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まだ駐車場

 インスタスタスにアップする用の撮影が終わって「さあ、もう行きましょう」と2人が車のドアを開けると車内からバシャーっと大量の雨水が流れ出てきて駐車場の地面に水たまりをつくった。


 鈴木はバタンとドアを閉め、両手でバスケットかごの持ち手を握り、車のそばに立ち尽くしたまま刑務所の建物を見上げた。


 周りは高い塀で囲まれていてその上には有刺鉄線が張り巡らされ、そこにカラスがたくさん止まっていて異様な雰囲気を(かも)し出していた。


「何を見ているの。先に行くわよ」


 九条の呼びかけによし行くかと足を踏み出したその時だ。


 ブチブチブチブチブチッ!!


「キャアアアアアアーーーーーー!!」


 鈴木の悲鳴にびっくりして九条が振り返ると鈴木はバスケットかごと手で胸とお股を押さえて恥ずかしそうにして立ちつくしていた。


「どうしたのっ!?」


「ドレスが……。ドレスが千切れて脱げちゃいましたぁ……」 


 九条が鈴木の(そば)に駆け寄って状況を確認すると、(あみ)のようなものが車のドアに挟まっていて地面まで垂れ下がっていた。


「あらら……」


 やっちゃったわねというような表情をする九条。


 車のドアを開けてドレスを引っこ抜くと「なによこれ。本当にドレスなの? 漁師とかが漁で使っていそうな網にしか見えないんだけど」と鈴木に返した。


 バスケットカゴを地面に置き、受け取ったドレスを両手に持って広げて、千切れているのを見て落ち込む鈴木。


「どうしよう。お姉ちゃんのクローゼットから黙ってこっそり借りてきたものなのに……」


「それはご愁傷様」


「また怒られる……」


「黙って借りるから悪いのよ」


「そうなんですけど……。どうしよう」


「破けたものはしょうがないじゃない。腹をくくってきっちり怒られてきなさいよ」


「違うんです」


「なによ」


「この格好で外を歩くのはなんかちょっと恥ずかしい……かも……」


「どこが?」


「おへそも丸見えだしパンツも短すぎるし……」


「さっきまでも丸見えだったんだからたいして変わらないじゃない。むしろ今のほうがさっぱりしていて良いんじゃないの?」


「えぇぇ……」


「私はそう思うけど? まあ季節にはぜんぜん合ってないけど。さっきまでの『網が絡まっちゃって取れなくなっちゃいました~』みたいなわけのわからない格好よりかはよっぽどましよ」


「そうですかね……」


 それでも鈴木はまたドレスを広げて千切れている個所を確認してあきらめがつかない様子だ。


「んん~……。これくらいだったらまたピンでとめれば着れないこともないかな……」


「無理でしょ。もうドレスだった頃の面影も跡形もまったくないじゃない」


「それは元からです。わたしも今朝これを着ようとした時にどうやって着たらいいのかわからなかったんですよ。どこから袖を通したらいいのかもわからないし、どこが上でどこが下なのかもわからないし。だから適当に身体に巻き付けて形を整えながら、こういう紐が伸びている所は結んで止めて、あとはピンとかで固定して仕上げたんです」


「すごいじゃない。じゃあどうする? やってみる?」


「ん~……」鈴木は少しのあいだ悩んでいたが「やっぱりいいです。このままでいきます」と言った。


「そうね。それがいいと思うわ」


「はい」


 鈴木は手に持っていた網を丁寧に折りたたんで助手席のシートの上に置いた。


 それを見て「じゃあ行きましょ」と歩き出す九条。


「あの、車の屋根は開けっぱなしでいいんですか?」


「いいのよ。早く乾かしたいし。それに刑務所の真ん前で車上荒らしをするバカなんていないでしょ」


「そうですね。あははは」


 鈴木は小走りで駆けてきて九条の横に並んで歩いた。


「ここって建物も新しくてきれいだし。緑も多いし。けっこう良い刑務所みたいですね」


「そうでもないわよ。ここは日本全国の刑務所から手に負えないと見捨てられた極悪人だけが集められてくる所として有名だし、監視の目も警備もどこよりも厳重にされていて世界一残忍で厳しい刑務所と言われているところよ」


「へえ~そうなんですか。知らなかったです。そんな刑務所が日本にあったんですね。平岡は大丈夫なんですかね」


 そんな会話をしながらお腹を両腕で隠して猫背気味で歩く鈴木。

 それをに気づいた九条は自分の着ていた長袖のカーディガンをそっと脱いで差し出した。


「鈴木さん、これを着て」


「えっ……」


「薄いし透けているからあまり変わらないかもしれないけど、なにも無いよりかはましでしょ?」


「いいんですか!? ありがとうございます!」


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