3人でドライブ
九条は鳥たちが追ってこないのを確認してから十分な幅員のある路側帯に駐車して、後方に停止表示器材と緊急保安炎筒を置き、それから後部座席の上に立って隙間にはまっているオウシロウを引き抜いた。
その間、鈴木はヒーポ君を股間から離さないようにがんばっていた。
なんとか隙間から抜け出る事が出来たオウシロウは鈴木からヒーポ君を受け取るとパンツを穿くように顎ひもに脚を通してヒーポ君を股間に装着した。その際にゴム製の顎ひもがひっぱられたせいでヒーポ君は威嚇をするように羽を上げて、くちばしを開いて『ぎゅぅぅぅぅ~』と一声もらしてその様子を興味ないふりをしてちらちらと見ていた鈴木は鼻血を噴出した。
オウシロウは鳥たちにやられて全身血だらけで真っ赤っか、鈴木も鼻血のせいでほとんど血だらけ、九条はそんな二人を心配して病院に行くか聞いたが二人が大丈夫というのでみんながちゃんとシートベルトをしているのを確認して再び出発した。
☆ ☆ ☆
「キャアアアアアアアアアアー!! 髪の毛が暴れる~!! きゃははははははは!」
「キャアアアアアアアアアアーー!! 風すごいですね~!! あははは、あはははは!」
「フォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!! 気持ちいいーーーーーーーーーっ!!!!!」
風でテンションの上がる三人。
ラジオからは男性が歌う渋い演歌の曲が流れてきた。
「あ、私この歌大好きー! 西島四郎大先生の東の猟場ー!」と叫ぶ九条。
「誰ですかそれー?」と叫ぶ鈴木。
「知らないのー!?」
鈴木は首を横に振った。
「演歌界のレジェンドよー!?」
「よく知ってますねー!」
「フォーー--ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」とオウシロウ。
「私のひいおじいちゃんが大ファンで、お家でよくCDをかけていたのー!」
「へぇー! そうなんですかー! 渋くてかっこいい曲ですねー!」
「でしょー!? ねぇ! もっとボリューム上げてー!」
鈴木は言われるままに音量のボタンをピピピピっと連打した。
「『東のぉおおおおお~♪ 猟場でよぉおおおおお~♪ 木を切り倒しぃ~♪ 火を起こすぅぅうう~♪』」
歌手のこぶしの入った力強いうた声に合わせて九条も熱唱し、楽しくなってテンションが上がった彼女は「フォーーーーーーーーーーッ!!!」と叫んでケタケタと笑いながら頭を振った。
後部座席のオウシロウもさらにテンションが上がって「フォーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」と叫びながらヘッドバンギングをし、さらには「オウッ、オウッ、オウッ、オウッ」とオットセイのモノマネまで披露しだした。
二人の高すぎるテンションに驚き、目を丸くして苦笑するしかない鈴木。
「どうしたのー!? 鈴木さんも一緒に歌って踊ってー!? きゃはは~!」
「えぇ……」
「ほら~! 『盃ぃぃかわぁ~しぃて~♪ 兄弟の~契ぃぃりぃ~♪』きゃはははは~」
「さ、さか~ずきぃ~、……か、かわぁ~すぅしぃ~てぇ~……きょうぅだいぃ……の~」
この歌を知らない鈴木は恥ずかしそうに適当に合わせて歌いながら胸の前で控えめに手拍子をして体を揺らした。
曲が終わって静かになって「これからどうするー!? 平岡くんの所に行くー!?」と九条が言って「どうしますか……」と自分では決めかねる鈴木は後ろを振り返ってオウシロウの顔を見た。
「今何時だ?」とオウシロウ。
鈴木はスマホの画面を見て「もう12時過ぎてるよ」と答えた。
「なんだと!? 俺は午後から部活があるんだ!! 今すぐ学校まで送れ!!」と怒鳴るオウシロウ。
「なんなのその頼み方は!!? 人にもの頼むときの態度ってものがあるでしょ!!!」とキレる九条。
その時だ、ぎゅるるっるるるぎゅるるるるぎゅるるるるるるる!! っとものすごく大きな重低音が車内に響きわたった。
「なんだ今の音は!?」と驚いて辺りを見回すオウシロウ。
鈴木も何が起こったのかと周りをキョロキョロ見回していて、ふと九条の方を見たら彼女は耳を真っ赤にして左手でお腹を押さえたまま縮こまるようにして片手で運転をしていた。
(さっきの轟音は九条先輩のお腹の鳴る音だったんだ……。九条先輩お腹がすいているんだ)そう思った鈴木は「そういえば、お腹すいてませんか!? もうお昼だし。わたしがつくってきたおにぎりまだ残ってるんですけど、食べません? オウシロウもどう? 食べる?」とバスケット籠からアルミホイルで巻かれた三角おにぎりを取り出した。
耳川にあげようと持ってきていたものだ。
「食べてやってもいいが――」
「はい」
鈴木は食い気味にオウシロウへ渡した。
「先輩もどうですか?」
「私今運転中だから……」と悲しそうな九条。
「わたしがあーんしてあげますよ」
「ええっ。ほんと?」
「はいっ」
「その前に鈴木さん。先に鼻血を拭いたほうが……」
鈴木は「あっ」と思い出したかのように照れ笑いしてTシャツの袖で鼻の下から顎のしたまでを簡単に拭いとった。
そしてまた「あっ!」と思い出したかのように背もたれなどに飛び散っていた鼻血も「ごめんなさい~」とTシャツのまだ白い部分で拭き取って「きれいに拭き取れません~本当にごめんなさい~」と泣きそうになりながら謝った。
「いただきますっ!!!!」(オウシロウ)
「いいよ鈴木さん、どうせあとで全部丸洗いするから気にしないで。それより、そのTシャツはいいの? 雑巾みたいに汚して……」
「いいんです!」
鈴木は血で汚れた手をデニムのショーパンで拭くと、おにぎりに巻かれたアルミホイルにテープを貼られたところを慎重に引っ張ってビリリと破いた。すると後部座席から「オイシ―――――――――――――――――ッ!!!」と叫び声が聞こえてきてビクッとした。
後ろを振り返るとオウシロウがリスのようにほっぺたを大きく膨らませておいしそうにもぐもぐと食べていた。どうやらひとくちでいったようだ。
鈴木は少しうれしくなって再び前を向き、手に持っていたおにぎりのアルミホイルを半分だけ外して「はい、先輩。どうぞ」と九条の口の前に差し出した。
九条は「あ、ありがとう。じゃあ。いただきます……」と少し照れたようにしてパクっと小さく齧った。
「あ、おいしい~」
「あはは、よかった」
「海苔がパリパリしてる~!」
「気づいてくれましたか。海苔が湿気らないようにする包み方をしてるんですよ」
「そんなのあるんだ。すご~い」
九条が飲み込んだのを確認して、再びおにぎりを差し出す鈴木。
また照れたように齧る九条。
「おかわりーーー!!! もう1個!!」とオウシロウ。
「もうないよ!! だまれっ!!」と鈴木。
「鈴木さんは食べないの?」
「わたしは大丈夫です。まだお腹すいてないんで」
「そう……。これっておにぎりの具は納豆ときゅうり?」
「そうです! よくわかりましたね」
「意外と合うんだねぇ」
「そうなんですよ~。私も今朝作った時に味見したんですけど、きゅうりがあるとさっぱりするしカリカリの食感がアクセントになって――」
「カッパ巻……、じゃなくてカッパおにぎりか……」
「――おいしいんですよね~」
「うんうん。いくらでも食べられそう~」




