第一話
約17前に書いた大切な作品です。
友達にキャラの名前を考えてもらった思い出。。。
その頃はガラケーで書いてたなぁ。
文章の手直しはあまりしないで残り、三分の二をゆっくりと更新します。
「今年は降らなさそうだね…雪」
「うん…そうだね」
もうすぐしたらここは桜の花びらで綺麗に彩られる道になる。
車椅子に乗っている少女、桐宮 雪那。そして、その車椅子を押している少年、永枝 細希…この二人は桜並木を眺めながら歩き続けていた。
「雪好きなのになぁ…」
「来年があるよ」
どこか弱弱しげに呟く雪那を細希は立ち止まらない代わりに歩くスピードを緩めた。
細希は雪那の頭を見つめ優しい声で返した。
「そう…だよね」
雪那はそう言うと空を見上げるために頭を上にあげた。
その時、細希と目が合いお互いに意味もなく笑った。
お互いに好意を抱いてはいるがそれが友達としての好意なのか異性としての好意なのかは一緒にいる時間が長すぎて逆に分からなくなっていた。
更に細希にとって雪那は存在するために必要な存在で雪那にとって細希は生きるために必要な存在だった。
細希と雪那にはそれぞれ病気があった。
雪那はただ単純に生まれつき心臓が悪く入退院を繰り返していた。
細希は両親の愛を一心に受けて育ったが両親は細希を裏切り、そしてお互いを殺し合った。
その事情により細希は人としての大切な心を無くしてしまい人として存在しなくなっていた。
そんな二人は今日までお互いを補いながら生きていた。
今よりもずっと前、雪那は久しぶりに出会った細希が変わり果てていた事を笑い自分の世話をするように命じた。
細希は深く考えないでその申し出を了承した。
しばらくすると細希は雪那の前では素直に笑う事が出来るようになった。
雪那も細希といると心から笑い少しは健康になっていった。
この二人は二つで一つの樹の様な存在にゆっくりと変わっていった。
だからこの二人がこの病院で再開したのはきっと偶然では無く必然だったのだろう。
「でも…もうすぐ桜で満開になるよ」
細希はゆっくりとしたスピードで歩きまだ蕾の桜を見ていた。
「…そうだね」
雪那もまた細希のスピードに合わせて桜の蕾をみていた。
「二人だけで花見しようね?」
「うん…」
「満開だと人がいっぱい居るから少しだけ咲いたらにしよっか?」
「うん…」
二人はゆっくりとまだ蕾の桜を見ながら病院に帰った。
*
その日の夕方、最初に雪那が倒れ、後を追うように細希も倒れた。
雪那の体はもう春を迎えられるほど健康ではなかった。
そして細希は雪那が今、ここにいるからこそ心が生きることが出来ていた。
つまりは細希にとって雪那はそういう存在であり雪那の死はそのまま細希の心の死でもあった。
その日の夜、雪那の手術は一応は成功に終わりそれに呼応するように細希も意識を取り戻した。
「まだ生きてるんだね…私」
「そうだよ」
「別に向こうまでは世話しに来なくて良いんだよ」
「それは…僕の勝手だよ」
二人部屋のベッドの上で顔を合わせずに話し合っていた。
普通ならばこの年頃の男女を二人部屋に入れることは無いのだが、この二人は特別だからこういう事になっている。
細希は雪那から離れすぎると直ぐに意識がどこかに飛んでしまい呼吸をする事さえ忘れてしまう。
雪那は細希から離れすぎると直ぐに体調が悪くなり発作を起こしてしまう。
それゆえに二人は同室になった。
看護師や医師はそんな二人のことをダブルスと呼んでいた。
「勝手…じゃないよ」
「なんで?」
「だって私の分もこの世界で生きて欲しいもん」
「うん…でもだめ。僕はどこまでも君の側にいるって約束したから…」
細希の言葉を聞いて雪那は小さくため息を吐いて廊下側の細希のベッドに視線を送った。
「…それは私のため?…だったら偽善だよ。それ」
雪那は一言、言うと首を反転させて町明かりで仄かに明るいけど暗い空を眺めた。
「うん…知ってる」
細希もまた窓の向こう側を見ていた。
「雪…やっぱり降らないね」
「そうだね」
細希、雪那はお互いに窓際に寄り添い空をしばらくの間何も言わずに見上げて続けた。
仄かに暗い空はまるで細希、雪那の行く末を語っているような暗い感じがしていたがその中にどこか優しく温かい感じがした。
「ねぇ…」
「………」
「約束してくれる?」
「………」
「私が死んでも私の分まで生きるって…」
「………」
薄暗い病室で雪那の声だけが木霊していた。
その声に細希は返事を返せないでいた。
雪那の消失など細希には考えられないからだ。
*
朝早くに二人はまた散歩に出掛けた。
「もう少ししたらここも人でいっぱいになるんだね」
「花見の季節だからね…」
「もっとしたらここも無くなるのかな?」
毎日変わらない道のりを細希と雪那は歩いている。
「それが時の流れだよ…僕達みたいにね」
「そうだよね…やっぱり」
「悲しい?」
「悲しくないの?」
「悲しtいよ。でも…僕達がここにいた事が残るのと同じでここも…ここの存在も残るよ」
細希は一本の大樹の前で足を止めた。
その樹の下の方には擦れた相合傘が刻まれていた。
細希と雪那はその擦れた相合傘を見てその奥に在る思い出を見ていた。
冷たい風が桜並木を吹き抜けて二人を現実に戻した。
「もうそろそろ帰ろうよ?」
「…うん。そうだね」
二人はまた桜並木を通りながら帰っていった。
もともと雪那は今年の冬の頭辺りが死期だと言われていた。
だから、その日の夕方に雪那が最後の発作を起こしたのも自然だと思えた。
*
二人にはどこか頼りない顔をしている担当医、加賀先生がついていた。
この加賀先生だけは二人をちゃんとした目で見てくれている。
細希と雪那はそれを知っていたから加賀先生の言う事だけは素直に聞いていた。
そこまで信頼のある加賀先生だからこそ細希は倒れる前に三つのお願いをしていた。
加賀先生はその三つの願いを苦笑いをして引き受けると細希の頭を撫でた。
次の日の夜明け前の深夜、雪那は目を覚ました。
「………」
雪那はいつものように窓の向こうを見ている。
コンコン
「………」
ノックの音は雪那にも響いたが雪那は窓の外を見続けていた。
扉は雪那の意思とは関係なく開き、加賀先生が入ってきた。
「先生…この部屋ってこんなにも広かったんですね」
雪那は振り返らないで近付く加賀先生に声をかけた。
「ちょっと…いいかな?」
加賀先生はちょっとだけ暗い感じの声を投げ掛けると雪那は思わず振り返ってしまった。
いつも笑顔の加賀先生が珍しく真剣な顔で雪那を見つめている。
だから雪那は一瞬目を見開いて驚いた…だけど直ぐにクスリと笑った。
「だめですよ…子供に告白しちゃ」
雪那は微笑みながら口元に手をかざした。
「いや…そうじゃなくて…」
「まさか!襲いに来たんですか!?」
「そうじゃなくて!今からちょっとだけ屋上に行こう」
あまりにも真剣な顔をしている加賀先生から認めたくない真実を話されるかもしれないと思った雪那は加賀先生をからかっていた。
「いやです」
だから当たり前と言えば当たり前の答えを雪那は加賀先生に返した。
その返事が来ることを加賀先生も最初から分かっていた。
「だ~め。強制的にでも連れていく」
「叫びますよ?泣きますよ?セクハラ医者扱いさせますよ?」
「それでも連れていくって約束したから…」
雪那を本当に強制的にこの場から離れさせると叫び散らすのは火を見るよりも明らかだった。
だから加賀先生は更に真剣な表情をして雪那を見つめた。
しばらくの間、二人を沈黙が包み込んだ。
「……分かりました」と言うと雪那は近くに置いてある愛用の車椅子に手慣れた感じで乗った。
「なら、行こうか?」
雪那は頭が良い方なのですぐに結論が出たのだろう。
今、聞かなくても昼には必ず誰かによってもしくは自分自身によって分かってしまう。
ならば優しくてお人好しの加賀先生から聞いてみても良い気がした。
屋上に着くと一陣の風が吹き抜けてきた。
もう春が近くに有ること語る風…
「僕はね…彼に三つの事を頼まれたんだ」
「………」
「一つ目は君を夜明け前にココに連れてくること…」
「………」
「そして、二つ目はこれを君に渡すこと」
加賀先生は雪那に近付いて小さな手紙を雪那に渡した。
表には雪那の名前が汚い字で書いてあり、裏には細希の名前がこれまた汚い字で書いてあった。
雪那は受け取ると丁寧に封を破いて中身を読んだ。
読み終わると雪那は誰にも顔を覗かれないように俯いた。
「…だから…君は…偽善者なんだよ」
雪那は泣く寸前の声で呟いた。
加賀先生はそんな我慢をする雪那の肩にそっと手を置いた。
どんな時も雪那は泣くことが無かった…
自分の死期を聞いてしまった時も飼っていた最愛のペットが死んだ時も泣かなかった…
それを知っている者達はきっと涙が枯れているとか心が病んでしまってると言って雪那を腫れ物扱いしていた。
細希が隣に居るようになってからはその扱いは更に酷くなったがそれでも涼しい顔をしていた。
なぜなら、雪那も世界が嫌いだったから…
世界を嫌う雪那と雪那を嫌う周りその二つの歯車が歪に噛み合っているのを修正するように機会が与えられた。
細希と言う小さく頼りない少年を使って…
世界と雪那はお互いに半歩ずつ歩み寄り続けた。
そして今では昔に比べ距離は近くなってしまっていた。
だから、雪那は涙を流し、声を上げて泣いていた。
涙は枯れるという事を知らないように次から次へと零れ落ちた。
散々泣いた後、雪那が顔を上げると白い物が顔に舞い降りてきた。
「降ったよ…ちゃんと降ったよ…私は見れたよ…ちゃんとここにいて見れたよ…君は見れてる?」
雪那は空に向かってまだ泣きながら姿の見えない誰かに語りかけている。
「君は生きるんだよ。彼の分まで…」
加賀先生はそう言うと雪那と一緒に雪那の未来が幸せになることを祈っているように舞う雪を見つめた。




