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手遅れだ。
車はふわりと車体を揺らしたかと思うと、最後尾のカリナンのリアフェンダーに擦りつけるようにして接触した。
「うわあ、しまったぁぁああ!!」
「おまえ馬鹿野郎がッ!! 運転中に目ぇつぶる奴が一体どこの世界に居る!!」
「だって瑪瑙が想像しろって言ったからそれを」「目ぇつぶってまでしろとは言ってへんわ! いいから本線から降りろ今すぐ速やかにせえ!」
車は身震いするように左右に揺れた。
車内から凄まじい妖気を纏った視線を感じる。前方の車両が、まるで先へ行かせまいと立ちふさがるようにぐっと自車の前に車線を変えて減速してきた。
「そこ、出口! ほら左に逸れて入れ、ほらそこ」
「わかった、わかった、わかったから」
その時、鉄板をたたくような鈍い音が車内に木霊した。
カリナンの窓からスーツの腕が伸びていて、銃口が向けられている。
「ヤバイ! 屈め! ハンドルの間から前を見て逃げろ!」
「う、撃たれる! 嫌だ、死にたくない!」
「ハンドルちゃんと持て、聞けクソデブ!」
丸くなってしまった虎目は使い物にならない。
俺も頭を低くしながら、助手席から片手でハンドルを操ってなんとか出口の方へ車体を向かわせることができた。
相手は連続して三発ほど発砲してきた。
運転席の窓に赤い液体が飛び散る。
「あ……おい虎目!! 大丈夫か!?」
頭の中と胸の中が真っ白になった。
相棒は頭を抱えたきり何も喋らない。
車はもちろん高速走行している状態だ。
「くそ、とりあえずどこかに止まってやるから待ってろ、ええか、死ぬなよ……」
車は本線から外れ、高いコンクリート塀が車列と俺たちを遮断した。
そこで俺は助手席から身を乗り出して右足を相棒の股の間へ突っ込んでペダルへと伸ばし、片手でハンドルを操って迫力のある立ち乗り状態で車を高架下まで運転していった。この車種の内装が、センターコンソールが無く、ついでに変速操作器がコラムシフトタイプで良かった。
急いで車を降りて車体を確認すると、右側面に大量の赤い液体がこびりついていた。
極めつけに、虎目は全く無傷で、ただ白目を剥いてヨダレを垂らして気絶しているだけだった。




