大切なもの
「うあらあああああああああああああああああああああああーー!!!」
鈴木の所へ一直線に走ってくオウシロウ。
地面で遊んでいた鳥たちがびっくりして次々と飛んで逃げていくなか、じゃれあって遊ぶのに夢中になっていた3匹のスズメたちが飛び立とうとしてぶつかり落っこちて逃げ遅れてしまった。
オウシロウはそのスズメたちを踏みそうになってギリギリで避けたせいで足を踏み外しておっとっと前のめりになってしまった。
その瞬間に背後から大きな鳩が飛んできてオウシロウの背中を押して彼はこけた勢いで鈴木の股間に顔面から突っ込んでふたり仲良く倒れてしまった。
「うわあっ!!」
「きゃあっ!!?」
ドッシーン!
鈴木は両手を上げたまま尻もちをついて仰向けに倒れ、彼女にまとわりついていた鳥たちはバサバサバサと飛んで行った。
鈴木のパンティーの中で遊んでいたウグイスはたまたま頭だけのぞかせていて、オウシロウがぶつかろうとするギリギリのところで飛び立って無事に脱出できた。
鈴木は顔を歪めて「あぁん、いったぁ~ぃ……」といやらしい声をもらし、右手で頭を抱えながら、もう片方の手は手探りで、たまたまそばに腕っぽい棒状のものがあったのでそれを掴んでゆっくりと上半身を起こそうとした。
そして、自身の股ぐらに顔をうずめている坊主頭を見て「きゃああっ!!」と驚いて、反射的に体を硬直させて股を閉じてしまった。
太腿に首を挟まれたオウシロウは「はぅっ……」とびっくりして頭をあげ、額に血管を浮かべ顔を真っ赤にして「ぁっ……」と苦しそうによだれと鼻水をたらしていたが、すぐ目の前にあるものがパンティーだと気が付いてブシャッ! ブシャッ! っと2連続で鼻血を勢いよく噴出してしまった。
顔を真っ赤にして額にバッキバキに血管を浮き上がらせ口元を鼻血で濡らして苦しそうにしながらも目を丸く見開いて股間をガン見するオウシロウを見た鈴木は恐怖で「きゃああああ!」と悲鳴を上げ、とっさの判断で左手で握っていた棒状のもので殴ろうとそれを持ち上げたらそれがオウシロウの腕である事に気が付いてさらに「きゃああ!!」と驚き、ポイッと放り投げて、すぐに後ずさりしてオウシロウから距離を取った。
オウシロウは鈴木の股ぐらから解放されて顔面をゴンと地面に打ち付け気を失ってしまった。
脚を閉じて両手で股間を隠しオウシロウを見る鈴木。
彼はうつぶせで倒れたまま動かない。
ふと、彼の腰の下あたりにデニムのショートパンツが挟まっているのに気が付いた鈴木は、すぐに近寄っていってオウシロウの身体を少し浮かせるように持ち上げてショーパンを引き抜いて急いで穿いた。
そしてその近くに脱げ落ちていたサンダルを拾おうとしたその時だ。
バサバサバサバサ。カァ~! カァ~! カァ~!
「キャッ!!」
カラスが飛んできてびっくりした鈴木は手を引っ込めた。
ホーホーゥボゥボゥ、ホーホーゥボゥボゥ。
「いやっ!!」
今度はすぐ後ろの方で鳩が鳴いてびっくりする鈴木。
チュンチュンチュンチュンチュン。ホーホケキョ! カァー、カァー! クルック―!
「キャアアアー!」
次々と鳥たちが戻ってくる。
「ねえっ!! 起きてっ!! 早く逃げないとっ!」
鈴木に揺さぶられ目を覚ましたオウシロウ。
顔を上げるとたくさんの鳥たちが周りを飛び交っていた。
その中の1匹のスズメがオウシロウの顔を目掛けて飛んできて、それをオウシロウはすっと横に転がるようにして交わした。
周りにはさらに鳥たちが集まってきていて威圧するように次から次へと飛び掛かってきた。
こうなってしまうと逃げるのは困難だ。
鈴木は地面に身を丸くかがめて両手で頭を隠した。
オウシロウはすぐに周りを見回して、さっきまで鈴木が持っていたおにぎりが地面にぐちゃぐちゃになっているのを確認した。
それからオープンカーの方を見た。
オープンカーにとまって遊んでいるスズメたちをクジョーが腕を振って必死に追い払っている姿が見えた。
「おいっ! パンダ女っ!」オウシロウが鈴木に話しかける。
カァァ~!
「きゃあっ! 何よっ!」
「俺が鳥たちをひきつけておくから、その隙にお前はクジョーの所へ行って車に乗って待ってろっ!」
カァ~! カァ~! バサバサバサッ。
「いやあっ!!」
「わかったか!!」
ホーホケキョ! バサバサバサッ。
「わかった、きゃっ」
「わかったかあああああああああああああー!!!」
「わかったああああああああああああー!!」
クルックゥー!
「きゃああああーっ!」
突然耳元で鳩が鳴いて鈴木はびっくりした。
鳥たちが激しく飛び交うなか、オウシロウは匍匐前進でおにぎりの落ちている方へ向かった。
そして、つまみ食いしていた鳥たちを追い払って具のなっとうやきゅうりが飛び出してぐちゃぐちゃになってしまったおにぎりの破片をかき集めた。
それを見た鳥たちは『これは私たちのものだ、手を出すんじゃねえ』とでも言うかのようにさらに凶暴さを増して、オウシロウに向かっていき、彼の背中や腕にはさらに傷がつけられ血だらけになり、強ダメージ加工状態だったカーゴパンツはさらに引きちぎられて、左脚部分だけ短パンになってしまった。
右脚部分の布地も首の皮いちまい何とかつながっているというようなひどい状態だ。
それでもオウシロウはご飯粒と具材をしっかりと綺麗に全部かき集めて。時々こっそりとつまみ食いなんかもしたりしながらアスファルトの上でころころと転がして再び丸く形を整えた。
そしていい感じにまとまったらそれを両手で持ちあげて天高く掲げ、「鳥どもおおおおああああああああああああああああ!!! おまえらのごはんはここだぞおおおおおあああああああああああ!!! 食べに来やがれえええええええあああああああ!!!」と鳥たちに見せびらかしながら全力で走り出した。
カァ~! カァ~! チュンチュン! チュン! ホーホケキョ! クルックゥー!
鳥たちはオウシロウを追って近くにあった雑木林の中へ飛んで行ってしまった。
辺りがだいぶ静かになった頃――。
プー!! プー!!
車のクラクションが2回鳴った。
頭を隠して地面にうずくまっていた鈴木はゆっくりと顔をあげた。
駐車場にはたくさんの鳥の羽毛がふわふわと舞っていた。
駐車場の出口のところでオープンカーに乗った九条が「鈴木さん! 早く乗って!」と手招きをしていた。
鈴木はすぐに立ち上がって、サンダルを拾い、近くに置いてあったバスケットを持ってオープンカー目掛けて走った。
その途中にヒーポ君のゴムマスクが落ちているのに気が付いて一度は無視してその場を通り過ぎようとしたが――。
『持っておけ。俺が追い払ってくる』
と、ヒーポ君を大事そうに九条に渡していたオウシロウの顔を思い出して。
鈴木は引き返してヒーポ君を拾って車へ走った。




