見てられない(郷田智)
目の前でボールが弾け飛んだような大きな音が鳴った。
恐る恐るまぶたを開けると目の前にサッカーボールを抱え込むようにして倒れている野救のユニフォームを着た坊主頭の少年の背中が見えた。
そしてその近くには何故かバナナの皮も落ちていた。
「大城!!」
大城は俺の声に反応して頭をあげて俺の方を振り返った。
目が合うと「キャプテンッ」と口から血を吐き、嬉しそうな表情になった。
そしてすぐに駆け寄よりながら立ち上がろうとして、身体をひねって足が滑って倒れて、それでも必死に駆けよりながら立ち上がろうとしてバランスを崩して倒れそうになったままなんとか俺の前まで来て下半身にタックルをするようにして抱き着いてきた。
『キャプテン!』
「お、おいっ」
『キャプテンッ。無事だったんすね。よかったぁ』
地面に膝をついているせいで、ちょうど股の所に顔をうずめる形になってしまった大城のこもった声が股間に響く。
「やめろっ、離れろっ」
「「すみませーん!」」
「すいませーん。大丈夫で……すか?」
ボールを拾いがてら謝りに来たサッカー部のやつらが、俺たちの状況を見て一瞬引いたようなそぶりを見せた。
「な……何をしているんですか……?」
「ち、違うんだっ! 勘違いするなっ! これはなっ―――」
俺がどう説明しようか迷っていたそのときだ、大城が股間から顔を離してスッと立ち上がった。
「……お前らか。……キャプテンに向かってボールを投げたのは」
「おい、やめろ大城。わざとじゃない。サッカー部にまでつっかかるな―――」
「そうだが?」
「なんか文句でもあんのか?」
「なんだ坊主?」
ダメだ、こいつら。
サッカー部のやつらも売られた喧嘩を買う気満々だ。
もう知らん、勝手にしろ。
「文句あんのかだと? あるに決まってるだろうが!!!」
「うるせえな」
「なんだよ、ちゃんと謝っただろ?」
「部活なんだから仕方ねえだろ!」
「許さねえ……」
「は? やんのかコラ?」
「調子乗ってんじゃねえぞ」
「こっちは3人だぞ? ああ?」
「うおおおおおおおおおおおおおあああああああああー!!」
大城は雄叫びをあげると、サッカー部の3人のうち真ん中にいたチャラそうな男のところに突進して行き、彼をぎゅっと熱く抱きしめた。
そうしたらチャラ男も大城をぎゅぎゅっと熱く抱きしめ返して、そばで見ていた2人の野郎も「生意気なヤツ」、「やってやろうじゃねえか」と抱きしめ合う二人をさらにやさしく包み込むように抱きしめてしまった。
「はああああああああああああああああ!!!!」
「「「いええええええあああああああああああああああー!!!」」」
見てられない。
ハァととため息をつき、なんとなく視線を下におろしたら俺の股間の部分が真っ赤に染まっていた。
血だ!!
一瞬驚いたが、原因はすぐに分かった。
大城が抱き着いてきたときに彼の血がついたのだ。
とりあえず早く落とさなければと思って水道の蛇口をひねって股間を濡らした。
汚れは並べくはやく落とした方がよく落ちるともきくしな。
股の布地を片手で引っ張って伸ばして、もう片方の手で石鹸をつけてゴシゴシ洗った。
その時だ。
「キャ!! 危なーいっ!! よけてー!」
突如響き渡った女子の甲高い叫び声に何事だと後ろを振り向いた。
するとバレーのボールがすごい勢いで目の前まで迫ってきていた。
バチィィィィィィィィィンンンンンンンンン…………!!!




