どうでもいい会話
ラン~ラ~ラランランランラン♪ ピロロ♪ ピロロ♪ ピロロ♪
グラウンドには陽気で軽快な音楽が響き渡っていた。
ケンカをした罰として飯田小春と大城旺士朗、富永愛子と秋元千紗がペアを組まされフォークダンスを踊らされているのだ。
そのそばでは怖い顔をして腕を組んだ熱田と、竹刀を握った青山がパイプ椅子に座ってダンスを踊る4人を監視していた。
「青山先生」
熱田が口を開いた。
「はい?」
キリリとした返事をする青山。
「せっかくなので僕たちも一緒に踊りませんか?」
思ってもみない突然の誘いに青山は「あら。どうしましょ」と少しの戸惑いを見せた。
「いやー。たまにはダンスで汗を流すのもいいかと思いましてね」
「私フォークダンスなんて一度も踊った事ないのだけど。できるかしら」
「僕がリードしますので大丈夫です。簡単なステップの繰り返しなので誰でもすぐに踊れるようになりますよ」
「そう? でも、こんなしわしわのおばあさんが相手でもいいの?」
「何を言っているのですか! 青山先生は凄くお綺麗ですよ」
「あら」
「背筋もピンとしてるし。すごく美人で、とても魅力的です」
「うふふ。熱田先生はお世辞がお上手なのね」
「お世辞じゃないです! 本心です!」
「やだどうしましょう。なんだか暑くなってきちゃった」
「ハハハ。さあ、踊りましょう」
熱田はパイプ椅子から立ち上がって手を差し出した。
青山はその手を取ってゆっくりと立ち上がった。
「竹刀は置いといてください」
「あっ。そうね」
二人は両手をつないでゆっくりと踊り始めた。
「いやっ……。あんっ……。ちょ……。ああんっ……」
「良い感じですよ。ほら。回ってください」
「あっ……」
熱田にリードされながらぎこちなく踊る青山。
ギュッ。
「イテッ」
「あっ、ごめんなさい」
間違って熱田の足を踏んづけてしまった。
「大丈夫ですよ。僕の足は頑丈に出来ているので、気にせずにどんどん踏んづけてください」
「アハハハ。どんどん踏んづけてってあなた、ああんっ!」
「おっと」
今度は足をひっかけて倒れそうになる青山。
それを熱田が一瞬の判断でしっかりと抱きかかえた。
「大丈夫ですか! 青山先生!」
「大丈夫よ……。ごめんなさいね」
「いえいえ、こちらの方こそすみません。青山先生は踊るのは初めてだというのに。僕の方がちょっとテンションが上がってしまって急かしすぎてしまいました」
「私が鈍臭いだけよ」
「そんなことないです! 青山先生はダンスの才能がありますよ」
「また。いい加減なこと言って」
「いえ。次はもうちょっとゆっくりにしましょう。それなら大丈夫かと」
「そうね」
体勢を整えて再びゆっくりと踊りだす二人。
「こんなところ主人に見られたらどう思われるかしら」
「ガハハハ。あまり密着しないようにしますね」
「まあ、少しぐらいは嫉妬させてやってもいいのだけど……」
「青山先生のご主人は何をされている方なんですか?」
「最近は釣りばかりしているわ」
「へぇ~」
「釣ってきた魚は自分でさばいて調理もするのよ」
「すごいですね」
「夕飯はいつも主人が作ってくれるのだけどね。毎回魚料理ばかりなのよ」
「へぇ~。良いなぁ~」
「でしょう。熱田先生はご結婚はされていたかしら」
「いいえ! まだですよ!」
「そうなの。モテそうなのに」
「そうなんですよ~。今年51になるのでそろそろ良い相手がいないかな~なんて思ってはいるのですけど」
「その黒々としたいやらしい胸毛と腕毛があれば女の子たちはイチコロでしょ?」
「ハハハ、まあモテはしますけどね。寄ってくるのはみんな若い子ばっかりで……」
「若い子もいいじゃない」
「結婚相手となるとなかなか……」
「まあ慎重にはなるわね」
「この間の休日なんか短パンをはいて公園のベンチで昼寝をしていたら、小学校低学年くらいの女の子たちが周りに集まってきてですね」
「さすがにそれは若すぎね」
「そうなんですよ~。それで『おじさんの脚もじゃもじゃ……』『ちょっとだけなでなでしても良いですか?』なんて言ってくるんですよ」
「なんていやらしい。最近の子供ってませてるわね。それであなたは触らせてあげたの?」
「まさか。周りにはほかの大人もいて見てるんですよ。だからちゃんと『知らない人にそんな事をしたらダメだよ。そういうのはお父さんか知り合いのおじさんにやりなさい』と言ってやりましたよ」
「そう」
「そうしたらですね。女の子たちがすごく悲しそうな顔をするんですよ」
「あら……」
「それを見た瞬間に何だか僕の心臓がキュンて締め付けられるような。なんていうか、罪悪感ですか? なんだか凄くかわいそうな事をしてしまったかなぁなんて思ってしまってですね。だから『腕の毛だったらいいぞ』って言って触らせてやりましたよ」
「あはは。やさしいのね。 それでどうだったの?」
「喜んでいましたよ。『わ~もじゃもじゃだぁ~』『かっこいい~』『ステキ~』なんて言って」
「よかったじゃない」
「それでいつまでもなでなでしているから『もう終わりだ。もうどこかへ行きなさい』って言ってやったんですよ。そしたらひとりの子が『記念に1本だけもらってもいいですか?』なんて言い出してですね。他の子たちも『わたしも欲しい!』『どうかお願いします!』『本当にお願いします!』なんて両手を合わせて真剣に言ってきたんですよ」
「どういう事。その子たちの親御さんはいったいどういう教育をしているの」
「まあしょうがないから『ええい、そんなに欲しいなら勝手にもってけ』って腕を差し出したらぶちぶちぶちって引き抜いて『ありがとうございました!』って丁寧に頭まで下げて、嬉しそうにスキップしながら帰っていきましたよ」
「あははは。モテすぎるのも辛いわね」
「はい。僕は若い子よりも年上にモテたいのですけどね」
「あら、熱田先生は年上が好みなの?」
「はい。誰か良い人いませんかね?」
「私の仲の良い知り合いで独身の子が何名かいるけど。だいたい60後半から70、80代が多いわね」
「良いですね! 女性が最も素敵で美しい年頃じゃないですか!」
「ほとんどのこが子持ちでバツがいくつかあるわよ」
「おお! 良いですね!」
「私の家の近所に住んでいる美代ちゃんってこは『私は結婚には興味がないの』『ひとりの方がお気楽でいいわ』ってずっと独身を貫いているけど」
「おお! 素敵だ」
「美代ちゃんはお漬物がとても上手でね。毎年7月頃になると梅をたくさん買ってきて氷砂糖といっしょに漬けるのよ」
「へぇ~」
「それで自家製の梅シロップを作って私たちにも毎回お裾分けしてくれるのだけど。それを暑い日なんかにね。氷をたくさん入れたコップに注いで、ソーダで割って飲むとこれがほんと最高なのよ~」
「おお~」
「もう、生き返った~っ! て感じよ」
「いいですね~」
そんなどうでも良い会話をしている先生たちのそばでは、2年生の富永愛子と秋元千紗がペアを組んでフォークダンスを踊っていた。
二人は、隣で飯田と踊っている大城のほうをチラチラと気にして頬を赤らめていた。




