復讐の代償③(郷田智)
無精ひげがまだらに生えた田中のとがった顎先が大城の肩をグリグリともみほぐしていた。
「うああ……」
「はぁはぁ、肩こってんだろぉ……? ……気持ちよくなっちゃってんだろ? ぁあ!?」
「くっ……肩なんて……こってない! ……ぜんっ、ぜん気持ちよくない!!」
「うそつけ!! はぁはぁ。……いっちょまえに硬くなってんじゃねえか」
「……これは筋肉だあっ! ああっ……」
「はぁはぁ。なぁ? ほんとは肩こってんだろぉ? 正直になれよ。ぁあ!?」
「かっ……肩なんて……うっ、生まれてから一度だってこった事はねえ!!」
「おい、聞いたかみんな!? こいつ、肩こったことねえんだってよ! ぎゃはははは!」
「マジか大城! おまえ肩こったことねえのか!」
「ガハハハハ!」
「まだ下の毛も生えてねえんじゃねのか!?」
「「ぎゃははははは!」」
いままで二人の喧嘩を息をのんで静かに見守っていた部員たちから野次が飛びはじめた。
みんなで笑ったことで張り詰めていた空気が一気に和らいだ。でも喧嘩をしている本人たちは真剣だ。
「はぁはぁ、どうだ大城。気持ちいいだろお?」
「……くっ」
「いいぞ! 蓮司!」
「もっとやってやれ! ガハハハハ! 」
「そうだ! わからせてやれ! ぎゃははは」
「「「レンジ! レンジ! レンジ! レンジ!」」」
蓮司コールが始まってしまった。
「お前たち……やめろ」
もはや俺の声は誰にも届かない。
大城は田中にやられっぱなしの間も拘束された両腕を何とか動かして、手探りで田中の身体を触って背後の様子を確認しているようだった。
何かを探しているかのように色々なところを触りながら移動していた大城の両手が田中の膝の裏の内側に来た時にピタリと動きを止めた。
(こいつ、何をするつもりだっ!)
その時だった、大城は田中の膝の裏の内側にそっと指先だけを触れるようにあてがうと、ゆっく~りと繊細にすべらせた。
ユニフォームがパツンパツンになった太ももの内側のあたりをゆっく~りといやらしく上っていき、ケツにまで到達すると円を描くようにゆっく~りと繊細に回転をし始めた。
すると、気持ちが良かったのか気持ち悪かったのかはわからないが田中は全身を硬直させるようにブルブルっと身震いをして「あ、あ、ああ、あ、あ……」と変な声を漏らした。
その隙に大城は田中をはねのけるようにして彼の下から脱出した。
田中は口の端からよだれを垂らして尻もちをついた。
ズボンにインしていた黒のパワーシャツはめくれてへそが見えていた。
体勢を立て直す大城。
「ハァ ハァ 今度は俺の番だ。やあああああああああああ!!」
大城は飛び込むように突進すると、すばやく田中のパワーシャツをガバッと掴んで引っ張りあげて、その中に自らの頭をズボッとまるごと突っ込んだ。
「なんだっ!? 何をするつもりだっ」
『あかすりだっ‼』
パワーシャツの中から大城のこもった叫び声が聞こえた。
地面に両手をついて、ゆっくりと頭を前後にスライドする大城。
「きゃあああああああー‼ くすぐったい~~‼ キャハハハ! ガハハハハやめろぉ~‼ キャアアアアー!! ガハハハ! ガハハハハ~!」
『やめないっ‼』
「ぎゃははは! ぎゃははは! 腹筋がああぁ~~。ぎゃははははは~!」
田中はパワーシャツの上から大城の頭を捕まえて動きを止めようとしているが笑い転げていてまったくチカラが入っていない。
オウシロウは容赦なく田中の腹筋からみぞおちあたりまでをゆっくりとなんども往復した。
『これはキャプテンの左の玉のぶん』
「ぎゃあああああ~!! きゃははは、きもちいいぃ~~きゃはははは!」
『これはキャプテンの右の玉のぶん』
「ぎゃあああああ~! やめてぇ~!! きゃはは! きゃはははは~! あは、あは、あはははは~!」
「いいぞ、もっとやれオウシロウ!」
「もっと首のスナップをきかろオウシロウ!」
「「「オウシロウ! オウシロウ! オウシロウ! オウシロウ!」」」
今度はオウシロウコールが始まった。
野救部のキャプテンとしてこの騒動を早く収めたいがタマがジンジンしていてまだ動きたくない。
「おまえらいいかげんにしろ……」
(クソッ、このタマのジンジンさえなければ……)
力づくで制止してやるのに……。
「監督、早く!」
「監督、もっと走って!」
女子マネージャーたちの声だ。
「ちょっと待て。お前たちが早く早くって急がすからスリッパのまま来たら脱げそうで走りにくいん……おおおいっ!!! おまえたちいいいい!!! いったい何を騒いでいるんだあああああ!!!」




