思い出した
大きなタオルケットにくるまれたオウシロウが、警備員の大人たちに囲まれ、事務所へと連行されようとしていた。そこに偶然通りかかった九条が警備員たちに事情を説明した。
「それは災難だったねぇ。でも次からは気をつけてよ?」
なんとか許してもらえて警察沙汰にはならずに済んだ。
オウシロウは九条に正座をさせられ言いつけを守らなかったことをこっぴどく叱られた後、九条が売店で買ってきたお土産用に売られていた白地にワンポイトの謎のキャラクターがデザインされたダサダサのTシャツとハーフパンツのセットをもらい、着替えを済ませてクソをしに行った。
トイレからもどってきた鈴木もオウシロウと同じデザインのTシャツをもらって今着ている服の上からそれを着た。
オウシロウを待っているあいだに九条と鈴木は近くにあった移動販売車でおしゃれなドリンクとホットドッグをそれぞれちがう種類のを3人分、九条のおごりで買って、ルーフを開けたオープンカーでそよ風と日差しを感じながらみんなでお昼ごはんを食べた。
そしてサービスエリアを後にした。
このあとの事を食事中に話し合った結果、オウシロウは午後から部活で九条と鈴木はもう家に帰りたいという意見が一致して平岡の面会は明日にしようという事になった。
オウシロウは明日も朝から部活で午後はバイトがあるので行けないらしい。
鈴木と九条はまだお互いの連絡先をしらなかったのでスマホで連絡先を交換した。その時、オウシロウとは別に交換しなくてもいいかなという雰囲気が女2人からただよっていたが、2人が交換するところをオウシロウがホットドッグにかぶりつきながらじっと見ていたので、鈴木が気を使って「オウシロウ……も交換する……?」ときいてあげたら「スマホは部室に置いてある」と言うので無事交換しなくて済んだ。
☆
草林高校に着いた九条たち。
停車すると「じゃあな」とすぐに車から降りようとするヒーポ君を被ったオウシロウを「ちょと待ちなさい!」と九条が引き留めた。
言われた通りにちょっと待つオウシロウに九条は「今から車を洗うから、あんたも手伝いなさいよ」と言った。
という事で学校の駐車場のすみに車を止めて、3人で車を洗うことになった。
九条が指示を出して、オウシロウが近くの水道からホースを伸ばしてきて、フロアマットを取り出して洗って干して、鈴木と九条はどこかから借りてきた雑巾を濡らして絞ってシートやハンドルやダッシュボードなどをきれいに拭いて汚れを落とした。
水道まではまあまあの距離がある、しかし汚れた雑巾は何度も洗わないといけない。だからといってホースの水を出しっぱなしにしておくのももったいない。
という事で水道の開け閉めはオウシロウの仕事となり、九条や鈴木に「オウシロウ! 水出してきて」「オウシロウ! 水止めてきて」とお願いされるたびに彼は走って何度も行ったり来たりする羽目になった。
まあオウシロウは行ったり来たりするのが楽しそうだからそれはいいとして。
仕上げは除菌スプレーを塗布した雑巾で三人で手分けして車内を二度拭きして中の掃除はおしまいだ。
次は外側だ。
窓と屋根を閉じた車にオウシロウがホースで水をかけていく。
そんなところにたまたま通りかかったのは女子バレー部のキャプテン飯田小春だ。
バレーのぴたっとしたユニフォームを着た彼女はクラスメイトの九条がパンダとペンギンと一緒に車を洗っている所を見かけて興味を持って近づいてきた。
「何してるの?」
「あら、飯田さん。こんにちは」と九条。
「こんにちはー」とあいさつを返す飯田。
スチールバケツに入った水で雑巾を洗っていた鈴木は飯田の事をあまり知らなかったが先輩という事だけはわかっていたのでいちおう「こんにちは……」と会釈をして再び雑巾を洗った。
オウシロウはホースで水をまくのに集中していた。
「今ね、車洗ってるの」と飯田に言う九条。
「あはは、それは見たらわかるよ。なんで仮装して車洗ってるのかな~と思って」
「ああ、それはね。話すと長くなるんだけど。ちょっといろいろあってね」
「そうなんだ……。これだれの車?」
「私のよ」
「ええっ、すごーい! これ外車?」
「う~ん。よくわからないわ。見た目で選んだだけから」
「へぇー。かっこいいー。九条さんて運転できるんだね。すごーい」
「まあね。うふふ」
九条と飯田がどうでもいい立ち話をしていたら突然、鈴木が「キャアアアアアアー!」と叫んだ。
オウシロウが鈴木の後頭部に水をかけたからだ。
「どこにかけてんのよ! もう最悪」と鈴木。
そしたら「濡れたぐらいでギャーギャー騒ぐな」とオウシロウが言うもんだから鈴木は怒ってびしょ濡れの雑巾をひょいっと振ってオウシロウに水しぶきを飛ばしてやった。
そうしたらオウシロウは「へへー! 俺はヒーポ君をかぶってるから水をかけてても全然痛くもかゆくもねえよ! バーカ!」とヒーポ君の顎ひもを引っ張った。
ヒーポ君は『ぎゅぎゅぎゅぅぅ~ぎゅぅぅぅ~』と嘴を大きくあけ、羽をばたつかせて憎たらしく威嚇した。
鈴木は「もう怒った! ええい!」とバケツに入った水をオウシロウにぶちまけ、避けずにびしょ濡れになったオウシロウはホースで鈴木の顔面に水を噴射した。
それで鈴木は「キャアアアアア!!! バカーッ!! そのホースをかせーっ!!!」とブチキレてホースの取り合いになってしまった。
「イヤだね!」
「貸せー! オウシロウー!!」
「今オウシロウって言った? オウシロウってあのオウシロウ!?」と飯田が気付いたところでオウシロウが振り回したホースから噴き出した水がびしゃっと飛んできて、飯田と九条までもびしょ濡れになってしまい、二人も怒って皆でホースの取り合いになってワーワーギャーギャーと大騒ぎになってしまった。
そしたら「何をやってるんだ!」と警備員のおじさんがやってきて何とか騒ぎは収まったが。
「ほんとうは学校では洗車はやってほしくないんだがなぁ……」と良い顔をしない警備員さんに九条が理由を説明して今回だけという事で何とか許してもらえました。
まだ洗車は終わっていない。次は九条がどこかから持ってきた洗剤とスポンジを使って泡を立ててみんなで車を洗っていった。
なぜか飯田も手伝う事になった。
モコモコ泡で覆われたボンネットの上でオウシロウはバックスピンをきめて回転しながら滑って地面に落ちた。
「あ痛っ!!」
九条と飯田はトランクの上に座って泡にまみれて様々なセクシーポーズを決めて、その撮影を頼まれた鈴木はスマホで色々な角度から撮影をした。
女豹のポーズをとり、グーに握った右手で鼻の横をかく真似をする九条が「どう? 私セクシーでしょう?」ときくと鈴木は「はい。とてもセクシーです」と答えて。
車の横で人魚座りをして後ろタイヤに胸を押し当てながらいやらしくホイールを撫でていた飯田が「鈴木さん、私は?」ときくので「飯田先輩もとてもセクシーです」と答えた。
そのあとも九条と飯田は、二人で並んでトランクの上に両肘をついてもたれかかって尻を突き出すポーズをとったり、トランクの上に腰かけた九条に飯田が膝枕をしてみたり、トランクの上で右を向いて膝をついて後ろにいる九条が飯田の腰に手を当てて汽車ポッポ風のポーズをしてみたり、ツルっと膝を滑らせて「キャア!」ともたれかかったりケタケタと笑ったりわちゃわちゃしたり。
鈴木は撮影をしながら、九条先輩の濡れた白いノースリーブのブラウスが肌にピタッと張り付いているのがとても破廉恥で色っぽいと思った。
あと飯田先輩のバレーのユニフォームから透けて見えるブラもとても破廉恥で色っぽいと思った。
九条は「今度はあなたを撮ってあげる」と鈴木からスマホを受け取ると、鈴木の顔を見て「ひどい顔ねと」とほぼ取れかけた鈴木のパンダメイクを雑巾で優しくふき取ってあげて、ある程度きれいにしてくれた。飯田は鈴木のボサボサになっていたお団子ヘアを解いて手櫛で適当にかわいくなるように整えてくれた。
それから九条と飯田はプロのカメラマンのように指示を出して撮影した。
「はい、胸をトランクの上に乗せて!」
「胸をもっと寄せて!」
「トランクにもたれかかるように寝そべる!」
「首をもっと傾げて!」
「相手を挑発するような表情で!」
「もっと色っぽく!」
「上目遣いで!」
「次はボンネットの上に四つん這いになってみようか」
「もっとスポンジに泡をつけて車をこすって!」
「いやらしくスポンジを絞って胸に水をたらして!」
「鼻の上にも泡をのせよう」
鈴木は2人から次々と出てくる指示に戸惑ったり焦ったりしながらもなんとか先輩たちの理想のポーズを再現してみせた。
「かわいい~! すごく盛れてる~!」
「鈴木さん、この画像、私のインタスにアップしてもいい?」
「い、いいですよ……」
「ねえ、今度は3人でボンネットの上で撮らない?」
「いいわね。撮りましょう」
「は、はい……」
女たちが車の後方でキャッキャうふふとセクシー撮影会に夢中になっていた時、オウシロウは少し離れたところから助走をつけて「フゥーーーーーーー!!」とボンネットの上に背中から飛び乗りクルンと回って滑りながら地面に落ちていくという遊びをあきもせずにひとりで爆笑しながら何度も繰り返していた。
しかし今は女たちにボンネットを占領されてしまったので、オウシロウは今度は駐車場を走って何度も行ったり来たりして「フォーーーーーーーーー!!! ぎゃはははははは!! ぎゃはははは!」ととても楽しそうに地面の上でストレートスライディングとフックスライディングとヘッドスライディングの練習をして遊んだ。
全身が血だらけだったのも血が染込んで赤くなっていたTシャツも泡と水のおかげでいつの間にか全部綺麗に洗い流されていた。
そのあと女たちは泡まみれのスポンジと泡まみれの身体を使っていやらしく車を洗った。
九条が「そこまで綺麗にしなくていい」と何度も言っているのにオウシロウは聞かずに車の下にもぐって車の下面を丁寧にスポンジで洗っていた。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーー!!!!」
突然叫ぶ鈴木。
車のしたから下半身をのぞかせていたオウシロウの濡れた白いハーフパンツの股間にうっすらとちんちんが浮かび上がっている事に気が付いたのだ。
ノーパンだから仕方ない。
「「きゃはははははは! あははははは!」」
飯田と九条は爆笑していた。
何事かと車の下から出てきたオウシロウに、飯田が「あんたちんちんが透けて見えてるよ。何かで隠しなさいよ」というのでオウシロウは頭に被っていたヒーポ君を再び股間に装着する事になった。
最後はどこからか持ってきたドラム缶に水をいっぱいになるまで入れてみんなでせーので持ち上げてバシャーーー!! っと豪快に車にぶっかけて、洗車は無事終了した。
記念にみんなで撮影しましょうと九条が言って、女たちはピカピカになった車に胸をのせてもたれかかったり、おしりを突き出して車にこすりつけたり、ボンネットの上に寝そべったりしてそれぞれ思い思いのセクシーポーズを決め、それをオウシロウが九条のスマホで撮影した。
オウシロウは撮影をしながらスマホ越しに九条の顔を見て何処かで見たことがある女だなと思った。
そして思い出した。
このまえ部活終わりにサトシと一緒に楽しそうに話をしていた女だと、サトシの乳首をツンツンして喜んでいた女だと。
オウシロウは険しい顔をしてボンネットの上で寝そべっている九条に近づいていくとスマホを差し出した。
「なによ。もっと撮ってよ」と言う九条。
オウシロウは「もう終わりだ」と睨んでいた。
「どうしたのよ急に。なんで怒ってるのよ。あんたも一緒に写りたかったの?」
「サトシは俺のものだ」
「え?」
「サトシに色目使ってんじゃねえよ」
「え? 何のこと」
「とぼけやがって」
「え!?」
オウシロウは車の上に寝そべっている九条の腹の上にスマホを置くと「とにかくサトシは俺のものだから。気安く話しかけんなよ」と睨みをきかしてどこかへ行ってしまった。
「なに急にキレてんのあいつ」と飯田。
☆ ☆ ☆
その日の晩。
鈴木は姉のカズハに服を勝手に借りた事と、鳥に奪われて失くしてしまった網のドレスの事を正直に話して謝った。
そしたらカズハは「そんなドレス、私は持ってないわよ」と言うので鈴木が詳しく説明をしたら。
「それってもしかして、漁に使う網の事じゃない? ずっと前に漁師の元カレが部屋に遊びに来た時に忘れていったやつ」
「えっ……」
「これがあれば魚がたくさん取れるんだぜ、とか言ってたけど。まあ邪魔だったし捨てようと思ってたから処分できてちょうど良かったわ」




