復讐の代償②(郷田智)
「キャプテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!!!!!!!!!」
「うるさい!」
大城がしゃがみ込んで心配そうに寄ってきた。
「キャプテン!! 大丈夫か!! 何があったんだああ!!」
(何なんだこいつは。今までこんなキャラじゃなかっただろ。水をあげただけでここまで態度が変わるのか……?)
「キャプテン! どうしたんですか!! 喋れますか!!」
「だいじょうぶだ……。タ……タマに球があたっただけだ……」
「タマに球!? 大変だ!! 誰か!! 早く氷をもってこい!!」
「いい! いらん……!」
「誰か! 救急車―――」
「いらん! 呼ぶな!!」
「でもっ……キャプテン、とっても痛そうにしているし」
「大丈夫だ……。少ししたら勝手に良くなる……」
「タマがつぶれていないか俺が確認します!」
「ヤメロ触るな!!」
俺が股間にあてがっている手をどけようと大城の手が近づいてきたのでもう片方の手で阻止した。
「でも!」
「落ち着け……。心配するな……。つぶれていない……。大丈夫だ……」
「キャプテン……」
大城は心配そうに俺の股間をじっと見ていたがだんだんとその表情は曇りだし、しだいに怒りが満ちていくのがわかった。
(何を考えているんだこいつは)
大城はスッと立ち上がり踵を返してみんなのほうを向いた。
「誰だああああ!! キャプテンの大事なタマをこんなにしたのは!!」
大城がブチギレて場の空気が一気に張り詰めた。
「大城! いいんだ。誰も悪くない……」
静まり返る部員たち。
「隠れていないで出て来いよ!」
「大城! いいんだって! これはただのアクシデントなんだ。強いて言えばよそ見をしていた俺がわる―――」
「俺だが?」
「……!!」
俺の言葉を遮るようにして部員たちの間からだるそうにスっと前に歩み出てきたやつがいた。
ワイルドセクシーなミディアムパーマをセンター分けしたこの色白の色男は3年のエースピッチャー田中蓮司だ。
まあまあ気性が荒く、耳にはピアス、ピチピチのノースリーブから伸びた逞しい右の二の腕にはメロンの3文字のタトゥーが彫られていて2年生からも恐れられている男だ。
睨み合う田中と大城。
一触即発の雰囲気にさらに場の空気が張り詰めた。
「サトシのタマにボールを当てたのは俺だが?」
「やめろ、蓮司……」
「なんか文句でもあんのか一年坊主? あ?」
「テメェ。この野郎!!」
「大城!!」
制止しようとする俺の声は届かず、大城は勢いよく田中の方に向かっていくとバッと両腕を広げて彼をぎゅっと強く抱きしめた。
「グハッ‼ ハハッ、なんだコイツ、俺と本気でやり合う気か?」
「キャプテンの大切な体に傷をつけるやつは誰であっても絶対に許さねえ!」
大城が田中の耳元で叫んだ。
「フハハハハ、おもしろい。いいだろう、相手になってやるよ。はぁああああああああああ!!!」
「うわあっ!」
ドスンッ!
田中は気合で大城の腕を跳ねのけて拘束を解き、大城はよろめいて後退し、こけて尻もちをついてしまった。
「前からおまえの生意気な態度には心底うんざりしていたんだよ。いい機会だ、このさい目上への態度ってもんをきっちりとわからせて―――」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「おいっまだ俺が喋って―――」
「ああああああああああああああああー!!」
大城は田中の言葉を遮って両腕を構えてイノシシのように田中に突進していったが、田中は身をくるりと回転させてかわし大城の背後にまわった。そして素早く両腕を広げて大城を後ろからぎゅっと強く抱きしめた。
「くっ……離せっ!!」
大城が必死にもがいて拘束を解こうとするが田中も離すまいと必死に抱きしめていた。力は互角と言ったところか。
「ふっ……1年にしちゃあ中々いい筋肉しているじゃねえか、へへッ。……でも離してやらねえよ。うっ……おまえにはたっぷりと天国を味わってもらわねえとな……へヘッ、ヘへヘヘヘッ」
「くっ……」
「まずは……、匂いを嗅いでやる……」
そう言って田中は大城の耳の裏から首筋あたりにそっと鼻を近づけてクンクンクンクンと嗅ぎまわした。
「あっ……あぁっ……」
「やめろっ、蓮司!」
もはや俺の声は蓮司たちには届かない。
「クンクン、クンクンクンクン。あぁ~いいねぇ~、汗のにおいがするねぇ~。クンクン、クンクン、あぁ~くさいねぇ~、青春だねぇ~。クンクン、ちょっとだけタイヤの匂いもするかなぁ~? クンクン、クンクン」
「くっ……やめろ、嗅ぐなああっ!! ……離せっ!! あっ……」
首筋にかかる田中の鼻息がくすぐったいのか大城の脚のチカラがだんだんとぬけていって、膝が地面についた。
それでも田中は大城を抱きしめクンクンをやめない。
大城はクネクネともがきながらだんだんと前かがみに倒れていって、しまいには地面におでこを付けてしまった。
それでも田中は大城に覆いかぶさったまましつこく匂いを嗅ぎ続けた。
「もっと激しいのが欲しいか? ああ!?」
そう言うと田中は大城の首や肩のあたりに顔をうずめてスーハ―スーハ―と音を鳴らして匂いを嗅ぎ始めた。
大城は地面に片方の頬をついて全く身動きが取れない。
スーハー、スーハー。
「いいよお、大城おお~、スーハースーハーいいにおいだよお~、スーハースーハー」
「うっ……あっ……」
「ハァハァ、どうした一年? ハァハァ、もう終わりか? さっきまでの威勢はどうした?」
「……クソッ」
「蓮司! もういいだろ! 許してやれ!」
「いや、まだだめだ。ハァハァ、こいつにはもっと愛情を込めてやらねえと」
そう言って田中は自身の顎を突き出して大城の肩にグリグリとめり込ませた。
「ぐあああああああああああああああああ!!」
「大城!!!」




