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駐車場で

 新国立六本木総合刑務所兼少年少女鑑別所の駐車場に一台の赤いオープンカーが入ってきた。


 乗っている二人の少女はガタガタと凍えていた。


 一度は閉じた車のルーフ(屋根)だが、雨でびしょびしょになってしまった服や髪の毛、それと車内を少しでも早く乾かしたかったのと、あととび散ったスナック菓子が臭かったので二人は再び屋根を開けて走ることに決めたのだ。

 

 まだ5月。びしょ濡れのまま強風にあおられると寒い。


 車を停車した九条は、すぐにサングラスをはずして、肩から羽織っていたカーディガンの袖に腕を通すとガタガタ震える身体を温めるように抱きしめた。そして鈴木を見て「あなた、顔面がひどいことになっているわよ」と震える声で言った。


 鈴木も震える自身の身体を抱きしめながらがら身を乗り出すようにサイドミラーを確認して、そこにうつった逆立ったボサボサ髪でアイメイクの黒い涙を流したほろ酔いの女風を見て「あはは……」と苦笑した。


 九条は髪を後ろでひとつに束ねていたのとサングラスのおかげであまり被害はなかった。


「ごめんなさいね……」と申し訳なさそうな顔をする九条。


「どうして先輩が謝るんですか」


「私が一緒に行こうなんて誘ったから、こんなひどいありさまに……」


「先輩のせいじゃないですよ!」


「予定通り、バスで向かっていたらこんなことにはなっていなかったのよ?」


「でも九条先輩とドライブができてとても嬉しかったです。はじめてオープンカーにも乗れたし。楽しかったです」


「そう……?」


「はい。それに、ひとりで知らない場所にある刑務所に行くのは不安だったし。先輩が一緒にいてくれて、心強いです」


「鈴木さんっていい子ね」


「えっ」


「そうだ。私がメイク直ししてあげる」


「ほんとですか!」


「まかせて」


「わぁ」


「まずはその汚れた顔を拭かなきゃね」


 九条は膝の上に置いてあったパステルブルーのショルダーポーチの中に手を突っ込むとびしょびしょに濡れたハンカチを取り出してぎゅっと絞った。


「じゃあこっちむいて」


「はい」


「目をつぶってて」


「はい」


 鈴木の目にハンカチをそっとあててやさしく拭く。


 するとアイメイクの黒い色は横に広がった。


 さらに拭くと、黒いのはさらに広がった。


 今度は縦に拭いてみる。


 すると黒いのは縦に広がった。もっと拭くと黒いのはもっと広がった。


 ハンカチのきれいな面を使って何度も何度も拭き取ろうとするが黒い色はどんどん広がってしまう。


「先輩、ちょっと痛いです」


「なんなのこれ!? あんたいったいどんなマスカラ使ってんのよ!?」


「どんなのって、ふつうの……。よくある市販のやつです」


「無理だわ。これはメイク落としがないと無理」


「えぇ……」


「あなたメイク落としのやつ、何か持ってる?」


「持ってないです。家にはあるんですけど……」


「私もよ」


「メイク落としって持ち歩くものなんですかね……」


「できる女は持ち歩いているんじゃない? わからないけど……」


「はあ、そうなんですね……。ってそれより先輩っ! ブラが透けて見えてます!」


「濡れたんだから当たり前でしょ。あんたはずっと丸見えじゃない」


「これはファッションで」


「ファッションで見せるならもっと色気のあるかわいらしいデザインのブラにしなさいよ。なんなのその小学生が生まれて初めてつけたようなブラは。今時は男子でももっとかわいらしいのをつけてるわよ」


「わたしはこれ結構気に入っているんですけど……」


「今はそんなことはどうでもいいの。メイクの心配をして」


「そうですね」


「ん~、これはどうしましょう」

 鈴木の顔を右や左に向けていろいろな角度から眺める九条。


「どうですか? 直せそうですか?」


「しかたないわね。この黒い色を生かしたメイクにしましょう」


 

 それから10分後。



 プシューーー!! と鈴木の頭にヘアスプレーを振りまく九条。


「よし、これで完成よ。目を開けていいわ」


「ありがとうございます! もう鏡を見ていいですか?」


「いいわよ」


 鈴木は嬉しそうに後ろを振り向き身を乗り出すようにしてサイドミラーで自分の顔を確認した。


 そこに写っていたのはパンダだった。


 肌は首まで真っ白、目の周りは真っ黒で、鼻の先も黒く塗られて、前髪は丁寧にピンでとめられておでこを出して、頭は耳を思わせる2つのお団子ヘアになっていた。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアー!!」


 とつぜん現れたパンダに驚く鈴木。


「どうしたの!?」


「なんなんっですかこれはっ!?」


「パンダよ?」


「それはわかってますっ! わたしが言いたいのはそういう事じゃなくて!」


「なによ。かわいいじゃない」


「えっ……。ほんとうですか?」


「うん。とってもかわいいわよ」

 

 再び後ろを向いて身を乗り出しサイドミラーを見る鈴木。


 いろいろな角度から顔を写してじっくり見ていると。


(……これはこれで、かわいいかも?)と思えてきた。


「どう? 気に入った?」


「はい! ありがとうございます!」


「記念に1枚撮ってもいいかしら? インスタスタス用に」


「はい、いいですよ」


「あなたも自分ので撮ってアップしたら? 一緒に並んで撮りましょう?」


「いいですね」

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