復縁したいと言ってももう遅い
私はライちゃんと別れ、自宅のお屋敷に帰ってきた。
両親は私の姿を見るやいなや泣いて歓迎してくれた。
両親と食事をしながら、旅の思い出を沢山話した。
初めて訪れた街のこと。食べたことの無い料理のこと。物語を書いて収入を得ていたこと。
「製紙会社と印刷所を買収して安定生産を図り、流通システムを強化して広範囲の街に同時に出版して。後は物語に絡めたアクセサリーや食事の提供をしたり…。
なるほど、あちらの家と連携すれば…。うむ、上手くいきそうだ」
お父様は私の小説の話を聞くと目の色を変えて販売展開について考えていた。
ライちゃんもそうだけど、ホントうちの周りは商魂逞しい人が多い。
なによりまだまだライちゃんとの繋がりは切れなさそうだ。
旅を再開することに関しても許可を貰えた。
定期的な連絡を条件に加えられているけど。
一通り私の話を言い終えると、お父様は少し考えた顔をしながら会話を切り出した。
「今の所断っているのだが―――」
お父様は一枚の、くしゃくしゃにされた手紙を取り出した。
アラン様からの謝罪文と再度の婚約の申し出だった。
「アラン…君のことだが、どうしたい?
ソフィの好きにしてくれて構わないのだが」
お父様は苦々しい表情でこちらを見た。
「アラン君がこの屋敷に訪れた時は、ホント大変だったのよ。
久しぶりに恰好のいいお父さんが見られて、お母さんは嬉しかったけど」
隣に座っていた母は嬉しそうにそう言った。
多分お父さん的には婚約は破棄したいのだろう。
それでも聞いてくるのは他でもない。
「もしお前がまだ、アイツのことが好きだというのなら…」
私のことを強く思っているから。
昔から私がアラン様のことをお慕いしていたことを知っているから。
「明日、アラン様を呼んでください。
私の口からお話しします」
「そうか…。ソフィ、強くなったな…」
お父様は息を漏らすようにそう呟いた。
明日全てを終わらせる。
ライちゃんと旅を再開する為に。
私は過去の自分を乗り越える。
翌朝、私はメイドに起こされる前に起床した。
鏡の前で髪をとかし、自分の思う一番綺麗な状態にする。
万全の状態で迎えなければならない。戦士が戦場に赴くように。
屋敷の前に馬車が停まる。
中から金髪の青年が降りてくる。
顔はやつれている。何があったかは想像に難くない。
彼は馬車から降りるとすぐに頭を下げかけた。
が、私の姿を見るとその寸前で固まり、動けなかった。
「謝罪もないのかね?」
「はっ、はい。
この度は誠に申し訳ございませんでした!!」
お父様の言葉に我に返ったように謝罪を口にする。
続け様に怒号でも飛ばしそうだったお父様の間に入り、私はアラン様の前へ出る。
「お久しぶりです。アラン様」
私は落ち着いた声色で彼の前に立った。
「えっ…」
彼は思わず息を吐いた。
きっと以前見た時と雰囲気が変わったように見えたのだろう。
腰まで長く伸ばしたブロンドの髪は、肩の長さまで切り落とした。
古くから婚約関係だったアラン様にはこの意味が分かるはずだ。
この国では髪の長さが女性としての象徴とされていた。
だからこそ婚姻関係の貴族の女性のほとんどは、長い髪を持ち手入れを怠らなかった。
今までの私はそのことを疑問に思わなかった。
だけど旅に出て、街から出て、その価値観が狭い範囲のものだったのだと知った。
何よりもアラン様との決別にこれほど意味が深いことはないだろう。
「見ての通りです。私は貴方と復縁するつもりはございません。
もう二度と私の前に顔を見せないでください」
「待ってくれ」
「往生際が悪いぞ」
アラン様はお父様に取り押さえられ、馬車の中にぶち込まれ、家へと返品された。
後々聞いた話だと、アラン様とアラン様の実家の関係は冷めきっており、私との婚約を戻せなければ家を追い出されることになっていたらしい。
それを事前に聞いていれば―――変わらないかな?
「ふぅ、終わった…」
私は大きく息を吐いた。
何だかんだ言っても緊張していた。
だけどこれで私の中の未練は全て無くなった。
安心して旅に出ることが出来る。
「次は何について書こうかな」
私はそう呟きながら次の物語を思い描いた。
最後まで読んで頂きましてありがとうございました。
これにて本小説は完結になります。
話をまとめるというのは難しいと強く痛感させられます…。
もしよろしければ感想や気になったところを教えていただけましたら、
次回作で改善しようと思います!!
お気軽にコメント頂けたらと思います