もうめちゃくちゃ(郷田智)
一瞬の出来事だった。
まるでゴールキーパーのように両手を上に伸ばして俺の前にサッと飛び出してきた人物がいた。
大城だ。
大城がサッカー野郎どもの制止を振り切って俺の前に飛び出してきたのだ。
バレーボールは大城の顔面に直撃、その衝撃で大城は背面跳びをするかのように身体を斜め後ろに反りかえって地面にズサッと落ちた。
「大城!!」
「ふふっ……ふふふっ……」
大城はゆっくりと身体を起こしながら不気味に笑った。
顔にはバレーボールの丸い赤い跡がついて、片方のまぶたは腫れ、鼻と口からは血をたらしていた。
「はは……ははははは、あははははは」
大城はゆっくりと立ち上がりながら今度はさわやかに笑った。
「どうした!? 頭がおかしくなったのか!!」
「ははははは、あまりにも痛すぎてよお。はははっ、嬉しくて笑いが止まんねんだあゴホッ! ゴホッゴホッツ!!」
今度は勢いよく地面に吐血した。
「大城!! 大丈夫か!!」
「ハァ、ハァ。これくらいたいしたことねえよ……」
大城は肩で息をして、自身の顎にべったりとついた血を手の甲で拭き取り地面に向けてピシャっとはらった。
そして、そばに落ちていたバナナの皮をやさしく拾うと自身の頭の上に乗せた。
「何をしてる!?」
「今朝、キャプテンがくれたじゃないすか……」
「まだ捨てていなかったのか!!」
「けっこう気に入って……っキャプテン!!! 何があったんすか!!!!」
「どうした!! いきなり!!」
「びしょ濡れじゃないすか!! 顔も! 股間も!」
「ああ、これか。さっき顔を洗っていただけだ」
「なんだそんな事かよ。てっきり誰かにやられたのかと思ったぜ……」
「いや~、ハンカチをもってくるのを忘れてしまって―――」
バサッ……!!
「これ使ってください」
俺が喋り終わる前に大城がスッと目の前に差し出してきたのは彼の着ていたユニフォームの上着だった。
いつの間に脱いだんだ!?
反射的に受け取ってしまったが、泥砂と大城の血と汗にまみれたこんな薄汚いユニフォームで誰が顔を拭くかクソが!
「俺はいいからお前、自分の鼻血を拭けよ」
「いいっス。どうせ拭いてもまた出るんで」
「おい!!」
「坊主!」
「俺たちのこと忘れてんじゃねえぞ!!」
そばで見ていたサッカー部の野郎たちがまた突っかかってきた。
「忘れるわげねべあぼぼぼぼおおおおおおおあああああ!!!!! お前たちは絶対あにゆどぅざねええええええあああああ!!!!!!」
「うるせえ!」
「うるさすぎて何言ってるのか聞きとれねえよ!」
その時だ。
「すみませーん」
「「すみませーん……」」
バレーボールのユニフォームを着た3人の女子が、お取込み中の所申し訳ないというように腰を低くしてやってきた。
3人の内、真ん中にいる黒髪のショートボブの女は同じ3年なので知っている。
飯田小春、たしかバレーボール部のキャプテンだ。
「郷田くん!」
「よう、飯田」
「さっきここにバレーのボールが飛んできたでしょ?」
「ああ」
「どこに行ったかわかる?」
「あぁ……、その辺に飛んでいった気が……」
「体育館のドアいつも開けっぱなしだからたまに外に飛んでいっちゃうんだよね~」
「貴様らか……」
「え……」
「……キャプテンの大事な体を傷つけようとしたのわ」
まただ。
大城がキレそうになっている。お前はいったい俺の何なんだ。
大城は睨みを利かしながらじわりじわりと飯田たちの方へ詰め寄っていった。
放置されているサッカー部のやつらはぽかーんだ。
「やめろ大城」
「え、何……。なんかこわいんだけど……」
「お前らが投げたんだろ!!!」
「そ、そうだけど!!?」
「もう少しでキャプテンに当たるところだったんだぞ!!!!」
「やめろって言っているだろ!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない! 当たったところで別にケガするほどの事でもないし」
「なんだと!!!」
「それに郷田くんなら体格も大きいし、筋肉もすごくガッチリしているからバレーのボールが当たったくらいで平気でしょ!?」
「ふざけらおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああ!!!!」
「「「キャアアアアアアアアアアアーーー!!!」」」




