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SHR(ショートホームルーム)

 ベべン♪ ベベベベベン♪ ベベベンベベベン♪


「アーイ♪」


 その日のSHRの時間。1年1組の教室では担任の柴山善行(しばやまぜんこう)がベースの弾き語りで即興のオリジナルソングを披露していた。


「アアーイ♪」


 ベースは軽音部に入っているクラスメイトの池君から借りたものだ。


 柴山は学生の頃にバンドを組んでいてギターをやっていたと自称しているが、演奏の腕はなかなかへたくそでたどたどしい。

 即興のオリジナルソングも歌詞はほぼなく「セイッ!」とか「フンフンフフ~ン♪」とか「セイヤッ!」とかを細々とした声で叫んでいるばかりだ。


 それでもクラスのみんなは大盛り上がりでみんな席を立って手拍子をしながら体を揺らす者もいれば、頭を振っていたりジャンプをしたり肩を組んで揺れていたりそれぞれが思い思いに楽しそうに踊っていた。


 とくに、こんがり焼けたギャルの羽柔(ハネジュウ)(メロ)の自己陶酔は激しく、ハイライトの入った金髪ゆる巻きの長い髪をみだりに振り回して「あん、ああん♪ あっあっ、ああん♪」なんてリズムをとったり、顔の近くで指をぴんと伸ばして自慢の派手なネイルを見せつけるようなポーズをとってみたり、眉根を寄せてオーバーリップのぷりっとした唇を尖らせて生意気な表情をしてみたり、机に手をついて腰を突き出して「シェイキ♪ あ♡シェイキ♪」なんて色っぽく小声で言いながら左右の肩を交互に揺らしたり、トゥワーキングしたり、しまいには教室をランウェイに見立ててモデルウォーキングをしだす始末だ。


 それを見ていた丸メガネのぽっちゃりおデブ不良美少女、村瀬咲茉(ムラセエマ)も「わたしもやるわっ」と立ち上がって、ふわふわのパーマのかかった柔らかい長髪をみだりに振り乱しながら生意気なボディを強調した自信たっぷりのモデルウォーキングを披露した。


 それをピザを食べながら笑って見ていたお調子者のイケメンメガネデブ男、沢村輝彦(サワムラテルヒコ)もかぶっていた赤い帽子を脱いで、「フォーーー!!」と立ち上がって彼女らの真似をして雌犬のように生意気に歩いた。


 輝彦と一緒にピザを食べていたクラスで一番大きなイケメンデブ森山篤夫(もりやまあつお)は椅子にだらんともたれかかり500ミリ缶のグレープソーダを一気に飲み干して、ふてぶてしく「おぅ」と大きなゲップをすると、急に「フォーーーー!! いいぞ雌犬たちーー! もっと歩けーー!! フォーーー!!」と歓声を上げながら大きな身体ごとゆっさゆっさ揺らして高速のヘッドバンギングをキメた。


 周りでみていた生徒たちも美しい歩きを披露する雌犬たちに「わお……」と驚いたり、「あ、ああん。あ、あ、ああん」とリズムをとりながら肩と胸を揺らして酔いしれたり、「あんたたちの歩き! とても素敵よ雌犬たち!」、「チワワ!」、「クソかっけー! もっと尻を突き出せー!」、「キャアアアアー!! キャアアアアアー!!」なんて叫んでみんなでとても盛り上がった。


 テンションの上がりすぎた窓際の一番後ろの席の古川ヨシオは「ウッホッホッホッホホ、フォーーゥ! ウッホッホッホッホホ、フォーーゥ!」なんて笑い叫びながらぴょんぴょんと飛び跳ねて自分の椅子の上を飛び越える回転キックを何度も繰り返した。


 鈴木萌果(すずきもえか)はそんなクラスメイト達を見てニコニコとしながら自分は椅子に座ったまま手拍子をしながら体を揺らしてひかえめに踊っていた。

 

 大盛り上がりの生徒たちをよそに柴山は自分の世界に入りこんでマイペースに弾き語りを続けた。



   *   *   *  



 ベベン♪


「はい、じゃあ今日はここまで~。また来週あいましょう~」


 満足したのか突然に演奏を終わらせ、ベースを池君に返すとペタペタとスリッパを鳴らして教室を出ていく柴山。


 楽しく盛り上がっていた生徒たちは突然音楽が止まったので狐につままれたようにぽかんとして、もっと欲しそうにしながらもしかたなくそれぞれ自分の席に戻って帰りの準備をし始めた。


 古川ヨシオもぽかんとして「なんだよゼンコーのやつ。急にやめんなよ……」とぶつぶつ文句を言いながら席についた。


 鈴木は急いで教科書を鞄に詰め込んで席を立った。

 そして古川の席のところへ向かった。


 古川は鼻くそをほじりながら片手でスマホを弄っていた。


 鈴木が「古川くん」と話しかけると彼はビクッと驚き慌てて鼻からひとさし指を抜いて鈴木を見上げて「あ?」と間の抜けた返事を返した。


「わたし明日、平岡と耳川さんのところに面会をしに行こうと思っているんだけど、古川くんも一緒に行かない?」

「行かん」


 古川は即答した。


「わたし刑務所なんて行ったことないし。ひとりだとちょっと心細いからさ。だから一緒に、行こう?」


「嫌だ。めんどくせえ。なんで俺を誘うんだよ。他のやつと行けばいいだろ」


「わたし友達いないし……。古川くんは平岡や耳川さんと仲良さそうだったじゃない」


「は? 仲良くねえし。あいつらが勝手に、なんか馴れ馴れしく接してくるから合わせてやっていただけだし」


「でも、一緒に羊と戦ったり、入院したりした仲でしょ? いちおうは……」


「関係あるか。俺は明日は渋川高のかわいい女のコたちとデートをする約束をしてんだよ、うへへへへ」


「おねがい。午前中で終わるから」

 鈴木が手を合わせて頼み込むと、古川は()()るようにして椅子にもたれて頭の後ろに手を組んだ。


「まあ、おっぱいを? 触らしてくれるんだったら考えてやってもいいけど?」


「最高ね。あんたに頼もうと思ったわたしがバカだったわ」


「なんだよ。いいだろ別に、減るもんでもないしよ」


「もういい。生きれっ」


 キレた鈴木は立ち去ろうとしたが「ちょっと待てよ」と古川に腕を掴まれ止められた。


「なによ」


「俺のこの新しい髪色を見てなんとも思わないのかよ」


 古川は(うつむ)いたり首を回したりして鈴木に髪を見せつけた。


「前とあまり変わってないじゃない」


「よくみろよ、変わってるだろ! 昨日美容室に行って赤色に染めてもらったんだよ」

 変化に気づいてもらえなくて目を大きくしてキレる古川。


「そうなの」


「美容師さんに燃える男の炎の色にしろって言ってなあっ!」


「いいじゃない」


「かっこいいだろ?」

「かっこいい」


「ヘアスタイルはどうだ? 今日はセンター分けの位置を普段より3ミリだけ右にずらしてみたん――」

「すごくかっこいいわねとても似合っているわ」


 鈴木もキレているので目を大きく開いて食い気味に感想を言った。


「これも見ろよ」


 古川は自分の右耳を指でさして鈴木に見せた。


 耳たぶには2センチくらいの黒い角みたいのが刺さっていて、軟骨にはじゃらじじゃらとシルバーのボディピアスがいくつかついていた。


「これも昨日買ったんだよ。かっけーだ――」

「かっこいいわ」


「……」


「……」


 少しの間2人は見つめ合った。



「いつまでそこで突っ立ってんだよ」と鈴木をにらむ古川。


「えっ……。それはあんたが呼び止めたから――」

「もう用はねえよ。さっさと行けよ」


 もっと何かあるのかと思っていた鈴木はあっけにとられた様子で古川を睨みかえした。


「なんだよ。早くどっか行けよ。邪魔だ。消えろ。シッシッ」


 古川に手で払われて鈴木は納得がいかない様子だったがしかたなく教室を後にした。

 

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