キャッチボールとバッティング練習(郷田智)
パンッ!
「あいーっ!」
「あーい」
パンッ! パンッ!
「あーい!」
「いけーっ」
「慌てんな、慌てんなー」
パンッ!
「おーい」
「良いよー!」
「っああーい!」
「うぇ~い」
朝の静かなグラウンドに部員たちの野太い声が響く。
俺は2年の佐々木とキャッチボールの練習をしていた。
「いくぞ、あーいっ」
「あっ!」
「目をつぶるなっていってるだろ! 何度言ったらわかるんだ佐々木。キャッチするときはちゃんとボールを見ろ!」
「はいっ!」
「はやく取ってこい」
「はい!」
佐々木が取り逃した球を拾いに行っている間、周りを見渡して他の部員たちの様子を確認した。
大城の姿はどこにもなかった。
(あいつまだ来ていないのか……。いったいどこで何をしているんだ)
結局その日の朝練に大城は来なかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
そして放課後。
俺は田中にボールを投げてもらってバッティングの練習をしていた。
部活の時間になってもやっぱり大城は姿を見せなかった。
バフッ!
「あ痛っ!!」
ボーっとしていたら田中の投げたボールが太ももに当たってしまった。
「おい、ボーっとしてんじゃねえよキャプテン」
「わるい、もう1回投げろ」
田中がボールを構え、シュッと投げた。
バフッ!
「うっ……!」
またデッドボールだ。今度は二の腕に当たった。
「おい、やる気あんのかキャプテン? ちゃんと打つかちゃんと避けるかどっちかしろよ!」
「すまん、もう1回……」
「いくぞ!」
田中がシュッと投げた。
今度は直球だ、俺はバットを振った。
ボールが後ろのネットに当たって落ちた。
空振りだ。
田中がぎろりと目を大きくして何やってんだと言う感じで肩をすくめた。
そのあとも、空振り、空振り、デッドボール、空振り、デッドボール、デッドボール、空振り、空振り。
「どうしたんだよ。体調でも悪いのか?」
「昨日あまり寝てないせいかもしれん。すまん、俺ちょっと顔洗ってくる」
「ああ、そうしろ。次っ、佐々木! おまえが打て」
「はいっ!」
俺は小走りで水飲み場のところへやってきた。
ヘルメットを脱ぎ、流し台の淵に置き、蛇口を上に向けてハンドルをひねり顔面に水を浴びせながら目をつぶった。
(大城が部活を休むのは初めてだな……)
(今朝の事はさすがにちょっとやりすぎたか……)
(でもあいつは調子に乗りすぎだからあれくらい厳しくしておいた方がいいだろう)
(あいつが社会に出た時にやらかさないためにも今のうちに上下関係の立場というものをきっちりとわからせてやるのが同じ部活の先輩としてつとめだ)
「ゴホッ! ゴホゴホッ!」
(くっ、鼻に水が入り込んだ……)
「ゴホッ、ゴホッ。 オエエエッ……」
ハンドルをひねり水を止めて。水飲み場の流し台にもたれかかるように両手をついた。
「ハァ、ハァ……」
顔から水滴がポタポタと垂れるのを見ながら息を整えた。
(俺も高2の頃までは先輩方にこっぴどくやられた。当時の先輩方は今よりももっと鬼畜でもっとイカれていたぞ)
(あれくらいの事で部活に来なくなるようじゃ、そもそも野救には向いてなかったって事よ……)
その時だ。
「危なーーいっ!!」
突然聞こえた男子生徒の叫び声。
反射的に後ろを振りむいたらものすごい勢いのサッカーボールが俺のすぐ目の前まで迫ってきていた。
もう避けるのは無理だ。
(あっ……終わった……)
覚悟を決めて目を閉じた。
バチィィィィィィィィィンンンンンンンン……!!!!!




