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追いつけない、直感でそう思った。
ああいう時に感じるものって、物理的な距離の問題じゃない。
その場にとり残された俺は、自分の車に乗ってまで追いかける気も起きず、かと言ってずっとそんな所に突っ立っている訳にもいかないどっちつかずの、半ば放心状態でアジトへ上がっていた。
その先に、もっとしんどい事が待ち構えている事を薄々感じながら。
ボスは、なぜかさっきよりは調子を取り戻しているように見えた。
上下白色のジャージに着替えており(どっちにしても全身白色だ)シャカシャカと鞄に荷物を詰め込んで、それを肩にひっかけて紙袋を二つ手に提げた。
「あの、ボス……?何を?」
「おう。お前らにはもう付き合いきれん。好きに生きていけ」
「…………」
どう応えていいのかわからなかった。
「ただ、カナコ――」
ボスの三白眼が俺を射抜く。
「――カナコの行く末だけは、それだけはお前に託す。お前ら二人、破門だ。業界人らしくケツ拭って、しっかり生きていけ。餞別はナシだ」
「は、はい……」
アジトの下から、聞きなれた声が呼んでいる。愛人だ。
ボスは愛人のケイコさんを伴い、ベンツのステーションワゴンで行ってしまった。
もう、咄嗟の判断や感情が全く何も起こらない。
何も考えていなかった。
ただただ、目の前の映像を他人事としてボンヤリ眺めて。
ああそうなんだ、ああこういう事になったんだ、と頷く。
だけ。
そういう状態。
「待てよ。あれ、カナコって……まさか」
――ボスには正妻がいた。
そのうえで愛人との間にも女の娘が生まれている。
いわゆる妾の子というやつだ。
七歳、ピッカピカの小学校一年生のカナコちゃんの面倒を俺に託すという事は、もちろん破門された俺に華やぐ素敵なアルバイトを紹介してくれたという訳ではない。
じゃあ、なぜボスはわざわざ可愛いこの少女を俺に託したか?
それは……想像したら、それが現実になりそうだから、想像しないでおこう。
何もかも、失った俺。
いや、残ったもの。
自分と全く関係のない小学生と、原因不明の難病で二か月前から寝たきりの妹。
……。
絶望。
絶望。
絶望。
気力も体力も、どこにも残っていなかった。




