけなんですよー」
あいつはそう言って、自販機で買ってきたコーラをぐいっと飲んだ。
そしてゲップした。それがなんだか、らしくないというか、印象に残った。
なんだろうか、この胸にサクッと、ジクッとくる不思議な気持ち。
俺も微糖コーヒーを一口やる。うまい。
身体を動かしたから、糖分が身体の隅々まで染みわたっていく。
甘くて、苦い。
どちらも対照的なのに、これ以上ないくらい、上手く組み合わさっている。
「……実は心のどこかで片づけたいという気持ちがあるにはあったはずなんだよね。だけど、一人でやるにはあまりにも負担が大きいから、なんだかんだと理由をつけて先延ばしにしてしまっていた。やるのもストレスだけど、実は先延ばしにし続けてきたことの方が大きなストレスなんだよね。百人中九十九人はあまりそこを理解できてないから、散らかってる家が多いんだってさ。そこを、私の登場でやっと解決できたわけで。救世主なんだから、ちゃんと感謝してよね。ふふふふ」
「……へえ。そうかい。なんかお前って、若い癖になんでも分かったような口を利くねえ。友達居ねえだろ」
「海外にこんな諺があるんだ。『虫歯の恐怖を和らげたいなら、一度虫歯になってしまうことだ。それも、できるだけ早く』よかったらメモしておいてよ」
「ハイハイあとでな。あー。それにしても、今日はよく働いた」
少し休憩をとった。
何もせず、人通りの多いところでぼうっと通りを眺めていると、自分だけ他の人間からは見えていない存在になったようで、不思議な気持ちになる。
気持ちいいんだけど、でも……
……どこか、不安になってくる。
「……さて。じゃあ、とりあえずゴミを捨てにいかなきゃね」
「それもあと。もうちょっと休憩しようや、姉ちゃん」
「もう十五分も休んだんだから、じゅうぶんでしょ」
「そう言わんと。いいじゃねえか。三十五を超えると体力的にキツいんだわ。そういえばお前、歳はいくつなんや? 見たところ二十一、二くらいか」
「精神年齢は十八のままだよ。たぶんこの先もずーっと毎日青春じゃないかな~と思う」
「よしゴミ捨てに行こう」
荷物を積める車が無いものだから、ムーブのトランクに押し込んでわざわざ二往復した。
「おい、おまえもここで降りたらどうや。ゴミだろおまえ」
「私はゴミでもまだ燃えるゴミだろうね。仕事があるんだから。だけど君は全く何の役にも立たない高齢無職だから粗大ゴミに計上しまーす!」
「あ、係員さんこいつも込みで計量してくれ」
「ジョークですよおじさん」
全く笑顔の無い中年の係員から計量カードを受け取り、二人して分別場のコンテナにゴミを投げ込む。
「よっと! ……だいたいよ、俺は無職じゃねえからな! 破門だとか言われたけど正式に抜けるけじめはつけてねーからまだ籍は置いたままだ。いわば休職中だ。いちおう幹部だぞ、これでも」
「あぁああ嘆かわしいなぁ。名ばかり管理職は裏社会まで……」
「あほ! 事情も知らん癖にどの口が言うか」
その時、係員の一人が寄ってきた。
背の低い、ガニ股の丸眼鏡おやじ。
「すんません、それは燃えるゴミにはならないんですわ。向こうの資源ゴミのところで放り込んでもらえますか」
「ほうほう。え? 税金で動かせとるここの焼却炉で燃やせないってか。じゃあお前の家で燃やせばええやろうが。忙しいんだから口出しすんなよ税金泥棒が」
大人しく従うなんて選択肢はない。そのまま投げ込む。
「ああ、あの……機械止めないといけなくなるんで……」
「あらら。もう、ごめんなさい係員さん」
タヒチは俺に非難的な視線を向けた。
「ほら、早く戻して」
「へ? は? どうしたタヒチよ。そら、とっとと運び出せや」
「……今やってるでしょ。ちゃんと謝りな、係の人に」
「嫌じゃ。なんでや。知らん人間にそう易々と頭は下げれやんな。若いのは黙って働け。働いて働いて、腰も心も折れるくらい働いてようやく愚痴の一つも零しゃいいんだ。俺もずっとそうやってきたんだ。甘ったれて楽しようなんて考えてたら、それこそ腰抜けや」
それからは、しばらく奴は無言になった。




