かわいい犬
いっぱいはしゃいで、お腹も少し満たされたからか車内はずいぶんと静かになっていた。
オウシロウが「クソがしたい」とぼそっともらしたが九条と鈴木は無視して隣を並走して走っていたミニバンに何かをみつけて笑顔で手を振っていた。
ミニバンの後部座席のチャイルドシートに双子の幼女たちが座っていたのだ。ガラス越しだが無邪気にニコニコして小さくてかわいいぷにぷにのおててを振っている。
「かわいい~。こんにちわ~」、「双子ちゃんかな~。かわいいわね~。バイバ~イ」なんて言いながら手を振り返す鈴木と九条。
幼女たちは何気なくオープンカーの後部座席の方を見て、急に目を丸くしてビクッと身体を硬直させ、おびえたように震え、だんだんと顔をしわくちゃにして「「うわぁ~んっ!」」と二人同時に泣き出してしまった。
どうしたのかと後部座席を見る鈴木。
九条もバックミラーで後ろを確認した。
そこには目をまん丸と大きく見開いたまま無表情で幼女たちを見ているオウシロウの姿があった。
鈴木が再びミニバンの方を見たら、助手席に乗っていた母親らしき人が後ろを振り向いて幼女たちをあやしている様子が見えていて、ハンドルを握っている父親らしき人とふと目が合った。
鈴木のパンダ顔を見て一瞬ビクッとする父親らしき人。
鈴木はなんだか気まずく感じてすいませんと言う感じで軽く頭を下げると父親らしき人もよくわからないけど軽く頭を下げて返した。
しばらく走っていると、またオウシロウが「クソがしたい」とぼそっともらしたので九条が「あんた刑務所でもやったって言ってなかった!?」ときいたら「ゲリだからまだしたい」と言うので「しょうがないわねぇ」と近くのサービスエリアへ寄ることになった。
サービスエリアは今日は休日という事もあって結構人がいた。
人目を気にして車の屋根を閉めた九条は駐車場に停車した。
車からすぐに出ていこうとするオウシロウに「ちょっと待てオウシロウ!」と引き留める九条。
「あんたこの格好のまま外に出たら通報されるわよ。私が売店に行って何か着れるものがないか探してくるからちょっとの間だけ車の中で待ってなさい」とボサボサになった髪の毛を後ろで一つに束ね、ポーチバッグを持って出て行ってしまった。
車内には2人だけ。
沈黙になりなんだか気まずい様子の鈴木。
駐車スペースをふたつあけた左隣にエンジンをかけたまま止まっているSUV車に2匹の犬がお留守番しているのに気が付いて「オウシロウ。見て、あの車。ワンワンが乗ってるよ~」と指をさした。
「あれはトイプードル? と……ゴールデンレトリバー? かなぁ? お~い! ワンワンたち~」と手を振る鈴木。
犬と目が合った。
「あ、気づいた!」
犬たちは鈴木に気が付くと目を輝かせて舌を出しながら尻尾を振ってワンワンと吠えて遊んでほしそうに前足で窓をかきだした。
「わぁ~。かわいい~。バイバイ~。ワンワ~ン。遊んであげたいんだけどね~。今は無理だよ~。ごめんね~」
犬たちはオープンカーの後部座席の方を見て「「ワンッ!!?」」と驚くように飛びあがって後ろに後退した。そして怖がるようにブルブルと震えて「「クゥン……」」と2匹同時に情けない声をもらして身を伏せて見えなくなってしまった。
急にどうしたのかと鈴木が後部座席を見ると、オウシロウが目を大きく見開いたまま無表情でSUV車の窓を見つめていた。
「何でそんな怖い顔をするの!? 犬たちが怖がってるでしょ!?」と責める鈴木。
「雑魚どもが」
「何が雑魚どもがよ!? あんたさっきも双子の女の子たちにその顔して泣かしてたでしょ? なんでそんなことするの!?」
「知らない奴がニコニコして近づいてくる時は警戒しろって教わっただろ?」
「警戒って。あんたね、チャイルドシートに縛られた2、3歳児に何を警戒するっていうのよ!?」
こいつとは話にならないと思った鈴木は「はぁ」とため息をついて前を向いた。
また沈黙の時間が続く。
その時だ。
プぅ~~!
か細い高音のおならが鳴った。
車内は飛び散った産廃スナックのせいですでにクサかったがさらにくさくなった。
オウシロウは窓から外をぼーっと眺めていてなんともないようだが。
なんだか鈴木の様子がおかしい。
彼女は身体を丸めるようにしてお腹を抱え、額には汗をかき、顔を赤くして恥ずかしそうに目を閉じていた。
プッ! プゥゥゥ~~。
また高音のおならだ。
「ごめんっ。わたしトイレ行ってくるっ!」と言い残すと鈴木はオウシロウの顔も見ずに車から飛び出して行ってしまった。




